牧野法

法律第百九十四号(昭二五・五・二〇)

目次

 第一章 総則(第一条・第二条)

 第二章 牧野管理規程(第三条―第八条)

 第三章 保護牧野(第九条―第十七条)

 第四章 雑則(第十八条―第二十三条)

 第五章 罰則(第二十四条―第二十七条)

 附則

   第一章 総則

 (この法律の目的)

第一条 この法律は、地方公共団体の行う牧野の管理を適正にし、その他牧野の荒廃を防止するために必要な措置を講じ、もつて国土の保全と牧野利用の高度化を図ることを目的とする。

 (定義)

第二条 この法律で「牧野」とは、主として家畜の放牧又はその飼料若しくは敷料の採取の目的に供される土地(耕作の目的に供される土地を除く。)をいう。

   第二章 牧野管理規程

 (牧野管理規程の作成)

第三条 地方公共団体は、その管理に属する牧野であつて政令で定めるものにつき、当該牧野が立地その他の諸条件に応じて最も効率的に利用されるように牧野管理規程を定めなければならない。

2 地方公共団体は、前項の規定により牧野管理規程を定めようとするときは、あらかじめ、牧野管理規程案を十日間公示しなければならない。

3 当該牧野の利用者、所有者その他利害関係のある者で、当該牧野管理規程案に不服のあるものは、前項の公示期間満了後二十日以内に、当該地方公共団体に異議を申し立てることができる。

4 前項の規定による異議の申立があつたときは、当該地方公共団体は、同項の期間満了後二十日以内に、公聴会を開き、当該牧野の利用者、所有者その他利害関係のある者の意見を聞かなければならない。

5 地方公共団体は、牧野管理規程を定めたときは、遅滞なく、左の各号の区分に従い、それぞれ、農林大臣又は都道府県知事の認可を申請しなければならない。

 一 都道府県にあつては、農林大臣

 二 市町村(その組合及び財産区を含む。)にあつては、都道府県知事

6 農林大臣又は都道府県知事は、前項の規定による認可の申請があつた場合において、当該牧野管理規程が、当該牧野を最も効率的に利用させるのに適当であると認めるときは、これを認可しなければならない。

7 農林大臣又は都道府県知事は、第五項の規定による認可の申請を却下するときは、その理由を明示しなければならない。

8 牧野管理規程の変更については、前六項の規定を準用する。

 (牧野管理規程の内容)

第四条 牧野管理規程には、少くとも左の事項を記載しなければならない。

 一 位置及び面積

 二 用途別の区画及び面積

 三 放牧地にあつては放牧期間、家畜の種類別認容頭数及び放牧方法、採草地にあつては採草期間、採草回数及び採草量

 四 草種及び草生の改良の方法に関する事項

 五 有害な植物及び障害物の除去並びに害虫の駆除に関する事項

 六 牧野用施設に関する事項

 七 経費の負担区分に関する事項

 八 違反に対する措置に関する事項

2 前項第三号の認容頭数は、家畜の食草量に応じ牛又は馬に換算して定めることができる。この場合の換算の方法は、農林省令で定める。

 (牧野管理規程の遵守)

第五条 地方公共団体は、牧野管理規程に従つて当該牧野を利用させなければならない。

第六条 農林大臣又は都道府県知事は、牧野の改良及び保全に関し専門的知識を有する職員に、それぞれ、その認可した牧野管理規程のある牧野に立ち入らせ、当該牧野が最も効率的に利用されているかどうかを検査させることができる。

2 前項の検査の結果、牧野管理規程に違反する事実があると認めるときは、農林大臣又は都道府県知事は、当該牧野の管理者に対し、牧野管理規程を遵守し、又はその利用者をしてこれを遵守させるために必要な措置をとるべき旨を指示することができる。

3 第一項の規定により立入検査をする職員は、その身分を示す証票を携帯し、且つ、関係人の請求があるときは、これを呈示しなければならない。

4 第一項の立入検査の権限は、犯罪捜査のために認められたものと解釈してはならない。

 (権利関係の調整)

第七条 第三条第六項の規定により牧野管理規程の認可のあつた牧野につき、地方公共団体と当該牧野の利用者との間に、当該牧野の使用又は収益に関する契約がある場合において、その牧野管理規程を遵守するために必要があるときは、地方公共団体は、契約の条件にかかわらず、その必要の限度において、当該契約を変更することができる。

