農業振興地域の整備に関する法律
法律第五十八号(昭四四・七・一)
目次
第一章 総則(第一条―第三条)
第二章 農業振興地域整備基本方針(第四条・第五条)
第三章 農業振興地域の指定等(第六条・第七条)
第四章 農業振興地域整備計画(第八条―第十三条)
第五章 土地利用に関する措置(第十四条―第十九条)
第六章 雑則(第二十条―第二十三条)
附則
第一章 総則
(目的)
第一条 この法律は、自然的経済的社会的諸条件を考慮して総合的に農業の振興を図ることが必要であると認められる地域について、その地域の整備に関し必要な施策を計画的に推進するための措置を講ずることにより、農業の健全な発展を図るとともに、国土資源の合理的な利用に寄与することを目的とする。
(農業振興地域の整備の原則)
第二条 この法律に基づく農業振興地域の指定及び農業振興地域整備計画の策定は、農業の健全な発展を図るため、土地の自然的条件、土地利用の動向、地域の人口及び産業の将来の見通し等を考慮し、かつ、国土資源の合理的な利用の見地からする土地の農業上の利用と他の利用との調整に留意して、農業の近代化のための必要な条件をそなえた農業地域を保全し及び形成すること並びに当該農業地域について農業に関する公共投資その他農業振興に関する施策を計画的に推進することを旨として行なうものとする。
(定義)
第三条 この法律において[農用地等」とは、次に掲げる土地をいう。
一 耕作の目的又は主として耕作若しくは養畜の業務のための採草若しくは家畜の放牧の目的に供される土地
二 木竹の生育に供され、あわせて耕作又は養畜の業務のための採草又は家畜の放牧の目的に供される土地(前号に掲げるものを除く。)
三 前二号に掲げる土地の保全又は利用上必要な施設の用に供される土地
第二章 農業振興地域整備基本方針
(農業振興地域整備基本方針の作成)
第四条 都道府県知事は、政令で定めるところにより、当該都道府県における農業振興地域の指定及び農業振興地域整備計画の策定に関し農業振興地域整備基本方針を定めるものとする。
2 農業振興地域整備基本方針においては、次に掲げる事項を定めるものとする。
一 農業振興地域の指定の基準に関する事項
二 農業振興地域として指定することを相当とする地域の位置及び規模に関する事項
三 農業振興地域における土地の農業上の用途区分の基準に関する事項
四 農業振興地域における農業生産の基盤の整備及び開発、農地保有の合理化並びに農業の近代化のための施設の整備に関する基本的な事項
3 農業振興地域整備基本方針は、国土総合開発計画、首都圏整備計画、近畿圏整備計画、中部圏開発整備計画、北海道総合開発計画、新産業都市建設基本計画、工業整備特別地域整備基本計画、山村振興計画、離島振興計画その他法律の規定による地域振興に関する計画及び道路、河川、鉄道、港湾、空港等の施設に関する国の計画並びに都市計画との調和が保たれたものでなければならない。
4 農林大臣は、都道府県知事に対し、農業振興地域整備基本方針の作成について、国の農業に関する施策の適正な実施の見地から必要な勧告をするものとする。
5 都道府県知事は、農業振興地域整備基本方針を定めようとするときは、政令で定めるところにより、農林大臣の承認を受けなければならない。
6 農林大臣は、前項の承認をしようとするときは、国の関係行政機関の長に協議しなければならない。
7 都道府県知事は、農業振興地域整備基本方針を定めたときは、遅滞なく、これを公表しなければならない。
(農業振興地域整備基本方針の変更)
第五条 都道府県知事は、経済事情の変動その他情勢の推移により必要が生じたときは、農業振興地域整備基本方針を変更するものとする。
2 前条第四項から第七項までの規定は、農業振興地域整備基本方針の変更について準用する。
第三章 農業振興地域の指定等
(農業振興地域の指定)
第六条 都道府県知事は、農業振興地域整備基本方針に基づき、一定の地域を農業振興地域として指定するものとする。
2 農業振興地域の指定は、その自然的経済的社会的諸条件を考慮して一体として農業の振興を図ることが相当であると認められる地域で、次に掲げる要件のすべてをそなえるものについて、するものとする。
一 その地域内にある土地の自然的条件及びその利用の動向からみて、農用地等として利用すべき相当規模の土地があること。
