国際捜査共助法
法律第六十九号(昭五五・五・二九)
(定義)
第一条 この法律において、次の各号に掲げる用語の意義は、それぞれ当該各号に定めるところによる。
一 共助 外国の要請により、当該外国の刑事事件の捜査に必要な証拠を提供することをいう。
二 要請国 日本国に対して共助の要請をした外国をいう。
三 共助犯罪 要請国からの共助の要請において捜査の対象とされている犯罪をいう。
(共助の制限)
第二条 次の各号のいずれかに該当する場合には、共助をすることはできない。
一 共助犯罪が政治犯罪であるとき、又は共助の要請が政治犯罪について捜査する目的で行われたものと認められるとき。
二 共助犯罪に係る行為が日本国内において行われたとした場合において、その行為が日本国の法令によれば罪に当たるものでないとき。
三 日本国が行う同種の要請に応ずる旨の要請国の保証がないとき。
四 証人尋問又は証拠物の提供に係る要請については、その証拠が捜査に欠くことのできないものであることを明らかにした要請国の書面がないとき。
(要請の受理及び証拠の送付)
第三条 共助の要請の受理及び要請国に対する証拠の送付は、外務大臣が行う。ただし、緊急その他特別の事情がある場合において、外務大臣が同意したときは、法務大臣が行うものとする。
(外務大臣の措置)
第四条 外務大臣は、共助の要請を受理したときは、第二条第三号に該当する場合を除き、共助要請書又は外務大臣の作成した共助の要請があつたことを証明する書面に関係書類を添付し、意見を付して、これを法務大臣に送付するものとする。
(法務大臣の措置)
第五条 法務大臣は、第二条各号(前条の規定による送付を受けた場合にあつては、第二条第一号、第二号又は第四号)のいずれにも該当せず、かつ、要請に応ずることが相当であると認めるときは、次項に規定する場合を除き、次の各号のいずれかの措置を採るものとする。
一 相当と認める地方検察庁の検事正に対し、関係書類を送付して、共助に必要な証拠の収集を命ずること。
二 国家公安委員会に共助の要請に関する書面を送付すること。
三 海上保安庁長官その他の刑事訴訟法(昭和二十三年法律第百三十一号)第百九十条に規定する司法警察職員として職務を行うべき者の置かれている国の機関の長に共助の要請に関する書面を送付すること。
2 法務大臣は、共助の要請が裁判所、検察官又は司法警察員の保管する訴訟に関する書類の提供に係るものであるときは、その書類の保管者に共助の要請に関する書面を送付するものとする。
(国家公安委員会の措置)
第六条 国家公安委員会は、前条第一項第二号の書面の送付を受けたときは、相当と認める都道府県警察に対し、関係書類を送付して、共助に必要な証拠の収集を指示するものとする。
(検事正等の措置)
第七条 第五条第一項第一号の命令を受けた検事正は、その庁の検察官に共助に必要な証拠を収集するための処分をさせなければならない。
2 前条の指示を受けた都道府県警察の警視総監又は道府県警察本部長(以下「警察本部長」という。)は、その都道府県警察の司法警察員に前項の処分をさせなければならない。
3 第五条第一項第三号の書面の送付を受けた国の機関の長は、その機関の相当と認める司法警察員に第一項の処分をさせなければならない。
(検察官等の処分)
第八条 検察官又は司法警察員は、共助に必要な証拠の収集に関し、関係人の出頭を求めてこれを取り調べ、鑑定を嘱託し、実況見分をし、書類その他の物の所有者、所持者若しくは保管者にその物の提出を求め、又は公務所若しくは公私の団体に照会して必要な事項の報告を求めることができる。
2 検察官又は司法警察員は、共助に必要な証拠の収集に関し、必要があると認めるときは、裁判官の発する令状により、差押え、捜索又は検証をすることができる。
3 検察官又は司法警察員は、検察事務官又は司法警察職員に前二項の処分をさせることができる。
(証人尋問の請求)
第九条 共助の要請が証人尋問に係るものであるとき、又は関係人が前条第一項の規定による出頭若しくは取調べに対する供述を拒んだときは、検察官は、裁判官に証人尋問を請求することができる。
