原子爆弾被爆者に対する特別措置に関する法律

法律第五十三号(昭四三・五・二〇)

 (目的)

第一条 この法律は、広島市及び長崎市に投下された原子爆弾の被爆者であつて、原子爆弾の傷害作用の影響を受け、今なお特別の状態にあるものに対し、特別手当の支給等の措置を講ずることにより、その福祉を図ることを目的とする。

 (特別手当の支給)

第二条 都道府県知事は、原子爆弾被爆者の医療等に関する法律(昭和三十二年法律第四十一号。以下「原子爆弾被爆者医療法」という。)第八条第一項の認定を受けた者であつて、同項の認定に係る負傷又は疾病の状態にあるものに対し、特別手当を支給する。

2 前項に規定する者は、特別手当の支給を受けようとするときは、同項に規定する要件に該当することについて、都道府県知事の認定を受けなければならない。

3 特別手当は、月を単位として支給するものとし、その額は、一月につき、一万円とする。

4 特別手当の支給は、第二項の認定を受けた者が同項の認定の申請をした日の属する月の翌月から始め、第一項に規定する要件に該当しなくなつた日の属する月で終わる。

 (特別手当の支給の制限)

第三条 特別手当は、前条第一項に規定する者、その配偶者(婚姻の届出をしていないが、事実上婚姻関係と同様の事情にある者を含む。以下同じ。)又は民法(明治二十九年法律第八十九号)第八百七十七条第一項に定める扶養義務者で前条第一項に規定する者の生計を維持するものの所得につき所得税法(昭和四十年法律第三十三号)の規定により計算した前年分の所得税の額(この所得税の額を計算する場合には、同法第九十二条及び第九十五条の規定を適用しないものとする。以下同じ。)が政令で定める額をこえるときは、その年の六月から翌年の五月までは、政令の定めるところにより、その全部又は一部を支給しない。

2 前項の規定は、前条第一項に規定する者が同条第二項の認定の申請をした場合において、その申請をした日の属する月が一月、二月、三月又は四月であるときは、前項中「前年分」とあるのは「前前年分」と、「その年の六月から翌年の五月まで」とあるのは「前条第二項の認定の申請をした日の属する月の翌月からその年の五月まで」と読み替えて適用する。

 (届出)

第四条 第二条第二項の認定を受けた者は、厚生省令の定めるところにより、都道府県知事に対し、同条第一項に規定する負傷又は疾病の状態、前条第一項に規定する所得税の額その他の厚生省令で定める事項を届け出なければならない。

2 都道府県知事は、特別手当の支給を受けている者が正当な理由がなくて前項の規定による届出をしないときは、その支払を一時差しとめることができる。

 (健康管理手当の支給)

第五条 都道府県知事は、原子爆弾被爆者医療法第十四条の二第一項に規定する特別被爆者(以下単に「特別被爆者」という。)であつて、造血機能障害、肝臓機能障害その他の厚生省令で定める障害を伴う疾病(原子爆弾の放射能の影響によるものでないことが明らかであるものを除く。)にかかつているもののうち、次の各号のいずれかに該当するものに対し、健康管理手当を支給する。ただし、その者が特別手当の支給を受けている場合は、この限りでない。

 一 六十五歳以上の者

 二 厚生省令で定める範囲の身体上の障害がある者

 三 配偶者のない女子又はこれに準ずるものとして厚生省令で定める女子であつて、十八歳未満の子、孫若しくは弟妹又は厚生省令で定める程度の廃疾の状態にある二十歳未満の子、孫若しくは弟妹を扶養しているもの

2 前項に規定する者は、健康管理手当の支給を受けようとするときは、同項に規定する要件に該当することについて、都道府県知事の認定を受けなければならない。

3 都道府県知事は、前項の認定を行なう場合には、あわせて当該疾病が継続すると認められる期間を定めるものとする。この場合においては、その期間は、第一項に規定する疾病の種類ごとに厚生大臣が定める期間内において定めるものとする。

4 健康管理手当は、月を単位として支給するものとし、その額は、一月につき、三千円とする。

5 健康管理手当の支給は、第二項の認定を受けた者が同項の認定の申請をした日の属する月の翌月から始め、その日から起算してその者につき第三項の規定により定められた期間が満了する日(その期間が満了する日前に第一項に規定する要件に該当しなくなつた場合にあつては、その該当しなくなつた日)の属する月で終わる。


 (準用)

第六条 第三条及び第四条の規定は、健康管理手当について準用する。


 (医療手当の支給)

第七条 都道府県知事は、原子爆弾被爆者医療法第二条に規定する被爆者であつて、同法第七条第一項の規定による医療の給付を受けているものに対し、その給付を受けている期間について、政令の定めるところにより、医療手当を支給する。


