引揚者等に対する特別交付金の支給に関する法律
法律第百十四号(昭四二・八・一)
目次
第一章 総則(第一条・第二条)
第二章 特別交付金の支給(第三条―第八条)
第三章 雑則(第九条―第十六条)
附則
第一章 総則
(この法律の趣旨)
第一条 この法律は、引揚者及びその遺族並びに引揚前死亡者の遺族に対する特別交付金の支給に関し必要な事項を規定するものとする。
(定義)
第二条 この法律において「引揚者」とは、次の各号のいずれかに該当する者をいう。
一 本邦以外の地域(以下「外地」という。)に昭和二十年八月十五日(以下「終戦日」という。)まで引き続き一年以上生活の本拠を有していた者で、終戦に伴つて発生した事態に基づく外国官憲の命令、生活手段の喪失等のやむを得ない理由により同日以後本邦に引き揚げたもの
二 外地に昭和二十年八月九日まで引き続き一年以上生活の本拠を有していた者で、ソヴィエト社会主義共和国連邦の参戦に伴つて発生した事態により同日以後終戦日前に本邦に引き揚げたもの
三 外地に終戦日まで引き続き一年以上生活の本拠を有していた者で、本邦に滞在中、終戦によつてその生活の本拠を有していた外地へもどることができなくなつたもの
四 日本のもと委任統治領であつた南洋群島に昭和十八年十月一日まで引き続き一年以上生活の本拠を有していた者で、戦争に関連する緊迫した事態に基づく日本国政府の要請により同日以後終戦日前に本邦に引き揚げたもの(前三号又は次項各号のいずれかに該当する者を除く。)
五 連合国(日本国との平和条約第二十五条第一文に規定する連合国をいう。)の領域をなしていた地域に、昭和十六年十二月八日(以下この号において「開戦日」という。)又は政令で定める地域ごとに政令で定める日まで、引き続き一年以上生活の本拠を有していた者(政令で定める者を除く。次項第四号において「連合国在住者」という。)で、日本国政府と連合国政府との間の在留者相互交換に関する合意又は戦争に関連する緊迫した事態に基づく日本国政府の要請により開戦日又は政令で定める日以後終戦日前に本邦に引き揚げたもの(前各号又は次項各号のいずれかに該当する者を除く。)
2 この法律において「引揚前死亡者」とは、次の各号のいずれかに該当する者をいう。
一 外地に終戦日まで引き続き一年以上生活の本拠を有していた者で、終戦に伴つて発生した事態に基づく外国官憲の命令、生活手段の喪失等のやむを得ない理由により本邦に引き揚げることを余儀なくされるに至つた後引き続き外地にある間に死亡したもの
二 外地に昭和二十年八月九日まで引き続き一年以上生活の本拠を有していた者で、ソヴィエト社会主義共和国連邦の参戦に伴つて発生した事態により本邦に引き揚げることを余儀なくされるに至つた後終戦日前に外地において死亡したもの
三 日本のもと委任統治領であつた南洋群島に昭和十八年十月一日まで引き続き一年以上生活の本拠を有していた者で、戦争に関連する緊迫した事態に基づく日本国政府の要請により本邦に引き揚げることを余儀なくされるに至つた後引き続き外地にあつて終戦日前に死亡したもの
四 連合国在住者で、戦争に関連する緊迫した事態に基づく日本国政府の要請により本邦に引き揚げることを余儀なくされるに至つた後引き続き外地にあつて終戦日前に死亡したもの及び前項第五号に規定する合意により本邦に引き揚げる途中で死亡したもの
3 前二項の規定の適用上、昭和十四年十二月二十二日の閣議決定満洲開拓民に関する根本方策に関する件に基づく開拓民及び戦争に関連する緊迫した事態に基づく日本国政府の命令又は要請により外地に生活の本拠を有するに至ったものであると内閣総理大臣の認める者で、外地に終戦日(第一項第二号又は前項第二号の規定の適用については、昭和二十年八月九日)まで引き続き生活の本拠を有していた期間が一年未満のものは、外地にこれらの日まで引き続き一年以上生活の本拠を有していたものとみなす。
4 この法律の適用に関しては、「本邦」には、歯舞群島、色丹島及び総理府令で定めるその他の島は、含まれないものとする。
第二章 特別交付金の支給
(特別交付金の支給)
第三条 次に掲げる者で、昭和四十二年八月一日(第一号又は第三号の場合において、引揚者の本邦に引き揚げた日又は引揚前死亡者の死亡した日が同年同月二日以後であるときは、それぞれその引き揚げた日又は死亡した日)において日本の国籍を有するものには、特別交付金を支給する。
一 引揚者
二 昭和四十二年七月三十一日以前に死亡した引揚者の遺族
三 引揚前死亡者の遺族
2 特別交付金の支給を受ける権利の認定は、これを受けようとする者の請求に基づいて、内閣総理大臣が行なう。
3 前項の請求は、総理府令で定めるところにより、昭和四十五年三月三十一日(引揚者の本邦に引き揚げた日又は第一項第二号に規定する死亡した引揚者若しくは引揚前死亡者(以下「死亡者」と総称する。)の死亡の事実が判明した日が昭和四十三年四月二日以後であるときは、それぞれその引き揚げた日又は死亡の事実が判明した日から起算して二年を経過する日)までに行なわなければならない。
