緊急失業対策法
法律第八十九号(昭二四・五・二〇)
目次
第一章 総則(第一条―第三条)
第二章 失業対策事業(第四条―第十一条)
第三章 公共事業(第十二条―第十六条)
第四章 雑則(第十七条―第二十二条)
附則
第一章 総則
(法律の目的)
第一条 この法律は、多数の失業者の発生に対処し、失業対策事業及び公共事業にできるだけ多数の失業者を吸収し、その生活の安定を図るとともに、経済の興隆に寄与することを目的とする。
(定義)
第二条 この法律で「失業対策事業」とは、失業者に就業の機会を与えることを主たる目的として、労働大臣が樹立する計画及びその定める手続に従つて、国自ら又は国庫の補助により地方公共団体等が実施する事業をいう。
2 この法律で「公共事業」とは、経済安定本部総務長官の認証を受けて、国又は地方公共団体等が実施する公共的な建設及び復旧の事業をいう。
第三条 この法律で「事業主体」とは、失業対策事業又は公共事業を計画実施する国又は地方公共団体等をいう。
2 この法律で「施行主体」とは、事業主体との請負契約その他の契約に基いて、公共事業を施行する者をいう。
第二章 失業対策事業
(失業対策事業の要件)
第四条 失業対策事業は、左の各号のすべてに該当する事業でなければならない。
一 できるだけ多くの労働力を使用する事業
二 多数の失業者が発生し、又は発生するおそれのある地域において施行される事業
三 失業者の情況に応じて、これを吸収するに適当な事業
四 事業費のうち労力費の占める割合が、労働大臣の定める率以上のものである事業
五 雇用情況の変化に応じて、容易にその規模を変更し、又は停止することができる事業
(失業状勢の調査)
第五条 政府は、失業の状勢を調査するため、失業状況の分析及び失業者数の増減の測定に関し、必要な措置を講じなければならない。
(失業対策事業のための一般的計画の樹立)
第六条 労働大臣は、全国にわたる雇用及び失業の状勢に関する調査の結果に基いて、多数の失業者が発生し、又は発生するおそれがあると認める場合には、あらかじめ、その地域に必要な失業対策事業のための一般的計画を樹立しなければならない。
(失業対策事業の種目等の決定)
第七条 労働大臣は、前条の計画を樹立した場合には、失業対策事業に吸収すべき失業者の所在地域、数及び情況等を経済安定本部総務長官に対し通知しなければならない。
2 経済安定本部総務長官は、前項の通知を受けた場合には、その失業者を吸収するのに適当であり、且つ、できるだけ経済的効果のある事業を労働大臣に対し提示しなければならない。
3 労働大臣及び経済安定本部総務長官は、前二項の手続を経て、失業対策事業の事業主体、種目及び規模等を定めておかなければならない。
(失業対策事業の開始等の決定)
第八条 労働大臣は、失業対策事業について、事業の開始又は停止の時期等を定めるものとする。
(失業対策事業の費用)
第九条 失業対策事業は、国が、自らの費用で、又は地方公共団体等が、国庫から全部若しくは一部の補助を受けて、実施する。
(失業対策事業に使用する労働者)
第十条 失業対策事業の事業主体が使用する労働者は、公共職業安定所において紹介することが困難な技術者、技能者及び監督者を除いて、公共職業安定所の紹介する失業者でなければならない。
2 労働大臣は、失業対策事業に使用される失業者に支払われる賃金の額を定める。この場合には、同一地域において同一職種に従事する労働者に通常支払われる賃金の額より低く定めなければならない。
(失業対策事業における雇入の拒否)
第十一条 失業対策事業の事業主体は、公共職業安定所の紹介する失業者が、その者の能力からみて不適当と認める場合には、当該失業者の雇入を拒むことができる。
第三章 公共事業
(失業者吸収率の決定)
第十二条 労働大臣は、経済安定本部総務長官と協議の上、公共事業の事業種別に従い、職種別又は地域別に、当該事業に使用される労働者の数とそのうちの失業者の数との比率を定めることができる。
(失業者吸収率による失業者の雇入)
第十三条 前条の規定による比率(以下「失業者吸収率」という。)の定められている公共事業の事業主体は、公共職業安定所の紹介により、つねに失業者吸収率に該当する数の失業者を雇い入れていなければならない。
2 公共事業の事業主体は、前項の規定により雇入を必要とする数の失業者を公共職業安定所の紹介により雇い入れることが困難な場合には、その困難な数の労働者を、公共職業安定所の書面による承諾を得て、直接雇い入れることができる。
3 第一項の規定は、公共事業の事業主体が、失業者吸収率に該当する数以上の失業者を公共職業安定所の紹介により雇い入れることを妨げるものではない。
(公共事業の労働者数の通知)
第十四条 公共事業の事業主体は、労働大臣の定めるところにより、事業開始前及び四半期ごとに、当該事業に使用すべき労働者の数を、職種別に、事業実施の地域を管轄する公共職業安定所に通知しなければならない。
(公共事業における雇入の拒否)
第十五条 第十一条の規定は、公共事業の事業主体が失業者の雇入を拒む場合に準用する。
(施行主体の失業者の雇入等)
第十六条 第十三条から第十五条までの規定は、施行主体に準用する。
2 事業主体と施行主体との間に締結する公共事業の施行に関する契約には、施行主体が前項の規定を遵守する旨の条項を加えなければならない。
第四章 雑則
(違反事項の通知)
第十七条 公共職業安定所長は、事業主体又は施行主体が、この法律又はこの法律の規定に基いて発する命令に違反すると認める場合には、文書で、当該事業主体又は施行主体にその旨を通知しなければならない。その文書には、当該事業主体又は施行主体の違反事項を明記しなければならない。
(違反事項の進達)
第十八条 前条の通知を受けた事業主体又は施行主体が、その通知を受けた日から二十日以内に当該違反事項を是正しない場合には、公共職業安定所長は、労働大臣に対しその旨を進達しなければならない。
(失業対策事業の停止等)
第十九条 前条の進達が失業対策事業についてされた場合には、労働大臣は、違反事項を審査し、その進達に正当な理由があると認めるときは、事業主体に対し、当該事業の全部又は一部について事業の停止又は補助金の返還を命ずることができる。
(公共事業の違反事項是正の命令等)
第二十条 第十八条の進達が公共事業についてされた場合には、労働大臣は、経済安定本部総務長官に対し、文書で、当該違反事項の是正に必要な措置をなすべきことを請求することができる。
2 経済安定本部総務長官は、前項の請求を受けた場合には、違反事項を審査し、その請求に正当な理由があると認めるときは、当該事業主体に対し、違反事項を是正するよう命じ、又は必要により、当該事業の全部又は一部について次期の認証を拒否しなければならない。
(報告の請求)
第二十一条 行政庁は、必要があると認める場合には、事業主体又は施行主体から、労働者の雇入又は離職の状況等に関し、必要な報告をさせることができる。
(施設の臨検等)
第二十二条 行政庁は、この法律の実施状況を調査するため必要があると認める場合には、当該官吏をして、失業対策事業又は公共事業の事業場その他の施設に臨み、帳簿及び書類の提出を求め、又は使用者若しくは労働者に対して質問させることができる。
2 前項の規定による職権を行う場合には、当該官吏は、その身分を証明する証票を携帯しなければならない。
附 則
この法律は、公布の日から施行する。
(内閣総理・大蔵・労働・建設大臣署名)