未帰還者に関する特別措置法
法律第七号(昭三四・三・三)
(この法律の目的)
第一条 この法律は、未帰還者のうち、国がその状況に関し調査究明した結果、なおこれを明らかにすることができない者について、特別の措置を講ずることを目的とする。
(民法第三十条の宣告の請求等の特例)
第二条 未帰還者留守家族等援護法(昭和二十八年法律第百六十一号)第二条第一項に規定する未帰還者(以下「未帰還者」という。)に係る民法(明治二十九年法律第八十九号)第三十条の宣告の請求は、厚生大臣も行うことができる。ただし、厚生大臣において当該未帰還者が次の各号のいずれかに該当すると認める場合に限る。
一 昭和二十二年一月一日以後生死が分明でない者(諸般の事情により現に生存している可能性が多いと認められる者を除く。)
二 昭和二十二年一月一日以後昭和二十七年十二月三十一日までの間に生存していたと認められる資料はあるが、昭和二十八年一月一日以後生死が分明でない者のうち、諸般の事情により現に生存していないと推測される者
2 前項の請求をする場合には、厚生大臣は、当該未帰還者の留守家族の意向を尊重して行わなければならない。
3 第一項の規定による厚生大臣の請求に基く民法第三十条の宣告(以下「戦時死亡宣告」という。)の取消の請求は、厚生大臣も行うことができる。
4 厚生大臣が第一項又は前項の規定により戦時死亡宣告の請求又はその取消の請求を行う場合には、家事審判法(昭和二十二年法律第百五十二号)第六条の規定は、適用しない。
(弔慰料の支給)
第三条 未帰還者が戦時死亡宣告を受けたときは、その遺族に対し、弔慰料を支給する。
2 前項の弔慰料の支給は、これを受けようとする者の請求に基いて行う。
(弔慰料の支給を受けるべき遺族の範囲)
第四条 弔慰料の支給を受けるべき遺族の範囲は、戦時死亡宣告により未帰還者が死亡したものとみなされる日におけるその者の配偶者(婚姻の届出をしていないが、事実上婚姻関係と同様の事情にある者を含む。以下同じ。)、子、父母、孫、祖父母及び兄弟姉妹とする。ただし、戦時死亡宣告の裁判が確定した日(以下「基準日」という。)前に離縁によつて未帰還者との親族関係が終了した者を除く。
(弔慰料の支給を受けるべき遺族の順位)
第五条 弔慰料の支給を受けるべき遺族の順位は、次に掲げる順序による。ただし、父母及び祖父母については、未帰還者が死亡したものとみなされる日において帰還していたとすれば、その者によつて生計を維持し、又はその者と生計をともにしていたと認められる者を先にし、同順位の父母については、養父母を先にし実父母を後にし、同順位の祖父母については、養父母の父母を先にし実父母の父母を後にし、父母の養父母を先にし実父母を後にする。
一 配偶者(未帰還者が死亡したものとみなされる日以後基準日前に未帰還者の二親等内の血族(以下この項において「遺族」という。)以外の者と婚姻(届出をしないが、事実上婚姻関係と同様の事情に入つていると認められる場合を含む。)し、又は遺族以外の者の養子となつた者を除く。)
二 子(基準日において遺族以外の者の養子となつている者を除く。)
三 父母
四 孫(基準日において遺族以外の者の養子となつている者を除く。)
五 祖父母
六 兄弟姉妹(基準日において遺族以外の者の養子となつている者を除く。)
七 第二号において同号の順位から除かれている子
八 第四号において同号の順位から除かれている孫
九 第六号において同号の順位から除かれている兄弟姉妹
十 第一号において同号の順位から除かれている配偶者
2 前項の規定により弔慰料の支給を受けるべき順位にある遺族が、基準日において生死不明であり、かつ、その日以後引き続き二年以上(その者が基準日までに二年以上生死不明であるときは、一年以上)生死不明である場合において、他に同順位者がないときは、次順位者の請求により、その次順位者(その次順位者と同順位の他の遺族があるときは、そのすべての同順位者)を弔慰料の支給を受けるべき順位の遺族とみなすことができる。
(弔慰料の額)
第六条 弔慰料の額は、戦時死亡宣告を受けた者一人につき三万円(当該戦時死亡宣告を受けた者が第十三条第一項の規定の適用を受ける者である場合においては、二万円)とする。
(同順位者が数人ある場合)
第七条 弔慰料の支給を受けるべき同順位の遺族が数人あるときは、その一人のした弔慰料の支給の請求は、全員のためその全額につきしたものとみなし、その一人に対してした弔慰料の支給は、全員に対してしたものとみなす。
(弔慰料の支給を受ける権利を有する者が死亡した場合)
第八条 弔慰料の支給を受ける権利を有する者が死亡した場合において、死亡した者がその死亡前に弔慰料の支給の請求をしていなかつたときは、死亡した者の相続人は、自己の名で、死亡した者の弔慰料の支給を請求することができる。
2 前条の規定は、弔慰料の支給を受ける権利を有する者が死亡し、同順位の相続人が数人ある場合における弔慰料の支給の請求及びその支給について準用する。
(弔慰料の返還の免除)
