国際協定の締結等に伴う漁業離職者に関する臨時措置法

法律第九十四号(昭五二・一二・二六)

 (目的)

第一条 この法律は、漁業をめぐる国際環境が急激に変化している状況下における国際協定の締結等の事態に対処するための漁船の隻数の縮減に伴い、一時に多数の漁業離職者が発生することが見込まれること等の事情にかんがみ、再就職の促進等のための特別の措置を講じ、もつて漁業離職者の職業及び生活の安定に資することを目的とする。


 (定義)

第二条 この法律において「特定漁業」とは、我が国の漁業者が行う漁業について操業区域、漁獲量等に関し国際協定等により規制が強化されたことに対処するため、緊急に漁船の隻数を縮減することを余儀なくされ、これに伴い一時に相当数の離職者が発生するものとして政令で定める業種に係る漁業をいう。

2 この法律において「漁業離職者」とは、特定漁業に従事していた者であつて、前項に規定する国際協定等に対処するために漁業者が実施する漁船の隻数の縮減(以下「減船」という。)に伴い離職を余儀なくされたもののうち、現に失業しており、又はその職業が著しく不安定であるため失業と同様の状態にあると認められるものをいう。


 (職業訓練)

第三条 労働大臣は、漁業離職者の再就職を容易にするため、必要な職業訓練の実施に関し、訓練時期、訓練期間、職業訓練に係る職種、委託訓練、職業訓練施設、受講定員等について特別の措置を講ずるものとする。

2 前項の措置に係る専修職業訓練校における職業訓練に要する費用については、国は、職業訓練法(昭和四十四年法律第六十四号)第九十九条の規定による負担を行うほか、予算の範囲内において、政令で定めるところにより、その一部を負担することができる。


 (漁業離職者求職手帳)

第四条 公共職業安定所長は、漁業離職者で次の各号に該当すると認定したものに対し、その者の申請に基づき、漁業離職者求職手帳(以下「手帳」という。)を発給する。

 一 当該離職の日が、当該減船の必要が生じた日として当該特定漁業ごとに労働省令で定める日から、当該減船が実施された日の翌日から起算して一週間を経過する日までの間(その期間内に離職しなかつたことについて特別の事情があると公共職業安定所長が認めたときは、その事情がやんだ日の翌日から起算して一週間を経過する日までの間)にあること。

 二 当該離職の日まで一年以上引き続き当該減船に係る漁業者の行う特定漁業に従事していたこと又はこれに相当するものとして労働省令で定める状態にあつたこと。

 三 労働の意思及び能力を有すること。

 四 当該離職の日以後において安定した職業に就いたことがないこと。

2 前項第一号の労働省令の制定又は改正に当たつては、労働大臣は、農林大臣の意見を聴かなければならない。

3 手帳は、労働省令で定める期間、その効力を有する。

4 手帳は、公共職業安定所長が、当該手帳の発給を受けた者が次の各号のいずれかに該当すると認めたときは、その効力を失う。

 一 労働の意思又は能力を有しなくなつたとき。

 二 新たに安定した職業に就いたとき。

 三 次条第三項の規定に違反して再度就職指導を受けなかつたとき。

 四 偽りその他不正の行為により、第七条第一項又は第二項の給付金(事業主に対して支給するものを除く。)の支給を受け、又は受けようとしたとき。

5 前項の場合においては、公共職業安定所長は、その旨をその者に通知する。

6 第一項及び第三項から前項までに定めるもののほか、手帳の発給の申請、発給、返納その他手帳に関し必要な事項は、労働省令で定める。


 (就職指導)

第五条 公共職業安定所長は、手帳の発給を受けた者(以下「手帳所持者」という。)に対し、その者の再就職を促進するために必要な職業指導(以下「就職指導」という。)を行うものとする。

2 公共職業安定所長は、手帳所持者に対し、公共職業訓練施設の行う職業訓練を受けることその他その者の再就職を促進するために必要な事項を指示することができる。

3 手帳所持者は、労働省令で定めるところにより、定期的に、公共職業安定所長が指定した日に公共職業安定所に出頭し、就職指導を受けなければならない。ただし、次の各号に掲げるいずれかの理由により公共職業安定所に出頭することができなかつたときは、この限りでない。

