民事調停法
法律第二百二十二号(昭二六・六・九)
目次
第一章 通則(第一条―第二十三条)
第二章 特則
第一節 宅地建物調停(第二十四条)
第二節 農事調停(第二十五条―第三十条)
第三節 商事調停(第三十一条)
第四節 鉱害調停(第三十二条・第三十三条)
第三章 罰則(第三十四条―第三十八条)
附則(第一条―第十五条)
第一章 通則
(この法律の目的)
第一条 この法律は、民事に関する紛争につき、当事者の互譲により、条理にかない実情に即した解決を図ることを目的とする。
(調停事件)
第二条 民事に関して紛争を生じたときは、当事者は、裁判所に調停の申立をすることができる。
(管轄)
第三条 調停事件は、特別の定がある場合を除いて、相手方の住所、居所、営業所若しくは事務所の所在地を管轄する簡易裁判所又は当事者が合意で定める地方裁判所若しくは簡易裁判所の管轄とする。
(移送等)
第四条 裁判所は、その管轄に属しない事件について申立を受けた場合には、これを管轄権のある地方裁判所、家庭裁判所又は簡易裁判所に移送しなければならない。但し、事件を処理するために特に必要があると認めるときは、土地管轄の規定にかかわらず、事件の全部又は一部を他の管轄裁判所に移送し、又はみずから処理することができる。
2 裁判所は、その管轄に属する事件について申立を受けた場合においても、事件を処理するために適当であると認めるときは、土地管轄の規定にかかわらず、事件の全部又は一部を他の管轄裁判所に移送することができる。
(調停機関)
第五条 裁判所は、調停委員会で調停を行う。但し、相当であると認めるときは、裁判官だけでこれを行うことができる。
2 裁判所は、当事者の申立があるときは、前項但書の規定にかかわらず、調停委員会で調停を行わなければならない。
(調停委員会の組織)
第六条 調停委員会は、調停主任一人及び調停委員二人以上で組織する。
(調停主任・調停委員)
第七条 調停主任は、裁判官の中から、地方裁判所が指定する。
2 調停委員は、左に掲げる者の中から、調停主任が各事件について指定する。
一 地方裁判所が毎年前もつて選任する者
二 当事者が合意で定める者
3 調停主任は、事件を処理するために必要があると認めるときは、前項に掲げる者以外の者を調停委員に指定することができる。
(調停の補助)
第八条 調停委員会は、当事者の意見を聞き、適当であると認める者に調停の補助をさせることができる。
(旅費・日当・宿泊料)
第九条 調停委員及び前条の規定により調停の補助をした者には、最高裁判所の定める旅費、日当及び宿泊料を支給する。
(手数料)
第十条 調停の申立をするには、手数料を納めなければならない。
2 前項の手数料の額は、調停を求める事項の価額千円につき十円をこえない範囲内で、最高裁判所が定める。
3 調停を求める事項の価額を算定することができないときは、その価額は、三万一千円とみなす。
(利害関係人の参加)
第十一条 調停の結果について利害関係を有する者は、調停委員会の許可を受けて、調停手続に参加することができる。
2 調停委員会は、相当であると認めるときは、調停の結果について利害関係を有する者を調停手続に参加させることができる。
(調停前の措置)
第十二条 調停委員会は、調停のために特に必要があると認めるときは、当事者の申立により、調停前の措置として、相手方その他の事件の関係人に対して、現状の変更又は物の処分の禁止その他調停の内容たる事項の実現を不能にし又は著しく困難ならしめる行為の排除を命ずることができる。
2 前項の措置は、執行力を有しない。
(調停をしない場合)
第十三条 調停委員会は、事件が性質上調停をするのに適当でないと認めるとき、又は当事者が不当な目的でみだりに調停の申立をしたと認めるときは、調停をしないものとして、事件を終了させることができる。
(調停の不成立)
第十四条 調停委員会は、当事者間に合意が成立する見込がない場合又は成立した合意が相当でないと認める場合において、裁判所が第十七条の決定をしないときは、調停が成立しないものとして、事件を終了させることができる。
