水防法

法律第百九十三号(昭二四・六・四)

目次

第一章 総則(第一条・第二条)

第二章 水防組織(第三条―第八条)

第三章 水防活動(第九条―第二十四条)

第四章 指定水防管理団体の組織及び活動(第二十五条―第三十一条)

第五章 費用負担(第三十二条・第三十三条)

第六章 雑則(第三十四条―第三十七条)

第七章 罰則(第三十八条―第四十条)

附則

第一章 総則

 (目的)

第一条 この法律は、洪水又は高潮に際し、水災を警戒し、防ぎよし、及びこれに因る被害を軽減し、もつて公共の安全を保持することを目的とする。

 (定義)

第二条 この法律において「水防管理団体」とは、水害予防組合、水防に関する事務を共同に処理する市町村の組合(以下「市町村組合」という。)又は市町村(特別区を含む。以下同じ。)で、第三条第一項又は第二項の規定により水防の責任を有するものをいう。

2 この法律において「水防管理者」とは、水防管理団体である水害予防組合の管理者又は水防管理団体である市町村組合若しくは市町村の長をいう。

3 この法律において「消防機関」とは、消防組織法(昭和二十二年法律第二百二十六号)第九条に規定する消防の機関をいう。

4 この法律において「消防機関の長」とは、消防本部を置く市町村にあつては消防長を、消防本部を置かない市町村にあつては、消防団の長をいう。

5 この法律において「水防計画」とは、水防上必要な監視、警戒、通信、連絡、輸送及び水こう門の操作、水防のための水防団及び消防機関の活動、一の水防管理団体と他の水防管理団体との間における協力及び応援並びに水防に必要な器具、資材及び設備の整備及び運用に関する計画をいう。

第二章 水防組織

 (水防の責任)

第三条 水害予防組合は、その区域における水防を十分に果すべき責任を有する。

2 水害予防組合の設置されていない区域においては、市町村組合が、水害予防組合及び市町村組合が設置されていない区域においては、市町村が、当該市町村組合又は市町村の区域における水防を十分に果すべき責任を有する。

3 都道府県は、その区域における水防管理団体が行う水防が十分に行われるように確保すべき責任を有する。

 (指定水防管理団体)

第四条 都道府県知事は、水防上公共の安全に重大な関係のある水防管理団体を指定することができる。

 (水防の機関)

第五条 水防管理団体は、水防事務を処理するため、水防団を置くことができる。

2 前条の規定により指定された水防管理団体(以下「指定管理団体」という。)は、その区域内にある消防機関が水防事務を十分に処理することができないと認める場合においては、水防団を置かなければならない。

3 水防団及び消防機関は、水防に関しては水防管理者の所轄の下に行動する。

 (水防団)

第六条 水防団は、水防団長及び水防団員をもつて組織する。

2 水防団の設置、区域及び組織並びに水防団長及び水防団員の定員、任免、給与、扶助及び服務に関する事項は、水害予防組合にあつては、組合会の議決で、市町村組合又は市町村にあつては、条例で、定める。

 (都道府県の水防計画)

第七条 都道府県知事は、水防事務の調整及びその円滑な実施のため、都道府県水防協議会にはかつて、当該都道府県の水防計画を定め、建設大臣の承認を受け、且つ、承認を受けた水防計画を国家消防庁長官に報告しなければならない。

2 二以上の都府県に関係する水防事務については、関係都道府県知事は、あらかじめ協定して当該都府県の水防計画を定めなければならない。

 (都道府県水防協議会)

第八条 都道府県の水防計画その他水防に関し重要な事項を調査審議させるため、都道府県に都道府県水防協議会を置く。

2 都道府県水防協議会は、水防に関し関係機関に対して意見を述べることができる。

3 都道府県水防協議会は、会長一人及び委員十五人以内で組織する。

4 会長は、都道府県知事をもつて充てる。委員は、関係行政機関の職員並びに水防に関係のある団体の代表者及び学識経験のある者のうちから都道府県知事が命じ、又は委嘱する。

5 前各項に定めるものの外、都道府県水防協議会に関し必要な事項は、当該都道府県条例で定める。

第三章 水防活動

 (河川等の巡視)

第九条 水防管理者、水防団長又は消防機関の長は、随時区域内の河川、海岸堤防等を巡視し、水防上危険であると認められる箇所があるときは、直ちに当該河川、海岸堤防等の管理者に連絡して必要な措置を求めなければならない。

 (気象予報)

第十条 中央気象台長、管区気象台長又は測候所長は、気象の状況により洪水又は高潮の虞があると認めるときは、その状況を建設大臣及び関係都道府県知事に通知するとともに、必要に応じ放送機関、新聞社、通信社その他の報道機関の協力を求めて、これを一般に周知させなければならない。

 (優先通行)

第十一条 都道府県知事の定める標識を有する車馬が水防のため出動するときは、車馬及び歩行者は、これに道を譲らなければならない。

 (緊急通行)