 一 疾病又は負傷

 二 公共職業安定所の紹介による求人者との面接

 三 前項の規定により公共職業安定所長の指示した公共職業訓練施設の行う職業訓練の受講

 四 天災その他やむを得ない理由

 五 その他労働省令で定める理由


 (就職促進指導官)

第六条 就職指導は、職業安定法(昭和二十二年法律第百四十一号)第九条の二第一項の就職促進指導官に行わせるものとする。


 (給付金の支給等)

第七条 国は、他の法令の規定に基づき支給するものを除くほか、手帳所持者がその有する能力に適合する職業に就くことを容易にし、及び促進するため、手帳所持者又は事業主に対し、次の各号に掲げる給付金を支給することができる。

 一 公共職業安定所長の指示した公共職業訓練施設の行う職業訓練を受けるために待期している間についての訓練待期手当又は手帳所持者の再就職の促進を図るための就職促進手当

 二 広範囲の地域にわたる求職活動に要する費用に充てるための広域求職活動費

 三 就職又は知識若しくは技能の習得をするための住所又は居所の変更に要する費用に充てるための移転費

 四 前各号に掲げる給付金以外の給付金であつて、政令で定めるもの

2 都道府県は、他の法令の規定に基づき支給するものを除くほか、手帳所持者がその有する能力に適合する職業に就くことを容易にし、及び促進するため、手帳所持者又は事業主に対し、次の各号に掲げる給付金を支給することができる。

 一 公共職業訓練施設の行う職業訓練又は作業環境に適応させる訓練を受けることを容易にするための訓練手当

 二 手帳所持者を作業環境に適応させる訓練を行うことを促進するための職場適応訓練費

3 国は、労働大臣が定める基準に従い、都道府県に対し、前項第一号に掲げる訓練手当に要する費用の三分の二を、同項第二号に掲げる職場適応訓練費に要する費用の二分の一を、それぞれ負担する。

4 第一項及び第二項の規定による給付金の支給に関し必要な基準は、労働省令で定める。


 (給付金の支給を受ける権利の譲渡等の禁止)

第八条 前条第一項又は第二項の給付金の支給を受けることとなつた者の当該支給を受ける権利は、譲り渡し、担保に供し、又は差し押さえることができない。ただし、事業主に係る当該権利については、国税滞納処分(その例による処分を含む。)により差し押さえる場合は、この限りでない。


 (公課の禁止)

第九条 租税その他の公課は、第七条第一項及び第二項の給付金(事業主に対して支給するものを除く。)を標準として課することができない。


 (公共事業についての配慮)

第十条 労働大臣は、必要があると認めるときは、公共事業(国自ら又は国の負担金の交付を受け、若しくは国庫の補助により地方公共団体等が計画実施する公共的な建設又は復旧の事業をいう。)を計画実施する国の機関又は地方公共団体等(これらのものとの請負契約その他の契約に基づいて、その事業を施行する者を含む。)に対し、漁業離職者の雇入れの促進について配慮するよう要請することができる。


 (船員となろうとする者に関する特例等)

第十一条 船員職業安定法(昭和二十三年法律第百三十号)第六条第一項に規定する船員となろうとする漁業離職者に関しては、第三条から第九条までの規定(第四条第一項(第一号及び第二号を除く。)を除く。)中「労働大臣」とあるのは「運輸大臣」と、「公共職業安定所長」とあるのは「海運局長」と、「労働省令」とあるのは「運輸省令」と、「公共職業訓練施設の行う職業訓練」とあるのは「職業訓練」と、「公共職業安定所」とあるのは「海運局」と、第四条第一項(第一号を除く。)中「公共職業安定所長」とあるのは「海運局長(運輸省設置法(昭和二十四年法律第百五十七号)第三十九条の海運局の長をいう。以下同じ。)」と、第七条第一項第二号中「広範囲の地域にわたる求職活動に要する費用に充てるための広域求職活動費」とあるのは「手帳所持者の知識及び技能の習得を容易にするための技能習得手当」とする。

2 前項に規定する漁業離職者に関しては、第三条第二項、第六条、第七条第二項及び第三項並びに前条の規定は、適用しない。

3 漁業再建整備特別措置法(昭和五十一年法律第四十三号)第十三条第一項中「他の法令」とあるのは、「国際協定の締結等に伴う漁業離職者に関する臨時措置法(昭和五十二年法律第九十四号)及びその他の法令」とする。


