日本学術会議法
法津第百二十一号(昭二三・七・一〇)
日本学術会議は、科学が文化国家の基礎であるという確信に立つて、科学者の総意の下に、わが国の平和的復興、人類社会の福祉に貢献し、世界の学界と提携して学術の進歩に寄与することを使命とし、ここに設立される。
第一章 設立及び目的
第一条 この法律により日本学術会議を設立し、この法律を日本学術会議法と称する。
2 日本学術会議は、内閣総理大臣の所轄とする。
3 日本学術会議に関する経費は、国庫の負担とする。
第二条 日本学術会議は、わが国の科学者の内外に対する代表機関として、科学の向上発達を図り、行政、産業及び国民生活に科学を反映浸透させることを目的とする。
第二章 職務及び権限
第三条 日本学術会議は、独立して左の職務を行う。
一 科学に関する重要事項を審議し、その実現を図ること。
二 科学に関する研究の連絡を図り、その能率を向上させること。
第四条 政府は、左の事項について、日本学術会議に諮問することができる。
一 科学に関する研究、試験等の助成、その他科学の振興を図るために政府の支出する交付金、補助金等の予算及びその配分
二 政府所管の研究所、試験所及び委託研究費等に関する予算編成の方針
三 特に専門科学者の検討を要する重要施策
四 その他日本学術会議に諮問することを適当と認める事項
第五条 日本学術会議は、左の事項について、政府に勧告することができる。
一 科学の振興及び技術の発達に関する方策
二 科学に関する研究成果の活用に関する方策
三 科学研究者の養成に関する方策
四 科学を行政に反映させる方策
五 科学を産業及び国民生活に浸透させる方策
六 その他日本学術会議の目的の遂行に適当な事項
第六条 政府は、日本学術会議の求に応じて、資料の提出、意見の開陳又は説明をすることができる。
第三章 組織
第七条 日本学術会議は、選挙された二百十人の日本学術会議会員(以下会員という。)をもつて、これを組織する。
2 会員の任期は、三年とする。但し、再選を妨げない。
3 会員には、手当を支給することができる。
第八条 日本学術会議に、会長一人及び副会長二人を置く。
2 会長は、会員の互選によつて、これを定める。
3 副会長は、人文科学部門又は自然科学部門に属する会員のうちから、それぞれ一人を全部の会員の互選によつて定める。
4 会長及び副会長の任期は、会員としての在任期間とする。但し、再選を妨げない。
5 会長又は副会長が欠員となつたときは、新たにこれを互選する。
第九条 会長は、会務を総理し、日本学術会議を代表する。
2 副会長は、会長を補佐し、会長に事故があるときは、会長の指名により、いずれかの一人が、その職務を代理する。
第十条 日本学術会議に、左の区分により、左の七部を置く。
人文科学部門
第一部(文学、哲学、史学)
第二部(法律学、政治学)
第三部(経済学、商学)
自然科学部門第四部(理学)
第五部(工学)
第六部(農学)
第七部(医学、歯学、薬学)
第十一条 会員は、前条に掲げる部のいずれかに分属するものとし、各部の定員は、それぞれ三十人とする。
2 各部の定員は、別表の定めるところにより、これを全国区定員と地方区定員とに、全国区定員は、これを専門別定員と専門にかかわらない定員とに分ける。
3 地方区定員は、各地方区において選出された会員一人ずつで、満たされるものとする。
第十二条 各部に、部長及び副部長各々一人並びに幹事二人を置き、その部に属する会員の互選によつて、これを定める。
2 第八条第四項及び第五項の規定は、部長、副部長及び幹事について、これを準用する。
第十三条 部長は、部務を掌理する。
2 副部長は、部長を補佐し、部長に事故があるときは、その職務を代理する。
3 幹事は、部長の命を受け、部務に従事する。
第十四条 日本学術会議に、その運営に関する事項を審議させるため、運営審議会を置く。
2 運営審議会は、会長、副会長、部長、副部長及び幹事をもつて、これを組織する。
第十五条 日本学術会議に、常置又は臨時の委員会を置くことができる。
2 前項の委員会の委員には、手当を支給することができる。
第十六条 日本学術会議に、事務局を置き、日本学術会議に関する事務を処理させる。
2 事務局に、政令の定めるところにより、局長その他所要の職員を置く。
3 前項の職員中、局長並びに一級及び二級の官吏の任免は、会長の申出を考慮して内閣総理大臣がこれを行い、三級官吏以下の任免は、局長がこれを行う。
第四章 会員の選挙
第十七条 科学者であつて、左の資格の一を有する者は、会員の選挙権及び被選挙権を有する。
一 学校教育法(昭和二十二年法律第二十六号)又は旧大学令(大正七年勅令第三百八十八号)による大学卒業後二年以上の者
二 旧専門学校令(明治三十六年勅令第六十一号)による専門学校、旧師範教育令(昭和十八年勅令第百九号)による教員養成諸学校又はこれらの学校と同等以上の学校、養成所等を卒業後四年以上の者
三 その他研究歴五年以上の者
2 前項の科学者は、科学又は技術の研究者であつて、研究論文若しくは業績報告又はこれに代るべき所属の学会若しくは研究機関の責任者の証明により、研究者であることが証明される者でなければならない。
第十八条 前条の規定により選挙権を有する者(以下有権者という。)は、事務局に備えた各部ごとの名簿に登録しなければ、選挙権を行使することができない。
第十九条 会員の選挙は、全国区と地方区とに分け、各部ごとに、同時に、これを行う。
第二十条 日本学術会議に、選挙管理会を設け、有権者の資格審査、選挙の実施、投票の効力の決定その他選挙に関する事務を行わせる。
第二十一条 前四条に定めるものの外、会員の選挙に関して必要な事項は、日本学術会議の定める選挙規則で、これを定める。
