死体解剖保存法

法律第二百四号(昭二四・六・一〇)

第一条 この法律は、死体(妊娠四月以上の死胎を含む。以下同じ。)の解剖及び保存並びに死因調査の適正を期することによつて公衆衛生の向上を図るとともに、医学(歯学を含む。以下同じ。)の教育又は研究に資することを目的とする。

第二条 死体の解剖をしようとする者は、あらかじめ、解剖をしようとする地の保健所長の許可を受けなければならない。但し、左の各号の一に該当する場合は、この限りでない。

一 死体の解剖に関し相当の学識技能を有する医師、歯科医師その他の者であつて、厚生大臣が適当と認定したものが解剖する場合

二 医学に関する大学(大学の学部を含む。以下同じ。)の解剖学、病理学又は法医学の教授又は助教授が解剖する場合

三 第八条の規定により解剖する場合

四 刑事訴訟法(昭和二十三年法律第百三十一号)第百二十九条(第二百二十二条第一項において準用する場合を含む。)、第百六十八条第一項又は第二百二十五条第一項の規定により解剖する場合

五 食品衛生法(昭和二十二年法律第二百三十三号)第二十八条第一項又は第二項の規定により解剖する場合

2 保健所長は、公衆衛生の向上又は医学の教育若しくは研究のため特に必要があると認められる場合でなければ、前項の規定による許可を与えてはならない。

3 第一項の規定による許可に関して必要な事項は、省令で定める。

第三条 厚生大臣は、前条第一項第一号の認定を受けた者が左の各号の一に該当するときは、その認定を取り消すことができる。

一 医師又は歯科医師がその免許を取り消され、又は医業若しくは歯科医業の停止を命ぜられたとき。

二 この法律の規定又はこの法律の規定に基く省令の規定に違反したとき。

三 罰金以上の刑に処せられたとき。

四 認定を受けた日から五年を経過したとき。

第四条 厚生大臣は、第二条第一項第一号の認定又はその認定の取消を行うに当つては、あらかじめ、死体解剖資格審査会の意見を聞かなければならない。

2 厚生大臣は、第二条第一項第一号の認定をしたときは、認定証明書を交付する。

3 第二条第一項第一号の認定及びその認定の取消に関して必要な事項は、省令で定める。

第五条 厚生大臣の諮問に応じて、第二条第一項第一号の認定及びその認定の取消に関する事項を調査審議させるために、厚生大臣の監督に属する死体解剖資格審査会(以下審査会という。)を置く。

2 審査会の構成、委員の任期、議決の方法その他審査会に関し必要な事項は、政令で定める。

第六条 第二条第一項各号の一に該当する場合においては、死体の解剖をした者は、解剖後五日以内に解剖をした地の保健所長にその旨を届け出なければならない。但し、医学に関する大学若しくは医療法(昭和二十三年法律第二百五号)の規定による総合病院(以下総合病院という。)においてした解剖又は第八条の規定によつてした解剖については、この限りでない。この場合においては、その大学若しくは総合病院の長又はその監察医は、一月(身体の正常な構造を明らかにするための解剖については三月)ごとにこれを取りまとめ、遅滞なくその所在地又は解剖地の都道府県知事に届け出なければならない。

2 前項の規定による届出に関し必要な事項は、省令で定める。

第七条 死体の解剖をしようとする者は、その遺族の承諾を受けなければならない。但し、左の各号の一に該当する場合においては、この限りでない。

一 死亡確認後三十日を経過しても、なおその死体について引取者のない場合

二 二人以上の医師(うち一人は歯科医師であつてもよい。)が診療中であつた患者が死亡した場合において、主治の医師を含む二人以上の診療中の医師又は歯科医師がその死因を明らかにするため特にその解剖の必要を認め、且つ、その遺族の所在が不明であり、又は遺族が遠隔の地に居住する等の事由により遺族の諾否の判明するのを待つていてはその解剖の目的がほとんど達せられないことが明らかな場合

三 第二条第一項第三号又は第四号に該当する場合

四 食品衛生法第二十八条第二項の規定により解剖する場合

第八条 政令で定める地を管轄する都道府県知事は、その地域内における伝染病、中毒又は災害により死亡した疑のある死体その他死因の明らかでない死体について、その死因を明らかにするため監察医を置き、これに検案をさせ、又は検案によつても死因の判明しない場合には解剖させることができる。但し、変死体又は変死の疑がある死体については、刑事訴訟法第二百二十九条の規定による検視があつた後でなければ、検案又は解剖させることができない。

2 前項の規定による検案又は解剖は、刑事訴訟法の規定による検証又は鑑定のための解剖を妨げるものではない。

第九条 死体の解剖は、特に設けた解剖室においてしなければならない。但し、特別の事情がある場合において解剖をしようとする地の保健所長の許可を受けた場合及び第二条第一項第四号に掲げる場合は、この限りでない。