(裁判官の調停への準用)
第十五条 第八条、第九条及び第十一条から前条までの規定は、裁判官だけで調停を行う場合に準用する。
(調停の成立・効力)
第十六条 調停において当事者間に合意が成立し、これを調書に記載したときは、調停が成立したものとし、その記載は、裁判上の和解と同一の効力を有する。
(調停に代る決定)
第十七条 裁判所は、調停委員会の調停が成立する見込がない場合において相当であると認めるときは、調停委員の意見を聞き、当事者双方のために衡平に考慮し、一切の事情を見て、職権で、当事者双方の申立の趣旨に反しない限度で、事件の解決のために必要な決定をすることができる。この決定においては、金銭の支払、物の引渡その他の財産上の給付を命ずることができる。
(異議の申立)
第十八条 前条の決定に対しては、当事者又は利害関係人は、異議の申立をすることができる。その期間は、当事者が決定の告知を受けた日から二週間とする。
2 前項の期間内に異議の申立があつたときは、同項、の決定は、その効力を失う。
3 第一項の期間内は異議の申立がないときは、同項の決定は、裁判上の和解と同一の効力を有する。
(調停不成立等の場合の訴の提起)
第十九条 第十四条(第十五条において準用する場合を含む。)の規定により事件が終了し、又は前条第二項の規定により決定が効力を失つた場合において、申立人がその旨の通知を受けた日からこ二週間以内に調停の目的となつた請求について訴を提起したときは、調停の申立の時に、その訴の提起があつたものとみなす。
(受訴裁判所の調停)
第二十条 受訴裁判所は、適当であると認めるときは、職権で、事件を調停に付した上、管轄裁判所に処理させ又はみずから処理することができる。但し、事件について争点及び証拠の整理が完了した後において、当事者の合意がない場合には、この限りでない。
2 前項の規定により事件を調停に付した場合において、調停が成立し又は第十七条の決定が確定したときは、訴の取下があつたものとみなす。
3 第一項の規定により受訴裁判所がみずから調停により事件を処理する場合には、調停主任は、第七条第一項の規定にかかわらず、受訴裁判所がその裁判官の中から指定する。
(即時抗告)
第二十一条 調停手続における裁判に対しては、最高裁判所の定めるところにより、即時抗告をすることができる。その期間は、二週間とする。
(非訟事件手続法の準用)
第二十二条 特別の定がある場合を除いて、調停に関しては、その性質に反しない限り、非訟事件手続法(明治三十一年法律第十四号)第一編の規定を準用する。但し、同法第十五条の規定は、この限りでない。
(この法律に定のない事項)
第二十三条 この法律に定めるものの外、調停に関して必要な事項は、最高裁判所が定める。
第二章 特則
第一節 宅地建物調停
(宅地建物調停事件・管轄)
第二十四条 宅地又は建物の貸借その他の利用関係の紛争に関する調停事件は、紛争の目的である宅地若しくは建物の所在地を管轄する簡易裁判所又は当事者が合意で定めるその所在地を管轄する地方裁判所の管轄とする。
第二節 農事調停
(農事調停事件)
第二十五条 農地又は農業経営に附随する土地、建物その他の農業用資産(以下「農地等」という。)の貸借その他の利用関係の紛争に関する調停事件については、前章に定めるものの外、この節の定めるところによる。
(管轄)
第二十六条 前条の調停事件は、紛争の目的である農地等の所在地を管轄する地方裁判所又は当事者が合意で定めるその所在地を管轄する簡易裁判所の管轄とする。
(小作官等の意見陳述)
第二十七条 小作官又は小作主事は、期日に出席し又は期日外において、調停委員会に対して意見を述べることができる。
(小作官等の意見聴取)
第二十八条 調停委員会は、調停をしようとするときは、小作官又は小作主事の意見を聞かなければならない。
(裁判官の調停への準用)
第二十九条 前二条の規定は、裁判官だけで調停を行う場合に準用する。
(移送等への準用)