 (船員保険法の特例)

第十二条 手帳所持者であつて船員保険法(昭和十四年法律第七十三号)第三十三条ノ三第一項の規定に該当するもののうち、公共職業安定所(同法第三十三条ノ四第一項に規定する公共職業安定所をいう。)又は海運局(同法第三十三条ノ四第一項に規定する海運局をいう。)(以下この項において「公共職業安定所等」と総称する。)の長が次の各号に該当すると認めたものであり、かつ、同法第三十三条ノ十二第一項第一号に規定する基準日において四十歳以上であるものについては、同法第三十三条ノ十二ノ二第一項の規定にかかわらず、次項の規定による期間内の失業している日について、同法同条同項の規定により、同法同条同項の所定給付日数(同法同条同項に規定する所定給付日数をいう。以下この項において同じ。)を超える失業保険金の支給を行うことができる。この場合において、当該所定給付日数を超えて失業保険金を支給する日数は、同法同条同項後段の規定にかかわらず、同法同条同項後段の政令で定める日数に三十日を加えた日数を限度とするものとする。

 一 所定給付日数に相当する日数分の失業保険金の支給を受け終わる日(船員保険法第三十三条ノ十三から第三十三条ノ十三ノ三までの規定により職業補導延長給付又は全国延長給付を受けている者にあつては、これらの規定によるこれらの給付が終わる日)までに職業に就くことができる見込みがなく、かつ、特に再就職のために援助を行う必要があると認められる者

 二 当該受給資格に係る離職後最初に公共職業安定所等に求職の申込みをした日以後、正当な理由がなく、公共職業安定所等の紹介する職業に就くこと、第五条第二項の規定による公共職業安定所等の長の指示した職業訓練等を受けること又は同条第三項の規定による就職指導を受けることを拒んだことのある者以外の者

2 前項及び船員保険法第三十三条ノ十二ノ二第一項の規定による失業保険金の支給を受けることができる者の同法同条第二項に規定する支給を受ける期間は、当該期間に三十日を加えた期間とする。

3 第一項の規定の適用を受ける者に対する船員保険法の規定の適用については、同法第三十三条ノ十三ノ三第一項中「個別延長給付及職業補導延長給付」とあるのは、「個別延長給付(国際協定の締結等に伴う漁業離職者に関する臨時措置法(昭和五十二年法律第九十四号)第十二条第一項ノ規定ニ依ルモノヲ含ム以下同ジ)及職業補導延長給付」とする。


   附 則


 (施行期日)

1 この法律は、公布の日から起算して七日を経過した日から施行する。


 (この法律の失効)

2 この法律は、施行の日から起算して二年を経過した日にその効力を失う。ただし、この法律の失効の際現に手帳所持者である者に関しては、なおその効力を有する。


 (労働省設置法の一部改正)

3 労働省設置法(昭和二十四年法律第百六十二号)の一部を次のように改正する。

  第十条第一項第八号中「炭鉱離職者臨時措置法(第五条及び第三章の規定を除く。)」を「炭鉱離職者臨時措置法(第五条及び第三章の規定を除く。)、国際協定の締結等に伴う漁業離職者に関する臨時措置法(昭和五十二年法律第九十四号)(第三条の規定を除く。)」に改める。

  第十条の二第六号中「炭鉱離職者」を「炭鉱離職者、漁業離職者」に改める。

  第十八条第一項中「炭鉱離職者臨時措置法(これに基づく命令を含む。)」を「炭鉱離職者臨時措置法(これに基づく命令を含む。)、国際協定の締結等に伴う漁業離職者に関する臨時措置法(これに基づく命令を含む。)」に改める。


 (社会保険労務士法の一部改正)

4 社会保険労務士法(昭和四十三年法律第八十九号)の一部を次のように改正する。

  別表第一第十一号の次に次の一号を加える。

  十一の二 国際協定の締結等に伴う漁業離職者に関する臨時措置法(昭和五十二年法律第九十四号)

(法務・大蔵・厚生・農林・運輸・労働・自治・内閣総理大臣署名) 

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