第九条 戦時死亡宣告の取消があつた場合において、弔慰料が支給されているときは、その支給された弔慰料は、国庫に返還させないことができる。
(時効)
第十条 弔慰料の支給を受ける権利は、三年間行わないときは、時効によつて消滅する。
(譲渡等の禁止)
第十一条 弔慰料の支給を受ける権利は、譲渡し、担保に供し、又は差し押えることができない。
(非課税等)
第十二条 弔慰料として支給を受けた金銭を標準として、租税その他の公課を課することはできない。
2 弔慰料に関する書類には、印紙税を課さない。
(戦傷病者戦没者遺族等援護法等の適用)
第十三条 第二条第一項各号のいずれかに該当する未帰還者であつて次の表の第一欄に掲げるものが戦時死亡宣告を受けたときは、それぞれ、同表の第二欄に掲げる法律の適用については、その者は、同表の第三欄に掲げる負傷又は疾病により同表の第四欄に掲げる日に死亡したものとみなす。ただし、同表の第三欄に掲げる負傷又は疾病により死亡したものとみなすことが相当でないと認められる場合においては、この限りでない。
第一欄 |
第二欄 |
第三欄 |
第四欄 |
戦傷病者戦没者遺族等援護法(昭和二十七年法律第百二十七号)第二条第一項に規定する軍人軍属 |
戦傷病者戦没者遺族等援護法及び恩給法の一部を改正する法律(昭和二十八年法律第百五十五号) |
在職期間内(弔慰金については、昭和十二年七月七日以後における在職期間内)における公務上の負傷又は疾病 |
戦傷病者戦没者遺族等援護法の適用については昭和二十七年三月三十一日(同年四月一日以後同年十二月三十一日までの間に生存していたと認められる資料のある者については、同日)、恩給法の一部を改正する法律の適用については昭和二十八年三月三十一日 |
戦傷病者戦没者遺族等援護法第二条第三項に規定する準軍属(同法同条同項第五号に規定する特別未帰還者の状態にある間に死亡したものと推測される者を含む。) |
戦傷病者戦没者遺族等援護法 |
遺族給与金に関しては公務上の負傷又は疾病、弔慰金に関しては昭和二十年九月二日以後海外にある間における自己の責に帰することのできない事由に基く負傷又は疾病 |
昭和二十七年三月三十一日(同年四月一日以後同年十二月三十一日までの間に生存していたと認められる資料のある者については、同日) |
恩給法の一部を改正する法律(昭和二十一年法律第三十一号)による改正前の恩給法(大正十二年法律第四十八号)第十九条に規定する公務員又は公務員に準ずべき者。ただし、戦傷病者戦没者遺族等援護法第二条第一項第一号に掲げる者を除く。 |
恩給法 |
在職中における公務のための負傷又は疾病 |
昭和二十八年七月三十一日 |
2 未帰還者であつて前項の規定の適用を受けるものが第二条第一項各号のいずれにも該当しなくなつたときは、当該未帰還者に関しては、はじめから前項の規定の適用がなかつたものとする。
3 前項の場合において、戦傷病者戦没者遺族等援護法又は恩給法の規定による給付が行われており、かつ、当該未帰還者に関し新たに戦傷病者戦没者遺族等援護法若しくは恩給法又は未帰還者留守家族等援護法の規定による給付を行うベきときは、すでに行つた戦傷病者戦没者遺族等援護法又は恩給法の規定による給付は、新たに行うべき給付の内払とみなす。
(権限の委任)
第十四条 この法律により厚生大臣に属する権限は、政令で定めるところにより、都道府県知事その他政令で定める者にその一部を委任することができる。
(沖縄地域に関する特例)
第十五条 この法律の適用に関しては、「戦時死亡宣告」には、硫黄鳥島及び伊平屋島並びに北緯二十七度以南の南西諸島(大東諸島を含む。)において行われたこれに相当する宣告を含むものとする。
(省令への委任)
第十六条 この法律に特別の規定がある場合を除くほか、この法律の実施のための手続その他その執行について必要な細則は、厚生省令で定める。
附 則
(施行期日)
1 この法律は、昭和三十四年四月一日から施行する。
(未帰還者留守家族等援護法の一部改正)
2 未帰還者留守家族等援護法の一部を次のように改正する。
第十三条中「六年」を「九年」に改める。
附則第四十項及び第四十六項中「附則第四十三項」を「附則第四十四項」に改める。
(引揚者給付金等支給法の一部改正)
3 引揚者給付金等支給法(昭和三十二年法律第百九号)の一部を次のように改正する。
第十二条第二項中「取得した者」の下に「(未帰還者に関する特別措置法(昭和三十四年法律第七号)による弔慰料の支給を受ける権利を取得した者を含まないものとする。)」を加える。
(厚生省設置法の一部改正)
4 厚生省設置法(昭和二十四年法律第百五十一号)の一部を次のように改正する。
第五条第六十四号の次に次の一号を加える。
六十四の二 未帰還者に関する特別措置法(昭和三十四年法律第七号)の定めるところにより、民法(明治二十九年法律第八十九号)第三十条の宣告の請求又はその宣告の取消の請求を行うこと。
第十四条の二第一項第五号の次に次の一号を加える。
五の二 未帰還者に関する特別措置法を施行すること。
(内閣総理・法務・厚生大臣署名)