第三十条 第二十八条の規定は、裁判所が、第四条第一項但書若しくは第二項の規定により事件を移送し若しくはみずから処理しようとし、又は第十七条の決定をしようとする場合に準用する。
第三節 商事調停
(商事調停事件・調停委員会の定める調停条項)
第三十一条 商事の紛争に関する調停事件については、調停委員会は、当事者間に合意が成立する見込がない場合又は成立した合意が相当でないと認める場合において、当事者間に調停委員会の定める調停条項に服する旨の書面による合意があるときは、申立により、事件の解決のために適当な調停条項を定めることができる。
2 前項の調停条項を調書に記載したときは、調停が成立したものとみなし、その記載は、裁判上の和解と同一の効力を有する。
第四節 鉱害調停
(鉱害調停事件・管轄)
第三十二条 鉱業法(昭和二十五年法律第二百八十九号)に定める鉱害の賠償の紛争に関する調停事件は、損害の発生地を管轄する地方裁判所の管轄とする。
(農事調停等に関する規定の準用)
第三十三条 第二十七条から第三十一条までの規定は、前条の調停事件に準用する。この場合において、第二十七条及び第二十八条中「小作官又は小作主事」とあるのは、「通商産業局長」と読み替えるものとする。
第三章 罰則
(不出頭に対する制裁)
第三十四条 裁判所又は調停委員会の呼出を受けた事件の関係人が正当な事由がなく出頭しないときは、裁判所は、三千円以下の過料に処する。
(措置違反に対する制裁)
第三十五条 当事者又は参加人が正当な事由がなく第十二条(第十五条において準用する場合を含む。)の規定による措置に従わないときは、裁判所は、五千円以下の過料に処する。
(過料の裁判)
第三十六条 前二条の過料の裁判は、裁判官の命令で執行する。この命令は、執行力のある債務名義と同一の効力を有する。
2 過料の裁判の執行は、民事訴訟に関する法令の規定に従つてする。但し、執行前に裁判の送達をすることを要しない。
3 非訟事件手続法第二百七条及び第二百八条ノ二中検察官に関する規定は、第一項の過料の裁判には適用しない。
(評議の秘密を漏らす罪)
第三十七条 調停委員又は調停委員であつた者が正当な事由がなく評議の経過又は調停主任若しくは調停委員の意見若しくはその多少の数を漏らしたときは、五千円以下の罰金に処する。
(人の秘密を漏らす罪)
第三十八条 調停委員又は調停委員であつた者が正当な事由がなくその職務上取り扱つたことについて知り得た人の秘密を漏らしたときは、六箇月以下の懲役又は一万円以下の罰金に処する。
附 則
(施行期日)
第一条 この法律は、昭和二十六年十月一日から施行する。
(借地借家調停法等の廃止)
第二条 借地借家調停法(大正十一年法律第四十一号)、小作調停法(大正十三年法律第十八号)、商事調停法(大正十五年法律第四十二号)及び金銭債務臨時調停法(昭和七年法律第二十六号)は、廃止する。
(農地調整法等の改正)
第三条 農地調整法(昭和十三年法律第六十七号)の一部を次のように改正する。
第九条第三項但書中「小作調停法ニ依ル調停」を「民事調停法(昭和二十六年法律第二百二十二号)ニ依ル農事調停」に改める。
第十条から第十四条までを次のように改め、第十四条ノ二第二項を削る。
第十条乃至第十四条 削除
第四条 戦時民事特別法廃止法律(昭和二十年法律第四十六号)の一部を次のように改正する。
附則第二項中「第十四条乃至第十九条並ニ」を削る。
第五条 鉱業法の一部を次のように改正する。
目次中「和解の仲介及び調停」を「和解の仲介」に、「第百九十一条―第百九十五条」を「第百九十一条―第百九十四条」に改める。
「第三節 和解の仲介及び調停」を「第三節 和解の仲介」に改める。
第百二十六条から第百六十四条までを次のように改める。
第百二十六条から第百六十四条まで 削除
第百九十五条を削る。
第六条 防火地区内借地権処理法(昭和二年法律第四十号)の一部を次のように改正する。
第二条第二項中「借地借家調停法」を「民事調停法(昭和二十六年法律第二百二十二号)」に改める。