4 前項の期間内に特別交付金の支給を請求しなかつた者には、特別交付金は、支給しない。
(特別交付金の支給を受けるべき遺族の範囲)
第四条 特別交付金の支給を受けるべき遺族の範囲は、死亡者の死亡の当時における配偶者(婚姻の届出をしていないが、事実上婚姻関係と同様の事情にある者を含む。以下同じ。)、子、父母及び孫とする。ただし、配偶者については、死亡者の死亡の日以後昭和四十二年七月三十一日以前に、死亡者の二親等内の血族(以下この項において「近親者」という。)以外の者の配偶者となつた者及び近親者以外の者の養子となり、かつ、同年八月一日において当該養子である者を除き、子又は孫については、死亡者の死亡の日以後同年七月三十一日以前に離縁によつて死亡者との当該親族関係が終了した者及び同年八月一日(死亡者の死亡の日が同年同月二日以後であるときは、その死亡の日。第三項において同じ。)において近親者以外の者の養子となつている者を除く。
2 死亡者の死亡の当時胎児であつた子が出生したときは、その子は、死亡者の死亡の当時における子とみなす。
3 前項の子で、昭和四十二年八月二日以後に出生し、かつ、出生によつて日本の国籍を取得したものは、同年八月一日において日本の国籍を有していたものとみなす。
(特別交付金の支給を受けるべき遺族の順位等)
第五条 特別交付金の支給を受けるべき遺族の順位は、配偶者、子、父母、孫の順序による。ただし、父母については、死亡者の死亡の日(死亡者が終戦日後に死亡した引揚前死亡者であるときは、終戦日)においてその死亡者によつて生計を維持し、又はその者と生計をともにしていたものを先にし、同順位の父母については、養父母を先にし実父母を後にする。
2 前項の規定により特別交付金の支給を受けるべき順位にある遺族が、昭和四十二年八月一日(死亡者の死亡の事実が判明した日が同年同月二日以後であるときは、その死亡の事実が判明した日)以後引き続き一年以上生死不明である場合において、他に同順位者がないときは、次順位者の請求により、その次順位者(その次順位者と同順位の他の遺族があるときは、そのすべての同順位者)を特別交付金の支給を受けるべき順位の遺族とみなすことができる。
3 特別交付金の支給を受けるべき同順位の遺族が二人以上あるときは、その一人のした特別交付金の支給の請求は、全員のためにその全額につきしたものとみなし、その一人に対してした特別交付金の支給を受ける権利の認定は、全員に対してしたものとみなす。
(特別交付金の額)
第六条 引揚者に支給する特別交付金の額は、その者の終戦日(第二条第一項第四号又は第五号に該当する者については、これらの号の地域に生活の本拠を有していた期間の算定に関しこれらの号に定める日。次項において同じ。)における年齢の区分に応じ次の表に掲げる額とする。
年齢 |
特別交付金の額 |
五十歳以上 |
一六〇、〇〇〇円 |
三十五歳以上五十歳未満 |
一〇〇、〇〇〇円 |
二十五歳以上三十五歳未満 |
五〇、〇〇〇円 |
二十歳以上二十五歳未満 |
三〇、〇〇〇円 |
二十歳未満 |
二〇、〇〇〇円 |
2 前項の場合において、外地に終戦日まで引き続き八年以上生活の本拠を有していた者に支給する特別交付金の額は、同項の額に一万円を加算した額とする。
3 遺族に支給する特別交付金の額は、その者に係る死亡者一人につきその死亡者の終戦日(死亡者が第二条第一項第二号に該当する者で終戦日前に死亡したものであるとき、又は同条第二項第二号に該当する者であるときは、その死亡の日とし、死亡者が同条第一項第四号若しくは第五号又は第二項第三号若しくは第四号に該当する者であるときは、その者のこれらの号の地域に生活の本拠を有していた期間の算定に関しこれらの号に定める日とする。次項において同じ。)における年齢の区分に応じ次の表に掲げる額とする。
年齢 |
特別交付金の額 |
五十歳以上 |
一一二、〇〇〇円 |
三十五歳以上五十歳未満 |
七〇、〇〇〇円 |
二十五歳以上三十五歳未満 |
三五、〇〇〇円 |
二十歳以上二十五歳未満 |
二一、〇〇〇円 |
二十歳未満 |
一四、〇〇〇円 |
4 前項の場合において、外地に終戦日まで引き続き八年以上生活の本拠を有していた死亡者の遺族に支給する特別交付金の額は、同項の額に七千円を加算した額とする。
(記名国債の交付)
第七条 特別交付金は、十年以内に償還すべき記名国債をもつて交付する。
2 前項の規定により交付するため、政府は、必要な金額を限度として国債を発行することができる。
3 前項の規定により発行する国債は、無利子とする。
4 第二項の規定により発行する国債については、政令で定める場合を除くほか、譲渡、担保権の設定その他の処分をすることができない。
5 この法律に定めるもののほか、第二項の規定により発行する国債に関し必要な事項は、大蔵省令で定める。