第十条 身体の正常な構造を明らかにするための解剖は、医学に関する大学において行うものとする。

第十一条 死体を解剖した者は、その死体について犯罪と関係のある異状があると認めたときは、二十四時間以内に、解剖をした地の警察署長に届け出なければならない。

第十二条 引取者のない死体については、その所在地の市町村長(東京都の区の存する区域、大阪市、京都市、横浜市、名古屋市及び~戸市においては区長とする。以下同じ。)は、医学に関する大学の長(以下学校長という。)から医学の教育又は研究のため交付の要求があつたときは、その死亡確認後、これを交付することができる。

第十三条 市町村長は、前条の規定により死体の交付をしたときは、学校長に死体交付証明書を交付しなければならない。

2 前項の規定による死体交付証明書の交付があつたときは、学校長の行う埋葬又は火葬については、墓地、埋葬等に関する法律(昭和二十三年法律第四十八号)第五条第一項の規定による許可があつたものとみなし、死体交付証明書は、同法第八条第一項の規定による埋葬許可証又は火葬許可証とみなす。

第十四条 第十二条の規定により死体の交付を受けた学校長は、死亡の確認後三十日以内に引取者から引渡の要求があつたときは、その死体を引き渡さなければならない。

第十五条 前条に規定する期間を経過した後においても、死者の相続人その他死者と相当の関係のある引取者から引渡の要求があつたときは、その死体の全部又は一部を引き渡さなければならない。但し、その死体が特に得がたいものである場合において、医学の教育又は研究のためその保存を必要とするときは、この限りでない。

第十六条 第十二条の規定により交付する死体についても、行旅病人及行旅死亡人取扱法(明治三十二年法律第九十三号)に規定する市町村長は、遅滞なく、同法所定の手続(第七条の規定による埋火葬を除く。)を行わなければならない。

第十七条 医学に関する大学又は総合病院の長は、医学の教育又は研究のため特に必要があるときは、遺族の承諾を得て、死体の全部又は一部を標本として保存することができる。

2 遺族の所在が不明のとき、及び第十五条但書に該当するときは、前項の承諾を得ることを要しない。

第十八条 第二条の規定により死体の解剖をすることができる者は、医学の教育又は研究のため特に必要があるときは、解剖をした後その死体(第十二条の規定により市町村長から交付を受けた死体を除く。)の一部を標本として保存することができる。但し、その遺族から引渡の要求があつたときは、この限りでない。

第十九条 前二条の規定により保存する場合を除き、死体の全部又は一部を保存しようとする者は、遺族の承諾を得、且つ、保存しようとする地の都道府県知事の許可を受けなければならない。

2 遺族の所在が不明のときは、前項の承諾を得ることを要しない。

第二十条 死体の解剖を行い、又はその全部若しくは一部を保存する者は、死体の取扱に当つては、特に礼意を失わないように注意しなければならない。

第二十一条 学校長は、第十二条の規定により交付を受けた死体については、行旅病人及行旅死亡人取扱法第十一条及び第十三条の規定にかかわらず、その運搬に関する諸費、埋火葬に関する諸費及び墓標費であつて、死体の交付を受ける際及びその後に要したものを負担しなければならない。

第二十二条 第二条第一項、第十四条又は第十五条の規定に違反した者は、六月以下の懲役又は三万円以下の罰金に処する。

第二十三条 第六条、第九条又は第十九条の規定に違反した者は、二万円以下の罰金に処する。

附 則

1 この法律は、公布の日から起算して六月を経過した日から施行する。但し、第二条第一項第一号の認定及び審査会に関する部分は、公布の日から施行する。

2 大学等へ死体交付に関する法律(昭和二十二年法律第百十号。以下旧法という。)及び死因不明死体の死因調査に関する件(昭和二十二年厚生省令第一号。以下旧令という。)は、廃止する。

3 旧令第二条第一項の規定による監察医は、第八条の規定による監察医とみなす。

4 旧法第一条の規定による死体交付の要求は、第十二条の規定による死体交付の要求とみなす。

5 旧法第一条の規定によつて都道府県知事が交付した死体は、第十二条の規定によつて交付したものとみなす。

6 旧法第二条又は第四条の規定による引取者からの引渡の要求は、第十四条又は第十五条の規定による引取者からの引渡の要求とみなす。

7 この法律施行の際現に標本として保存されている死体については、第十九条の規定を適用しない。

8 学校教育法(昭和二十二年法律第二十六号)第九十八条の規定により大学令(大正七年勅令第三百八十八号)による大学又は専門学校令(明治三十六年勅令第六十一号)による専門学校として、その存続を認められた大学又は専門学校は、第二条第一項第二号、第六条第一項、第十条又は第十二条の規定による大学とみなす。

(法務総裁・文部・厚生・内閣総理大臣署名)

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