二 その地域における農業就業人口その他の農業経営に関する基本的条件の現況及び将来の見通しに照らし、その地域内における農業の生産性の向上その他農業経営の近代化が図られる見込みが確実であること。
三 国土資源の合理的な利用の見地からみて、その地域内にある土地の農業上の利用の高度化を図ることが相当であると認められること。
3 農業振興地域の指定は、都市計画法(昭和四十三年法律第百号)第七条第一項の市街化区域と定められた区域で、同法第二十三条第一項の規定による協議がととのつたものについては、してはならない。
4 都道府県知事は、農業振興地域を指定しようとするときは、関係市町村に協議しなければならない。
5 農業振興地域の指定は、農林省令で定めるところにより、公告してしなければならない。
6 都道府県知事は、農業振興地域を指定したときは、農林省令で定めるところにより、遅滞なく、その旨を農林大臣に報告しなければならない。
(農業振興地域の区域の変更等)
第七条 都道府県知事は、農業振興地域整備基本方針の変更により又は経済事情の変動その他情勢の推移により必要が生じたときは、遅滞なく、その指定した農業振興地域の区域を変更し、又はその指定を解除するものとする。
2 前条第四項から第六項までの規定は、前項の規定による変更又は解除について準用する。
第四章 農業振興地域整備計画
(市町村の定める農業振興地域整備計画)
第八条 都道府県知事の指定した一の農業振興地域の区域の全部又は一部がその区域内にある市町村は、政令で定めるところにより、その区域内にある農業振興地域について農業振興地域整備計画を定めなければならない。
2 農業振興地域整備計画においては、次に掲げる事項を定めるものとする。
一 農用地等として利用すべき土地の区域(以下「農用地区域」という。)及びその区域内にある土地の農業上の用途区分
二 農業生産の基盤の整備及び開発に関する事項
三 農地保有の合理化のための農用地等及び農用地等とすることが適当な土地に関する権利の取得の円滑化に関する事項
四 農業の近代化のための施設の整備に関する事項
3 市町村は、第一項の規定により農業振興地域整備計画を定めようとするときは、都道府県知事の認可を受けなければならない。
(都道府県の定める農業振興地域整備計画)
第九条 都道府県は、政令で定めるところにより、前条第二項第二号から第四号までに掲げる事項で受益の範囲が広域にわたるものその他当該都道府県における農業振興地域を通ずる広域の見地から定めることが相当であるものを内容とする農業振興地域整備計画を定めることができる。
2 都道府県は、前項の規定により農業振興地域整備計画を定めようとするときは、関係市町村の同意を得なければならない。
(農業振興地域整備計画の基準)
第十条 農業振興地域整備計画は、農業振興地域整備基本方針に適合するとともに第四条第三項に規定する計画との調和が保たれたものであり、かつ、当該農業振興地域の自然的経済的社会的諸条件を考慮して、当該農業振興地域において総合的に農業の振興を図るため必要な事項を一体的に定めるものでなければならない。
2 市町村の定める農業振興地域整備計画は、議会の議決を経て定められた当該市町村の建設に関する基本構想に即するものでなければならない。
3 市町村の定める農業振興地域整備計画のうち第八条第二項第一号に掲げる事項に係るもの(以下「農用地利用計画」という。)は、当該農業振興地域内にある農用地等及び農用地等とすることが適当な土地で、その土地の位置その他の条件及び当該農業振興地域における農業経営の動向からみて当該農業振興地域において農業の振興を図るための措置を総合的かつ計画的に実施するためにはその土地の農業上の利用を確保することが必要であるものにつき、当該農業振興地域における農業生産の基盤の保全、整備及び開発の見地から必要な限度において区分する農業上の用途を指定して、定めるものでなければならない。
(農用地利用計画の決定手続)
第十一条 市町村は、農業振興地域整備計画を定めようとするときは、その旨を公告し、当該農業振興地域整備計画のうち農用地利用計画の案をその公告の日から三十日間縦覧に供しなければならない。
2 前項の農用地利用計画に係る農用地区域内にある土地の所有者その他その土地に関し権利を有する者は、当該農用地利用計画の案に対して異議があるときは、同項に規定する縦覧期間満了の日の翌日から起算して十五日以内に市町村にこれを申し出ることができる。