2 地方公共団体は、前項の規定により契約を変更する場合において、当該牧野の利用者が二人以上あるときは、各利用者の利益を公平に考慮しなければならない。

第八条 前条第一項の規定による契約の変更により不利益を受けた当該牧野の利用者は、契約の条件にかかわらず、小作料、賃借料その他その利用の対価につき、相当の減額又は相当の払戻を請求することができる。但し、契約の変更の通知があつた日から三十日を経過したときは、この限りでない。

   第三章 保護牧野

 (改良及び保全の指示)

第九条 牧野が著しく荒廃し、且つ、保水力の減退、土地の侵しゆくその他の事由により国土の保全に重大な障害を与えるおそれのある場合において、その障害を除去するため必要があるときは、都道府県知事は、その必要の限度において、期間及び区域を定め、当該牧野の所有者その他権原に基き管理を行う者に対して、草種又は草生の改良その他牧野の改良及び保全に関しとるべき措置を指示することができる。

2 都道府県知事は、前項の指示をする場合には、左に掲げる基準に準拠してしなければならない。

 一 当該指示に係る措置を実施することが技術的に可能であり、且つ、その措置によつてもたらされる当該牧野の効用の増加に比して、著しく多額の費用を要しないこと。

 二 当該指示に係る措置を実施することが国土の保全を促進するとともに、牧野の利用効率を高めること。

3 都道府県知事は、第一項の指示をしようとするときは、あらかじめ、当該牧野の所有者その他権原に基き管理を行う者に対して、意見を述べる機会を与えなければならない。

 (指示の変更)

第十条 前条第一項の指示を受けた者は、必要があると認めるときは、都道府県知事に対し、当該指示の変更を申請することができる。

2 都道府県知事は、前項の申請があつたとき、又は必要があると認めるときは、前条第一項の指示を変更することができる。

3 前条第三項の規定は、前項の変更について準用する。

 (指示の失効)

第十一条 第九条第一項の指示のあつた牧野(以下「保護牧野」という。)につき、牧野としての用途が廃止されたときは、同条同項の指示は、その効力を失う。

2 第九条第一項の指示を受けた者は、前項の用途廃止の日から三十日以内に、都道府県知事にその旨を届け出なければならない。

 (立入検査)

第十二条 都道府県知事は、第九条第一項の指示に係る措置の実施を確保するため必要があるときは、その職員に当該保護牧野に立ち入らせ、当該指示に係る措置の実施状況を検査させることができる。

2 第六条第三項及び第四項の規定は、前項の立入検査について準用する。

 (完了の届出)

第十三条 第九条第一項の指示を受けた者は、当該指示に係る措置の実施を完了したときは、遅滞なく、その旨を都道府県知事に届け出なければならない。

2 都道府県知事は、前項の届出があつた場合において、当該指示に係る措置の実施が完了していると認めるときは、遅滞なく、その旨を公示しなければならない。

 (損失補償)

第十四条 国は、第九条第一項の指示を実施したため損失を受けた者に対し、その実施により通常生ずべき損失を補償する。

2 第九条第一項の指示は、これに伴い前項の規定によつて必要となる補償金の総額が国会の議決を経た予算の範囲内において、しなければならない。

 (権利関係の調整)

第十五条 契約により所有権以外の権原に基き牧野の管理を行う者が、第九条第一項の指示を受け、当該指示に係る措置を実施するために必要な費用を支出したときは、その者は、契約の相手方に対し、契約期間若しくは永小作権その他の権利の存続期間の延長又は小作料、賃借料その他その利用の対価の減免につき協議を求めることができる。

第十六条 第九条第一項の指示を受け、当該指示に係る措置を実施するために必要な費用を支出した者と当該牧野の利用者との間に、当該牧野の使用又は収益に関する契約がある場合において、当該指示に係る措置を実施したため牧野の効用が増加したときは、その実施者は、契約の条件にかかわらず、小作料、賃貸料その他その利用の対価につき、相当の増額を請求することができる。

2 前項の請求があつたときは、当該牧野の利用者は、その権利を放棄し、又は契約を解除することができる。

 (適用除外)

