温泉法

法律第百二十五号(昭二三・七・一〇)

第一章 総則

第一条 この法律は、温泉を保護しその利用の適正を図り、公共の福祉の増進に寄与することをもつて目的とする。

第二条 この法律で「温泉」とは、地中からゆう出する温水、鉱水及び水蒸気その他のガス(炭化水素を主成分とする天然ガスを除く。)で、別表に掲げる温度又は物質を有するものをいう。

2 この法律で「温泉源」とは、未だ採取されない温泉をいう。

第二章 温泉の保護

第三条 温泉をゆう出させる目的で土地を掘さくしようとする者は、省令の定めるところにより、都道府県知事に申請してその許可を受けなければならない。

2 前項の許可を受けようとする者は、掘さくに必要な土地を掘さくのために使用する権利を有する者でなければならない。

3 都道府県知事は、温泉を工業用に利用する目的で第一項の申請をした者に対して許可を与えるときは、あらかじめ商工局長に協議しなければならない。

第四条 都道府県知事は、温泉のゆう出量、温度若しくは成分に影響を及ぼし、その他公益を害する虞があると認めるときの外は、前条第一項の許可を与えなければならない。不許可の処分は、理由を附した書面をもつてこれを行わなければならない。

第五条 第三条第一項の許可を受けた者が、許可の日から一年以内に工事に着手せず、又は着手後一年以上その工事を中止したときは、都道府県知事は、その許可を取り消すことができる。但し、已むを得ない事由がある場合はこの限りでない。

第六条 都道府県知事は、第三条第一項の許可を与えた後第四条に規定する事由があると認めるときは、その許可を取り消し、又はその許可を受けた者に対して、公益上必要な措置を命ずることができる。

第七条 第三条第一項の許可が取り消されたとき、又は許可を受けて掘さくした場所に温泉がゆう出しないときは、都道府県知事は、その許可を受けた者に対して原状回復を命ずることができる。同項の許可を受けないで土地を掘さくした者に対しても、また同様とする。

第八条 温泉のゆう出路を増掘し、又は温泉のゆう出量を増加させるために動力を装置しようとする者は、省令の定めるところにより、都道府県知事に申請してその許可を受けなければならない。

2 前四条の規定は、前項の増掘又は動力の装置について、これを準用する。

第九条 都道府県知事は、温泉源保護のため必要があると認めるときは、温泉源より温泉を採取する者に対して、温泉の採取の制限を命ずることができる。

2 都道府県知事は、工業用に利用する目的で温泉を採取する者に対して、前項の命令をするときは、あらかじめ商工局長に協議しなければならない。

第十条 都道府県知事が、第三条第一項又は第八条第一項の規定による処分をする場合において隣接都府県における温泉のゆう出量、温度又は成分に影響を及ぼす虞があるときは、あらかじめ厚生大臣の承認を得なければならない。

第十一条 温泉をゆう出させる目的以外の目的で土地を掘さくしたため温泉のゆう出量、温度又は成分に著しい影響を及ぼす場合において公益上必要があると認めるときは、都道府県知事は、土地を掘さくした者に対してその影響を阻止するに必要な措置を命ずることができる。

2 都道府県知事が、法令の規定に基く他の行政庁の許可又は認可を受けて土地を掘さくした者に対して前項の措置を命じようとするときは、あらかじめ当該行政庁と協議しなければならない。

第三章 温泉の利用

第十二条 温泉を公共の浴用又は飲用に供しようとする者は、省令の定めるところにより、都道府県知事に申請してその許可を受けなければならない。

2 前項の許可を受けようとする者は、政令の定める手数料を納めなければならない。

3 都道府県知事は、温泉の成分が衛生上有害であると認めるときは、第一項の許可を与えないことができる。但し、この場合においては、都道府県知事は、理由を附した書面をもつて、その旨を通知しなければならない。

第十三条 温泉を公共の浴用又は飲用に供する者は、施設内の見易い場所に、省令の定めるところにより、温泉の成分、禁忌症及び入浴又は飲用上の注意を掲示しなければならない。

第十四条 厚生大臣は、温泉の公共的利用増進のため、施設の整備及び環境の改善に必要な地域を指定することができる。

第十五条 厚生大臣又は都道府県知事は、前条の規定により指定する地域内において、温泉の公共的利用増進のため特に必要があると認めるときは、省令の定めるところにより、温泉利用施設の管理者に対して、温泉利用施設又はその管理方法の改善に関し必要な指示をすることができる。

第十六条 都道府県知事は、温泉源より温泉を採取する者、又は温泉利用施設の管理者に対して、温泉のゆう出量、温度、成分、利用状況その他必要な事項について報告させることができる。

2 商工局長は、工業用に利用する目的で温泉を採取する者又はその利用施設の管理者に対して、前項の報告をさせることができる。

第十七条 都道府県知事は、必要があると認めるときは、当該吏員に温泉の利用施設に立ち入り、温泉のゆう出量、温度、成分及び利用状況を検査させることができる。

2 商工局長は、必要があると認めるときは、当該官吏に温泉を工業用に利用する施設に対して、前項の立入検査をさせることができる。

3 当該官吏又は吏員が前二項の規定により立入検査をする場合においては、その身分を示す証票を携帯し、且つ、関係人の請求があるときは、これを呈示しなければならない。

第十八条 都道府県知事は、公衆衛生上必要があると認めるときは、温泉源から温泉を採取する者又は温泉利用施設の管理者に対して、第十二条第一項の許可を取り消し、又は温泉の利用の制限若しくは危害予防の措置を命ずることができる。