3 市町村は、前項の規定による異議の申出を受けたときは、第一項に規定する縦覧期間満了後六十日以内にこれを決定しなければならない。
4 前項の規定による決定に対して不服がある申出人は、その決定があつた日の翌日から起算して三十日以内に都道府県知事に対し審査を申し立てることができる。
5 都道府県知事は、前項の規定による審査の申立てを受理したときは、審査の申立てを受理した日から六十日以内にこれを裁決しなければならない。
6 第二項の規定による異議の申出又は第四項の規定による審査の申立てには、それぞれ、行政不服審査法(昭和三十七年法律第百六十号)中異議申立て又は審査請求に関する規定(同法第十四条第一項本文及び第四十五条を除く。)を準用する。
7 市町村は、第二項の規定による異議の申出がないとき、異議の申出があつた場合においてそのすべてについて第三項の規定による決定があり、かつ、第四項の規定による審査の申立てがなかつたとき、又は審査の申立てがあつた場合においてそのすべてについて第五項の規定による裁決があつたときでなければ、第八条第三項の認可の申請をしてはならない。
8 第三項又は第五項の規定による決定又は裁決については、行政不服審査法による不服申立てをすることができない。農用地利用計画についての不服を理由とする第八条第三項の認可についての不服申立てについても、同様とする。
9 市町村は、国有地を含めて農用地区域を定めようとするときは、その国有地を所管する各省各庁の長(国有財産法(昭和二十三年法律第七十三号)第四条第二項に規定する各省各庁の長をいう。次項において同じ。)の承認を受けなければならない。
10 各省各庁の長は、前項の承認の申請があつた場合において、その国有地についての長期にわたる利用方針を勘案して、その国有地を農用地等としての利用に供することが適当であると認めるときは、その承認をするものとする。
(農業振興地域整備計画の公告等)
第十二条 都道府県又は市町村は、農業振興地域整備計画を定めたときは、遅滞なく、その旨を公告し、かつ、都道府県にあつては農林大臣及び関係市町村長に、市町村にあつては都道府県知事を経由して農林大臣に、当該農業振興地域整備計画書の写しを送付しなければならない。
2 都道府県知事又は市町村長は、農林省令で定めるところにより、当該農業振興地域整備計画書又はその写しを当該都道府県又は市町村の事務所において縦覧に供しなければならない。
(農業振興地域整備計画の変更)
第十三条 都道府県又は市町村は、農業振興地域整備基本方針の変更若しくは農業振興地域の区域の変更により又は経済事情の変動その他情勢の推移により必要が生じたときは、政令で定めるところにより、遅滞なく、農業振興地域整備計画を変更しなければならない。市町村の定めた農業振興地域整備計画が第九条第一項の規定による農業振興地域整備計画の決定により変更を必要とするに至つたときも、同様とする。
2 都道府県知事は、必要があると認めるときは、市町村に対し、当該市町村の定めた農業振興地域整備計画について前項の規定による変更をするための必要な措置をとるべきことを指示することができる。
3 第八条第三項及び第十一条の規定は市町村が行なぅ第一項の規定による変更(政令で定める軽微な変更を除く。)について、第九条第二項の規定は都道府県が行なう第一項の規定による変更(政令で定める軽微な変更を除く。)について、前条の規定は同項の規定による変更について準用する。この場合において、同条第二項中「当該農業振興地域整備計画書」とあるのは、「当該変更後の農業振興地域整備計画書と読み替えるものとする。
第五章 土地利用に関する措置
(土地利用についての勧告)
第十四条 市町村長は、農用地区域内にある土地が農用地利用計画において指定した用途に供されていない場合において、農業振興地域整備計画の達成のため必要があるときは、その土地の所有者又はその土地について所有権以外の権原に基づき使用及び収益をする者に対し、その土地を当該農用地利用計画において指定した用途に供すべき旨を勧告することができる。
2 市町村長は、前項の規定による勧告をした場合において、その勧告を受けた者がこれに従わないとき、又は従う見込みがないと認めるときは、その者に対し、その土地を農用地利用計画において指定した用途に供するためその土地について所有権又は使用及び収益を目的とする権利を取得しようとする者で市町村長の指定を受けたものとその土地についての所有権の移転又は使用及び収益を目的とする権利の設定若しくは移転に関し協議すべき旨を勧告することができる。