第十七条 森林法(明治四十年法律第四十三号)第三十六条において準用する同法第十四条の規定により保安林に編入されている牧野については、この章の規定を適用しない。

   第四章 雑則

 (害虫の駆除)

第十八条 都道府県知事は、牧野に害虫が発生し、これが他にまん延するおそれのある場合において、必要があるときは、区域、期間及び駆除の方法を定め、当該牧野の所有者その他権原に基き管理を行う者に対し、その害虫を駆除すべき旨を指示することができる。

 (報告)

第十九条 都道府県知事は、この法律の目的を達するために必要があると認めるときは、牧野の所有者、管理者又は利用者に対し報告徴集の目的を附記した文書をもつて、当該牧野又はその施設に関し、必要な報告を求めることができる。

 (奨励措置)

第二十条 国は、第三条に規定する牧野管理規程に従い牧野の改良事業を行う者、第九条第一項の指示により保護牧野の改良事業を行う者及び第十八条の指示に従い害虫の駆除の事業を行う者に対し、当該事業を行うために必要な限度において、資金の融通、牧野草の種子及び牧野樹林の種苗の供給等に関し、必要な奨励措置を講ずる。

 (処分等の行為の承継人に対する効力)

第二十一条 この法律又はこの法律に基く命令の規定による処分及び手続その他の行為は、当該行為に関係のある土地、物件又は権利につき所有権その他の権利を有する者の承継人に対しても、その効力を有する。

 (河川の敷地及び堤防に関する準用)

第二十二条 第三条から第八条まで及び第十八条から前条までの規定は、河川法(明治二十九年法律第七十一号)第十八条(同法第五条において準用する場合を含む。)の規定により家畜の放牧又はその飼料若しくは敷料の採取の目的に供することを許可された河川の敷地及び堤防に準用する。

 (執行規定)

第二十三条 この法律において政令に委任するものを除く外、この法律の実施のための手続その他その執行について必要な事項は、農林省令で定める。

   第五章 罰則

第二十四条 第九条第一項の規定による指示に違反した者は、三万円以下の罰金に処する。

第二十五条 左の各号の一に該当する者は、一万円以下の罰金に処する。

 一 第十二条第一項の規定による立入検査を拒み、妨げ、又は忌避した者

 二 第十九条(第二十二条において準用する場合を含む。)の規定による報告をせず、又は虚偽の報告をした者

第二十六条 法人の代表者又は法人若しくは人の代理人、使用人その他の従業者が、その法人又は人の業務に関して前二条の違反行為をしたときは、行為者を罰する外、その法人又は人に対して各本条の刑を科する。

第二十七条 第十一条第二項又は第十三条第一項の規定による届出をせず、又は虚偽の届出をした者は、二千円以下の過料に処する。

   附 則

 (施行期日)

1 この法律中第三章の規定は、昭和二十六年四月一日から、その他の規定は、この法律公布の日から起算して九十日をこえない範囲内において政令で定める日から施行する。

 (牧野法の廃止)

2 牧野法(昭和六年法律第三十七号。以下「旧法」という。)は、廃止する。

 (経過規定)

3 この法律の施行の際、現に存する牧野組合については、前項の規定にかかわらず、旧法は、なおその効力を有する。

4 前項の牧野組合であつて、この法律の施行の日から五月を経過した時に現に存するもの(清算中のものを除く。)は、その時に解散する。

5 農林大臣は、前項の期間の経過後、牧野組合の清算をすみやかに行わせ、遅くともこの法律の施行の日から一年以内に、その清算を結了させるように努めなければならない。

6 この法律の施行前(附則第三項の牧野組合については、同項の規定により効力を有する旧法の失効前)にした行為に対する罰則の適用については、この法律の施行後(同項の牧野組合については、同項の規定により効力を有する旧法の失効後)でも、なお従前の例による。

 (関係法律の改正)

7 農林中央金庫法(大正十二年法律第四十二号)の一部を次のように改正する。

  第五条第一項中「牧野組合、」を削る。

8 事業者団体法(昭和二十三年法律第百九十一号)の一部を次のように改正する。

  第六条第一項第二号中「リ 牧野法(昭和六年法律第三十七号)」を「リ 削除」に改める。

9 附則第三項の牧野組合については、その清算が結了するまでの間、前二項の規定にかかわらず、なお従前の例による。

(内閣総理・大蔵・農林・建設大臣署名) 

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