第四章 諮問及び聴聞

第十九条 厚生大臣又は都道府県知事の諮問に応じ、温泉及びこれに関する行政に関し調査審議させるため、温泉審議会を置く。

2 温泉審議会は、中央温泉審議会及び都道府県温泉審議会とし、中央温泉審議会は厚生省に、都道府県温泉審議会は都道府県に、これを置く。

第二十条 厚生大臣は、第十条の規定による承認を与え、又は第十四条の規定による地域を指定しようとするときは、中央温泉審議会の意見を聞かなければならない。

2 都道府県知事は、第三条第一項、第四条(第八条第二項において準用する場合を含む。)、第六条(第八条第二項において準用する場合を含む。)、第八条第一項又は第九条の規定による処分をしようとするときは、都道府県温泉審議会の意見を聞かなければならない。

第二十一条 都道府県知事が、第五条(第八条第二項において準用する場合を含む。)、第六条(第八条第二項において準用する場合を含む。)、第九条又は第十八条の規定による処分をしようとするときは、その処分を受くべき者にその処分の理由を通知し、本人又はその代理人の出頭を求めて、公開による聴聞を行わなければならない。

第五章 罰則

第二十二条 第三条第一項又は第八条第一項の規定に違反した者は、これを一年以下の懲役又は一万円以下の罰金に処する。

2 前項の刑は、情状により、これを併科することができる。

第二十三条 左の各号の一に該当する者は、これを六月以下の懲役又は五千円以下の罰金に処する。

一 第六条(第八条第二項において準用する場合を含む。)、第七条(第八条第二項及び第二十九条第二項において準用する場合を含む。)、第九条又は第十八条の規定による都道府県知事の命令に従わない者

二 第十二条第一項の規定に違反した者

第二十四条 左の各号の一に該当する者は、これを五千円以下の罰金に処する。

一 第十三条の規定に違反した者

二 第十六条の規定による報告をせず、又は虚偽の報告をした者

三 第十七条第一項又は第二項の規定による当該官吏又は吏員の立入検査を拒み、妨げ、又は忌避した者

第二十五条 法人の代表者又は法人若しくは人の代理人、使用人その他の従業者が、その法人又は人の業務に関し、前三条の違反行為をしたときは、行為者を罰する外、その法人又は人に対しても、各本条の罰金刑を科する。

附 則

第二十六条 この法律は、公布の日から起算して三十日を経過した日から、これを施行する。

第二十七条 この法律施行の際、現に従前の命令の規定により、温泉をゆう出させる目的で土地の掘さくの許可を受けてその工事に着手している者は、第三条第一項の許可を受けたものとみなす。

第二十八条 この法律施行の際、現に従前の命令の規定により、温泉のゆう出路の増掘若しくはしゆんせつの許可又は温泉のゆう出量を増加させるための動力装置の許可を受けて、その工事に着手している者は、第八条第一項の規定による許可を受けたものとみなす。

第二十九条 昭和二十三年一月一日以後この法律施行までの間において、温泉をゆう出させる目的で土地の掘さくをした者又は温泉のゆう出路を増掘し、若しくは温泉のゆう出量を増加させるため動力装置をした者は、この法律施行の日から、三月以内に第三条第一項又は第八条第一項の規定によりその許可の申請をしなければならない。その申請に対して許否の処分があるまでは、第三条第一項又は第八条第一項の許可があつたものとみなす。

2 前項の期間内に許可の申請をせず、又は申請に対して不許可の処分があつたときは、第七条の規定を準用する。

第三十条 この法律施行の際、現に温泉を公共の浴用又は飲用に供している者は、この法律施行の日から三月間は、第十二条第一項の規定に拘わらず、引き続き温泉を公共の浴用又は飲用に供することができる。

2 前項の規定に該当する者は、この法律施行後三月以内に、都道府県知事にその旨を届け出なければならない。

3 前項の届出をした者は、第十二条第一項の許可を受けたものとみなす。

別表

一 温 度(温泉源から採取されるときの温度とする。)

摂氏二十五度以上

二 物 質(左に掲げるもののうち、いづれか一)

物質名

含有量(一キログラム中)

溶存物質(ガス性のものを除く。)

総量一、〇〇〇ミリグラム以上

遊離炭酸(CO2

二五〇ミリグラム以上

リチウムイオン(Li

一ミリグラム以上

ストロンチウムイオン(Sr・・

一〇ミリグラム以上

バリウムイオン(Ba・・

五ミリグラム以上

フエロ又はフエリイオン(Fe・・,Fe・・・

一〇ミリグラム以上

第一マンガンイオン(Mn・・

一〇ミリグラム以上

水素イオン(H

一ミリグラム以上

臭素イオン(Br’)

五ミリグラム以上

沃素イオン(I’)

一ミリグラム以上

ふつ素イオン(F’)

二ミリグラム以上

ヒドロひ酸イオン(HAsO4”)

一・三ミリグラム以上

メタ亜ひ酸(HAsO2

一ミリグラム以上

総硫黄(S)〔HS’+S2O3”+H2Sに対応するもの〕

一ミリグラム以上

メタほう酸(HBO2

五ミリグラム以上

メタけい酸(H2SiO3

五〇ミリグラム以上

重炭酸そうだ(NaHCO3

三四〇ミリグラム以上

ラドン(Rn)

二〇(百億分の一キユリー単位)以上

ラヂウム塩(Raとして)

一億分の一ミリグラム以上

(厚生・商工・内閣総理大臣署名)

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