 (医療手当の支給の制限)

第八条 医療手当は、前条に規定する者、その配偶者又は民法第八百七十七条第一項に定める扶養義務者で前条に規定する者の生計を維持するものの所得につき所得税法の規定により計算した前年分(一月から四月までの間に受けた医療の給付に係る医療手当については、前前年分とする。)の所得税の額が政令で定める額をこえるときは、支給しない。


 (介護手当の支給)

第九条 都道府県知事は、特別被爆者であつて、厚生省令で定める範囲の精神上又は身体上の障害(原子爆弾の傷害作用の影響によるものでないことが明らかであるものを除く。)により介護を要する状態にあり、かつ、介護を受けているものに対し、その介護を受けている期間について、政令の定めるところにより、介護手当を支給する。ただし、その者が介護者に対し介護に要する費用を支出しないで介護を受けている期間については、この限りでない。

2 前条の規定は、介護手当について準用する。


 (費用の支弁等)

第十条 特別手当、健康管理手当、医療手当及び介護手当の支給並びにこの法律又はこの法律に基づく命令の規定により都道府県知事が行なう事務の処理に要する費用は、当該都道府県の支弁とする。

2 国は、政令の定めるところにより、前項の規定により都道府県が支弁する費用(介護手当に係るものを除く。)を当該都道府県に交付する。

3 国は、政令の定めるところにより、第一項の規定により都道府県が支弁する費用のうち、介護手当の支給に要する費用についてはその十分の八を、介護手当に係る事務の処理に要する費用についてはその二分の一を負担する。


 (不正利得の徴収)

第十一条 都道府県知事は、偽りその他不正の手段により特別手当、健康管理手当、医療手当又は介護手当(以下「特別手当等」という。)の支給を受けた者があるときは、国税徴収の例により、その者から、その支給を受けた額に相当する金額の全部又は一部を徴収することができる。

2 前項の規定による徴収金の先取特権の順位は、国税及び地方税に次ぐものとする。


 (受給権の保護)

第十二条 特別手当等の支給を受ける権利は、譲り渡し、担保に供し、又は差し押えることができない。


 (公課の禁止)

第十三条 租税その他の公課は、特別手当等として支給を受けた金額を標準として、課することができない。


 (戸籍事項の無料証明)

第十四条 市町村長(地方自治法(昭和二十二年法律第六十七号)第二百五十二条の十九第一項の指定都市においては、区長とする。)は、第二条第一項又は第五条第一項に規定する者に対して、当該市町村の条例の定めるところにより、これらの者の戸籍に関し、無料で証明を行なうことができる。


 (広島市及び長崎市に関する特例)

第十五条 この法律中「都道府県知事」又は「都道府県」とあるのは、広島市又は長崎市については、「市長」又は「市」と読み替えるものとする。


 (再審査請求)

第十六条 広島市又は長崎市の長が行なう特別手当等の支給に関する処分についての審査請求の裁決に不服がある者は、厚生大臣に対して再審査請求をすることができる。


 (実施命令)

第十七条 この法律に特別の規定があるものを除くほか、この法律の実施のための手続その他その執行について必要な細則は、厚生省令で定める。


   附 則


 (施行期日)

1 この法律は、昭和四十三年九月一日から施行する。


 (原子爆弾被爆者医療法の一部改正)

2 原子爆弾被爆者医療法の一部を次のように改正する。

  目次中「第十四条の八」を「第十四条の七」に改める。

  第十四条の八を削る。

  第二十条中「基く」を「基づく」に改め、「及び医療手当の支給に要する費用」を削る。

  第二十条の二中「又は医療手当の支給」を削る。


 (原子爆弾被爆者医療法の一部改正に伴う経過措置)

3 この法律の施行前に原子爆弾被爆者医療法第七条第一項の規定により医療の給付を受けた被爆者に対する医療手当の支給については、なお従前の例による。


 (地方財政法の一部改正)

4 地方財政法(昭和二十三年法律第百九号)の一部を次のように改正する。

  第十条第八号の二の次に次の一号を加える。

  八の三 原子爆弾の被爆者に対する介護手当の支給及び介護手当に係る事務の処理に要する経費

 (厚生省設置法の一部改正)

5 厚生省設置法(昭和二十四年法律第百五十一号)の一部を次のように改正する。

  第九条第三号の次に次の一号を加える。

  三の二 原子爆弾被爆者に対する特別措置に関する法律(昭和四十三年法律第五十三号)を施行すること。

(大蔵・厚生・自治・内閣総理大臣署名) 

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