第七条 農村負債整理組合法(昭和八年法律第二十一号)の一部を次のように改正する。
第五条を次のように改める。
第五条 削除
第六条中「金銭債務臨時調停法」を「民事調停法(昭和二十六年法律第二百二十二号)」に改める。
第八条 臨時農村負債処理法(昭和十三年法律第六十九号)の一部を次のように改正する。
第五条中「金銭債務臨時調停法」を「民事調停法(昭和二十六年法律第二百二十二号)」に改める。
第六条中「金銭債務臨時調停法」を「民事調停法」に改める。
第九条 罹災都市借地借家臨時処理法(昭和二十一年法律第十三号)の一部を次のように改正する。
第二十三条中「借地借家調停法第四条ノ二及び第五条」を「民事調停法(昭和二十六年法律第二百二十二号)第二十条」に改める。
第十条 農業委員会法(昭和二十六年法律第八十八号)の一部を次のように改正する。
第六条第一項第二号中「、小作調停法(大正十三年法律第十八号)」を削る。
第十一条 家事審判法(昭和二十二年法律第百五十二号)の一部を次のように改正する。
第三条に次の一項を加える。
家庭裁判所は、当事者の申立があるときは、前項後段の規定にかかわらず、調停委員会で調停を行わなければならない。
第十九条に次の一項を加える。
前項の規定により事件を調停に付した場合において、調停が成立し又は第二十三条若しくは第二十四条第一項の規定による審判が確定したときは、訴の取下があつたものとみなす。
第二十七条中「五百円」を「三千円」に改める。
第二十八条を第三十条とし、同条第一項中「千円」を「五千円」に改め、第二十九条を第三十一条とし、同条中「三千円」を「一万円」に改め、第二十七条の次に次の二条を加える。
第二十八条 調停委員会又は家庭裁判所により調停前の措置として必要な事項を命ぜられた当事者又は参加人が正当な事由がなくその措置に従わないときは、家庭裁判所は、これを五千円以下の過料に処する。
第二十九条 前二条の過料の審判は、家事審判官の命令でこれを執行する。この命令は、執行力のある債務名義と同一の効力を有する。
過料の審判の執行は、民事訴訟に関する法令の規定に従つてこれをする。但し、執行前に審判の送達をすることを要しない。
非訟事件手続法第二百七条及び第二百八条ノ二中検察官に関する規定は、第一項の過料の審判にはこれを適用しない。
第十二条 民事訴訟用印紙法(明治二十三年法律第六十五号)の一部を次のように改正する。
第四条の次に次の一条を加える。
第四条ノ二 民事調停法(昭和二十六年法律第二百二十二号)第十九条又ハ家事審判法(昭和二十二年法律第百五十二号)第二十六条第二項ノ訴ノ訴状ニ付テハ調停ノ申立ノ手数料ト同額ノ印紙ハ之ヲ貼用シタルモノト看做ス
(従前の調停事件)
第十三条 この法律施行前に裁判所が受理した調停事件については、なお従前の例による。
(調停委員となるべき者の選任等)
第十四条 この法律施行前に従前の法律の規定によつてした調停委員となるべき者の選任は、この法律の適用については、同法の規定によつてした選任とみなす。
2 この法律施行後に同法の規定によつてした調停委員となるべき者の選任は、従前の法律の適用については、同法の規定によつてした選任とみなす。
3 前二項の規定は、調停主任の指定に準用する。
(罰則の適用)
第十五条 この法律施行前にした行為に対する罰則の適用については、なを従前の例による。
2 小作調停法又は金銭債務臨時調停法による調停委員又は調停委員であつた者のこの法律施行後の行為に対する罰則の適用についても、前項と同様とする。但し、従前の規定中「千円」とあるのは「五千円」とする。
3 この法律施行後の行為に対して従前の過料に関する規定を適用する場合には、その規定中「五十円」とあるのは「三千円」とし、「五百円」とあるのは「五千円」とする。但し、従前の家事審判法の規定中「五百円」とあるのは「三千円」とする。
4 この法律施行後に従前の例によるべき場合であつても、過料の裁判又は審判及びその執行については、第三十六条又はこの法律による改正後の家事審判法第二十九条の規定を適用する。
(法務総裁・内閣総理大臣署名)