(特別交付金に係る権利の承継)
第八条 特別交付金の支給を受ける権利を有する者が死亡した場合において、その者がその死亡前に特別交付金の支給の請求をしていなかつたときは、その者の相続人は、自己の名で、当該特別交付金の支給を請求することができる。
2 第五条第三項の規定は、次の場合について準用する。
一 前項の規定による請求に基づいて特別交付金の支給を受けるべき同順位の相続人が二人以上ある場合
二 前条第一項に規定する国債の記名者が死亡し、同順位の相続人が二人以上ある場合において、当該国債の記名者の死亡前に支払うべきであつた当該国債の償還金の請求若しくはその支払をし、又は当該国債の記名変更の請求若しくはその記名変更をするとき。
第三章 雑則
(異議申立期間)
第九条 特別交付金に関する処分についての異議申立てに関する行政不服審査法(昭和三十七年法律第百六十号)第四十五条の期間は、その処分の通知を受けた日の翌日から起算して一年以内とする。
2 前項の異議申立てについては、行政不服審査法第四十八条の規定にかかわらず、同法第十四条第三項の規定は、準用しない。
(譲渡又は担保の禁止)
第十条 特別交付金の支給を受ける権利は、譲渡し、又は担保に供することができない。ただし、第六条第一項の特別交付金の支給を受ける権利については、その権利を有する引揚者が、その請求前に、その者の配偶者、子又は父母で同項の特別交付金の支給を受ける権利を有するものに譲渡する場合は、この限りでない。
(差押えの禁止)
第十一条 特別交付金の支給を受ける権利及び第七条第一項に規定する国債は、差し押えることができない。ただし、国税滞納処分(その例による処分を含む。)による場合は、この限りでない。
(非課税)
第十二条 特別交付金には、所得税を課さない。
2 第七条第一項に規定する国債の譲渡又は当該国債を担保とする金銭の貸借に関する書類には、印紙税を課さない。
(国債の償還金の支払)
第十三条 第七条第一項に規定する国債の償還金の支払に関する事務は、郵政大臣が取り扱うことができる。
2 郵政大臣は、前項の事務を処理する場合において、必要があるときは、同項の規定にかかわらず、その事務の一部を政令で定める当局に委託して取り扱わせることができる。
3 前項の場合においては、郵政大臣は、同項の当局に対し、その委託に係る支払に必要な資金を交付することができる。
4 第二項の規定による委託事務の範囲及び前項の規定による資金交付の手続は、郵政大臣が大蔵大臣と協議して定める。
5 前三項に定めるもののほか、第一項の規定により郵政大臣が取り扱う事務について必要な事項は、郵政省令で定める。
(特別交付金の返還)
第十四条 不実の申請その他不正の手段により第七条第一項に規定する国債の交付を受け、その償還金を受領した者があるときは、内閣総理大臣は、その者に対して償還金の全部又は一部に相当する金額の返還を命ずることができる。
2 前項の規定により返還を命ぜられた金額を納付しない者があるときは、内閣総理大臣は、期限を指定してこれを督促しなければならない。
3 前項の規定による督促を受けた者がその指定期限までに第一項の規定により返還を命ぜられた金額を納付しないときは、内閣総理大臣は、国税滞納処分の例によりこれを処分することができる。
4 前項の規定による徴収金の先取特権の順位は、国税及び地方税に次ぐものとする。
(権限の委任)
第十五条 この法律により内閣総理大臣に属する権限は、政令で定めるところにより、地方公共団体の長及び那覇日本政府南方連絡事務所長にその一部を委任することができる。
4 第九条の規定は、前項の委任に基づいてされる処分についての審査請求に準用する。この場合において、同条第一項中「第四十五条」とあるのは、「第十四条第一項本文」と読み替えるものとする。
(総理府令への委任)
第十六条 この法律に特別の規定がある場合を除くほか、この法律の実施のための手続その他の執行について必要な細則は、総理府令で定める。
附 則
(施行期日)
1 この法律は、公布の日から施行する。
(国債の発行の日)
2 第七条第二項に規定する国債の発行の日は、昭和四十二年八月十六日とする。ただし、昭和四十三年八月十六日以後特別交付金の支給を受ける権利を有するに至つた者に交付する国債については、その権利を有するに至つた日が八月十六日以後十二月三十一日以前であるときは、その年の八月十六日とし、その日が一月一日以後八月十五日以前であるときは、その前年の八月十六日とする。
(総理府設置法の一部改正)
3 総理府設置法(昭和二十四年法律第百二十七号)の一部を次のように改正する。
第六条第十六号の二の次に次の一号を加える。
十六の三 引揚者等に対する特別交付金の支給に関する法律(昭和四十二年法律第百十四号)の施行に関すること。
第十五条第一項の表中在外財産問題審議会の項を削る。
(内閣総理・大蔵・郵政大臣署名)