第十二条 水防団長、水防団員及び消防機関に属する者は、水防上緊急の必要がある場所におもむくときは、一般交通の用に供しない通路又は公共の用に供しない空地及び水面を通行することができる。

 (水防信号)

第十三条 都道府県知事は、水防に用いる信号を定めなければならない。

2 何人も、みだりに前項の水防信号又はこれに類似する信号を使用してはならない。

 (警戒区域)

第十四条 水防上緊急の必要がある場所においては、水防団長、水防団員又は消防機関に属する者は、警戒区域を設定し、水防関係者以外の者に対して、その区域への立入を禁止し、若しくは制限し、又はその区域からの退去を命ずることができる。

2 前項の場所においては、水防団長、水防団員若しくは消防機関に属する者がいないとき、又はこれらの者の要求があつたときは、警察官又は警察吏員は、同項に規定する者の職権を行うことができる。

 (警察官又は警察吏員の援助の要求)

第十五条 水防管理者は、水防のため必要があると認めるときは、警察署長に対して、警察官又は警察吏員の出動を求めることができる。

 (応援)

第十六条 水防のため緊急の必要があるときは、水防管理者は、他の水防管理者、市町村長又は消防長に対して応援を求めることができる。応援を求められた者は、できる限りその求に応じなければならない。

2 応援のため派遣された者は、水防については応援を求めた水防管理者の所轄の下に行動するものとする。

3 第一項の規定による応援のために要する費用の負担は、応援を求めた水防管理団体と応援した水防管理団体との間に協議により定める。

 (居住者等の水防義務)

第十七条 水防管理者、水防団長又は消防機関の長は、水防のためやむを得ない必要があるときは、当該水防管理団体の区域内に居住する者、又は水防の現場にある者をして水防に従事させることができる。

 (決壊の通報)

第十八条 水防に際し、堤防その他の施設が決壊したときは、水防管理者、水防団長又は消防機関の長は、直ちにこれを関係者に通報しなければならない。

 (決壊後の処置)

第十九条 堤防その他の施設が決壊したときにおいても、水防管理者、水防団長及び消防機関の長は、できる限りはん濫による被害が拡大しないように努めなければならない。

 (水防通信)

第二十条 何人も、水防上緊急を要する通信が最も迅速に行われるように協力しなければならない。

2 建設大臣、都道府県知事、水防管理者、水防団長、消防機関の長又はこれらの者の命を受けた者は、水防上緊急を要する通信のために、公衆通信施設を優先的に利用し、又は警察通信施設、気象官署通信施設、鉄道通信施設、日本発送電株式会社通信施設その他の専用通信施設を使用することができる。

 (公用負担)

第二十一条 水防のため緊急の必要があるときは、水防管理者、水防団長又は消防機関の長は、水防の現場において、必要な土地を一時使用し、土石、竹木その他の資材を使用し、若しくは収用し、車馬その他の運搬具若しくは器具を使用し、又は工作物その他の障害物を処分することができる。

2 水防管理団体は、前項の規定により損失を受けた者に対し、時価によりその損失を補償しなければならない。

 (立退の指示)

第二十二条 洪水又は高潮のはん濫により著しい危険が切迫していると認められるときは、都道府県知事、その命を受けた都道府県の職員又は水防管理者は、必要と認める区域の居住者に対し、避難のため立ち退くべきことを指示することができる。水防管理者が指示をする場合においては、当該区域を管轄する警察署長にその旨を通知しなければならない。

 (知事の指示)

第二十三条 水防上緊急を要するときは、都道府県知事は、水防管理者、水防団長又は消防機関の長に対して指示をすることができる。

 (重要河川における建設大臣の指示)

第二十四条 二以上の都府県に関係がある河川で、公共の安全を保持するため特に重要なものの水防上緊急を要するときは、建設大臣は、都道府県知事、水防管理者、水防団長又は消防機関の長に対して指示をすることができる。

第四章 指定水防管理団体の組織及び活動

 (水防計画)

第二十五条 指定管理団体の水防管理者は、当該団体の水防協議会にはかつて、都道府県の水防計画に応じた水防計画を定め、都道府県知事の承認を受けなければならない。

 (水防協議会)

第二十六条 指定管理団体の水防計画その他水防に関し重要な事項を調査審議させるため、指定管理団体に水防協議会を置く。

2 指定管理団体の水防協議会は、水防に関し関係機関に対して意見を述べることができる。

3 指定管理団体の水防協議会は、会長一人及び委員二十人以内で組織する。

4 会長は、指定管理団体の水防管理者をもつて充てる。委員は、関係行政機関の職員並びに水防に関係のある団体の代表者及び学識経験のある者のうちから指定管理団体の水防管理者が命じ、又は委嘱する。

5 前各項に定めるものの外、指定管理団体の水防協議会に関し必要な事項は、水害予防組合にあつては組合会の議決で、市町村組合又は市町村にあつては、条例で定める。

 (水防団員の定員の基準)