(都道府県知事の調停)
第十五条 市町村長が前条第二項の規定による勧告をした場合において、その勧告に係る協議がととのわず、又は協議をすることができないときは、同項の指定を受けた者は、その勧告があつた日から起算して二箇月以内に、農林省令で定めるところにより、都道府県知事に対し、その協議に係る所有権の移転又は使用及び収益を目的とする権利の設定若しくは移転につき必要な調停をなすべき旨を申請することができる。
2 都道府県知事は、前項の規定による申請があつたときは、すみやかに調停を行なうものとする。
3 都道府県知事は、第一項の調停を行なう場合には、当事者の意見をきくとともに、関係市町村長に対し助言、資料の提供その他必要な協力を求めて、調停案を作成しなければならない。
4 都道府県知事は、前項の規定により調停案を作成したときは、これを当事者に示してその受諾を勧告するものとする。
(国及び地方公共団体の責務)
第十六条 国及び地方公共団体は、農用地利用計画を尊重して、農用地区域内にある土地の農業上の利用が確保されるように努めなければならない。
(農地等の転用の制限)
第十七条 農林大臣及び都道府県知事は、農用地区域内にある農地法(昭和二十七年法律第二百二十九号)第二条第一項に規定する農地及び採草放牧地についての同法第四条第一項、第五条第一項及び第七十三条第一項の許可に関する処分を行なうに当たつては、これらの土地が農用地利用計画において指定された用途以外の用途に供されないようにしなければならない。
(農地等についての権利の取得のあつせん)
第十八条 農業委員会は、農業委員会等に関する法律(昭和二十六年法律第八十八号)第六条第二項の規定に基づき、農用地区域内にある同条第一項の農地等について、所有権の移転又は使用及び収益を目的とする権利の設定若しくは移転のあつせんを行なうに当たつては、農業振興地域整備計画に基づき、これらの土地に関する権利の取得が農業経営の規模の拡大、農地の集団化その他農地保有の合理化に資することとなるようにしなければならない。
(適用除外)
第十九条 農用地区域内にある土地であつて、土地収用法(昭和二十六年法律第二百十九号)第二十六条第一項の規定による告示(他の法律の規定による告示又は公告で同項の規定による告示とみなされるものを含む。)があり、かつ、その告示に係る事業の用に供されるものについては、この章の規定を適用しない。
第六章 雑則
(援助)
第二十条 国及び都道府県は、農業振興地域整備計画の作成及びその達成のために必要な助言、指導、資金の融通のあつせん、経費の補助その他の援助を行なうように努めるものとする。
(生活環境施設の整備)
第二十一条 国及び地方公共団体は、農業振興地域整備計画の達成に資するため、当該農業振興地域における良好な生活環境を確保するための施設の整備を促進するように努めるものとする。
(国の普通財産の譲渡等)
第二十二条 国は、農用地区域内において農用地等としての利用に供するため必要があると認めるときは、普通財産を譲り渡し、又は貸し付けることができる。
2 国は、林業基本法(昭和三十九年法律第百六十一号)第四条の規定の趣旨に即し、農業振興地域における農業の振興に資するため積極的に国有林野の活用を図るように努めるものとする。
(土地の譲渡しに係る所得税等の軽減)
第二十三条 個人がその所有する土地を第十四条第二項の規定による勧告に係る協議、第十五条第一項の調停又は第十八条の規定による農業委員会のあつせんによつて譲り渡した場合には、租税特別措置法(昭和三十二年法律第二十六号)の定めるところにより、その譲渡しに係る所得税法(昭和四十年法律第三十三号)第三十三条第一項に規定する譲渡所得についての所得税を軽減する。
2 前項に規定する協議、調停又はあつせんにより取得した土地の所有権の取得の登記については、租税特別措置法の定めるところにより、登録免許税を軽減する。
附 則
(施行期日)
1 この法律は、公布の日から起算して九十日をこえない範囲内において政令で定める日から施行する。
(農林省設置法の一部改正)
2 農林省設置法(昭和二十四年法律第百五十三号)の一部を次のように改正する。
第九条第一項第八号及び第三十六条第五号中「農山漁村」を「農業振興地域整備計画その他農山漁村」に改める。
(大蔵・農林・内閣総理大臣署名)