第五章 会議
第二十二条 日本学術会議の会議は、総会、部会及び連合部会とする。
2 総会は、日本学術会議の最高議決機関とし、年二回会長がこれを招集する。但し、必要があるときは、臨時にこれを招集することができる。
3 部会は、各部に関する事項を審議し、部長がこれを招集する。
4 連合部会は、二以上の部門に関連する事項を審議し、関係する部の部長が、共同してこれを招集する。
第二十三条 総会は、会員の二分の一以上の出席がなければ、これを開くことができない。
2 総会の議決は、出席会員の多数決による。
3 部会及び連合部会の会議については、前二項の規定を準用する。
第六章 日本学士院
第二十四条 日本学術会議に、学術上の功績顕著な科学者を優遇するために、日本学士院を置く。
2 日本学士院は、学術の研究を奨励するため、特にすぐれた論文、著書その他特定の研究業績に対して授賞することができる。
3 日本学士院は、日本学士院会員をもつてこれを組織する。
4 日本学士院会員の数は、百五十人とし、日本学術会議がこれを選定する。
5 日本学士院会員は、終身とする。
6 日本学士院会員には、予算の範囲内で、内閣総理大臣の定めるところにより、年金を支給することができる。
第七章 雑則
第二十五条 会員は、病気その他やむを得ない事由があるときは、総会の議決によつて退職することができる。
第二十六条 会員に、会員として不適当な行為があるときは、総会における出席会員三分の二以上の議決によつて退職させることができる。
第二十七条 会員に欠員を生じたときは、全国区、地方区ともに、あらかじめ選挙管理会の指定する次点者をもつて補充する。
2 前項による補欠会員の任期は、前任者の残任期間とする。
第二十八条 会長は、総会の議決を経て、日本学術会議の運営に関し、必要な運営規則を定めることができる。
附 則
第二十九条 この法律のうち、第三十四条及び第三十五条の規定は、この法律の公布の日から、これを施行し、その他の規定は、昭和二十四年一月二十日から、これを施行する。
第三十条 日本学士院規程(明治三十九年勅令第百四十九号)、学術研究会議官制(大正九年勅令第二百九十七号)及び日本学士院会員の待遇に関する件(大正三年勅令第二百五十八号)は、これを廃止する。
第三十一条 従前、日本学士院及び学術研究会議において所掌した事務でその廃止の日に残存するものは、日本学術会議においてこれを処理する。
第三十二条 第二十四条及び第三十条の規定施行の際、日本学士院規程によつて任命された日本学土院会員は、引き続きこの法律による日本学士院会員となつたものとする。
第三十三条 第一回に選出された会員の任期は、第七条第二項の規定にかかわらず、これを二年とする。
第三十四条 第一回の会員選挙は、第四章の規定に従い、学術体制刷新委員会がこれを行う。この場合において、第四項中「日本学術会議」とあるのは、「学術体制刷新委員会」と読み替えるものとする。
2 日本学術会議の第一回総会は、学術体制刷新委員会委員長が、これを招集する。
3 前二項に要する経費は、国庫の負担とする。
第三十五条 第一回の会員選挙のための選挙管理会は、中央選挙管理会及び地方選挙管理会とする。
2 地方選挙管理会は、各地方区にこれを置き、中央選挙管理会の事務の執行に協力するものとする。
3 中央選挙管理会の委員は百四人とし、学術体制刷新委員会において、これを選定する。但し、うち七人は各地方選挙管理会の委員のうちから一人づゝを選定するものとする。
4 地方選挙管理会の委員は、各地方区ごとに十四人以内とし、学術体制刷新委員会地方連絡委員会において、これを選定する。
別表
部別 |
全国区定員 |
地方区定員 |
合計 |
||
専門別定員 |
専門にかかわらない定員 |
||||
第一部 |
哲学 |
四 |
一一 |
七 |
三〇 |
史学 |
四 |
||||
文学 |
四 |
||||
第二部 |
法学一般 |
二 |
一三 |
七 |
三〇 |
公法学 |
二 |
||||
民事法学 |
二 |
||||
刑事法学 |
二 |
||||
政治学 |
二 |
||||
第三部 |
経済学 |
五 |
一三 |
七 |
三〇 |
商学 |
五 |
||||
第四部 |
数学 |
一 |
一二 |
七 |
三〇 |
天文学 |
一 |
||||
物理学 |
一 |
||||
地球物理学 |
一 |
||||
化学 |
一 |
||||
動物学 |
一 |
||||
植物学 |
一 |
||||
地質学 |
一 |
||||
鉱物学 |
一 |
||||
地理学 |
一 |
||||
人類学 |
一 |
||||
第五部 |
応用物理学 |
一 |
一四 |
七 |
三〇 |
機械工学 |
一 |
||||
電気工学 |
一 |
||||
造船学 |
一 |
||||
土木工学 |
一 |
||||
建築学 |
一 |
||||
鉱山学 |
一 |
||||
金属工学 |
一 |
||||
応用化学 |
一 |
||||
第六部 |
農学 |
一 |
一五 |
七 |
三〇 |
農芸化学 |
一 |
||||
林学 |
一 |
||||
水産学 |
一 |
||||
農業経済学 |
一 |
||||
農業工学 |
一 |
||||
畜産学 |
一 |
||||
蚕糸学 |
一 |
||||
第七部 |
基礎医学 |
四 |
八 |
七 |
三〇 |
臨床医学 |
四 |
||||
公衆衛生学 |
二 |
||||
歯学 |
二 |
||||
薬学 |
三 |
||||
合計 |
七五 |
八六 |
四九 |
二一〇 |
(大蔵・文部・内閣総理大臣署名)