第二十七条 都道府県は、条例で、指定管理団体の水防団員の定員の基準を定めることができる。

 (水防団の訓練)

第二十八条 指定管理団体は、毎年水防団及び消防機関の水防訓練を行わなければならない。

 (気象予報の通知)

 

第二十九条 都道府県知事は、第十条の規定による通知を受けた場合においては、直ちに関係指定管理団体の水防管理者及び量水標、験潮儀その他の水位観測施設(以下「量水標等」という。)で建設省令で定めるものの管理者(以下「量水標管理者」という。)に、その受けた通知に係る状況を通知しなければならない。

 (水位の通報)

第三十条 指定管理団体の水防管理者又は量水標管理者は、洪水又は高潮の虞があることを知り、又は前条の規定による通知を受けた場合において、量水標等の示す水位が都道府県知事の定める通報水位をこえるときは、その水位の状況を、水防計画の定めるところにより、関係者に通報しなければならない。

 (水防団及び消防機関の出動)

第三十一条 指定管理団体の水防管理者は、水位が都道府県知事の定める警戒水位に達したときその他必要と認めるときは、水防団及び消防機関を出動させなければならない。

第五章 費用負担

 (水防管理団体の費用負担)

第三十二条 水防管理団体の水防に要する費用は、当該水防管理団体が負担するものとする。

 (都道府県の費用負担)

第三十三条 この法律の規定により都道府県又は都道府県知事の行う事務に要する費用は、当該都道府県の負担とする。

第六章 雑則

 (扶助)

第三十四条 第十六条又は第十七条の規定により水防に従事した者がこれに従事したことに因り負傷し、疾病にかかり又は死亡したときは、水害予防組合にあつては、組合会の議決により、市町村組合又は市町村にあつては、条例の定めるところにより、扶助金を支給する。

 (報告)

第三十五条 建設大臣及び国家消防庁長官は、都道府県又は水防管理団体に対し、水防に関し必要な報告をさせることができる。

2 都道府県知事は、都道府県の区域内における水防管理団体に対し、水防に関し必要な報告をさせることができる。

 (資料の提出及び立入)

第三十六条 都道府県知事又は水防管理者は、水防計画を作成するために必要があると認めるときは、関係者に対して資料の提出を命じ、又は当該職員、水防団長、水防団員若しくは消防機関に属する者をして必要な土地に立ち入らせることができる。

2 都道府県の職員、水防団長、水防団員若しくは消防機関に属する者は、前項の規定により必要な土地に立ち入る場合においては、その身分を示す証票を携帯し、関係人の請求があつたときは、これを呈示しなければならない。

 (消防事務との調整)

第三十七条 水防管理者は、水防事務と水防事務以外の消防事務とが競合する場合の措置について、あらかじめ市町村長と協議して置かなければならない。

第七章 罰則

第三十八条 みだりに水防管理団体の管理する水防の用に供する器具、資材又は設備を損壊し、又は撤去した者は、三年以下の懲役又は五万円以下の罰金に処する。

2 前項の者には、情状により懲役及び罰金を併科することができる。

第三十九条 刑法(明治四十年法律第四十五号)第百二十一条の規定の適用がある場合を除き、第十四条の規定による立入の禁止若しくは制限又は退去の命令に従わなかつた者は、六月以下の懲役又は一万円以下の罰金に処する。

第四十条 左の各号の一に該当する者は、一万円以下の罰金又は拘留に処する。

一 みだりに水防管理団体の管理する水防の用に供する器具、資材又は設備を使用し、又はその正当な使用を妨げた者

二 第十三条第二項の規定に違反した者

三 第三十六条の規定による資料を提出せず、若しくは虚偽の資料を提出し、又は同条の規定による立入を拒み、妨げ、若しくは忌避した者

附 則

1 この法律は、公布の日から起算して六十日を経過した日から施行する。

2 消防組織法の一部を次のように改正する。

第二十四条第二項中「及び市町村長」を「、市町村長及び水防法に規定する水防管理者」に改める。

3 消防法(昭和二十三年法律第百八十六号)の一部を次のように改正する。

第一条中「水火災」を「火災」に、第三十六条及び第四十条第二項第二号中「水災その他の災害」を「水災を除く他の災害」に改める。

4 水利組合法(明治四十一年法律第五十号)の一部を次のように改正する。

第八条中「土地、家屋及組合規約ニ指定スル工作物ヲ所有スル者」を「土地、家屋若ハ組合規約ニ指定スル工作物其ノ他ノ物件ヲ所有スル者及所有権以外ノ権原ニ基キ之等ノモノヲ占有スル者」に改める。

第四十八条第一項を次のように改める。

普通水利組合費ハ土地ニ対シテ之ヲ賦課スルモノトス

第四十八条第二項の次に次の一項を加える。

水害予防組合費ハ組合規約ノ定ムル所ニ依リ第八条ニ規定スル土地、家屋、工作物其ノ他ノ物件ニ付之ヲ賦課スルコトヲ得

(内閣総理・建設大臣署名)

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