(令状の請求等)
第十条 令状又は証人尋問の請求は、第二条第四号の書面を提出して、しなければならない。
(管轄裁判所等)
第十一条 令状又は証人尋問の請求は請求する者の所属する官公署の所在地を管轄する地方裁判所の裁判官に、司法警察職員のした押収又は押収物の還付に関する処分に対する不服申立ては司法警察職員の職務執行地を管轄する地方裁判所に、しなければならない。
(刑事訴訟法等の準用)
第十二条 検察官、検察事務官若しくは司法警察職員のする処分、裁判官のする令状の発付若しくは証人尋問又は裁判所若しくは裁判官のする裁判については、この法律に特別の定めがあるもののほか、その性質に反しない限り、刑事訴訟法(第一編第二章及び第五章から第十三章まで、第二編第一章、第三編第一章及び第四章並びに第七編に限る。)及び刑事訴訟費用に関する法令の規定を準用する。
(処分を終えた場合等の措置)
第十三条 検事正は、共助に必要な証拠の収集を終えたときは、速やかに、意見を付して、収集した証拠を法務大臣に送付しなければならない。第五条第一項第三号の国の機関の長が証拠の収集を終えたときも、同様とする。
2 都道府県公安委員会は、警察本部長が共助に必要な証拠の収集を終えたときは、速やかに、意見を付して、収集した証拠を国家公安委員会に送付しなければならない。
3 国家公安委員会は、前項の送付を受けたときは、速やかに、意見を付して、これを法務大臣に送付するものとする。
4 第五条第二項の規定により共助の要請に関する書面の送付を受けた訴訟に関する書類の保管者は、速やかに、意見を付して、当該書類又はその謄本を法務大臣に送付するものとし、送付することができないときは、共助の要請に関する書面を法務大臣に返送しなければならない。
5 法務大臣は、第一項、第三項又は前項の規定による送付を受けた場合において、必要があると認めるときは、証拠の使用又は返還に関し要請国が遵守しなければならない条件を定めるものとする。
6 法務大臣は、前項の条件を遵守する旨の要請国の保証がないときは、共助をしないものとする。
(共助をしない場合の通知)
第十四条 法務大臣は、第五条第一項第二号若しくは第三号又は第二項の措置を採つた後において、共助をしないことを相当と認めたときは、遅滞なく、その旨を共助の要請に関する書面の送付を受けた者に通知するものとする。
(協議)
第十五条 法務大臣は、要請に応ずることが相当でないと認めて共助をしないこととするとき及び第十三条第五項の条件を定めるときは、外務大臣と協議するものとする。
2 法務大臣は、第五条第一項各号の措置を採ることとするときは、要請が証人尋間に係る場合その他共助の要請に関する書面において証拠の収集を行う機関が明らかな場合を除き、所管に応じて、国家公安委員会及び同項第三号の国の機関の長と協議するものとする。
(最高裁判所の規則)
第十六条 この法律に定めるもののほか、令状の発付、証人尋問及び不服申立てに関する手続について必要な事項は、最高裁判所が定める。
(国際刑事警察機構への協力)
第十七条 国家公安委員会は、国際刑事警察機構から外国の刑事事件の捜査について協力の要請を受けたときは、次の各号のいずれかの措置を採ることができる。
一 相当と認める都道府県警察に必要な調査を指示すること。
二 第五条第一項第三号の国の機関の長に協力の要請に関する書面を送付すること。
2 第二条(第三号及び第四号を除く。)の規定は、前項の場合に準用する。
3 国家公安委員会は、第一項の措置に関し、要請において調査を行う機関が明らかな場合を除き、所管に応じて、同項第二号の国の機関の長と協議するものとする。
4 国家公安委員会は、第一項の措置を採ることとするときは、法務大臣の意見を聴くものとする。
5 第一項第一号の指示を受けた都道府県警察の警察本部長は、その都道府県警察の警察官に調査のための必要な措置を採ることを命ずるものとする。
6 第一項第二号の規定により協力の要請に関する書面の送付を受けた国の機関の長は、司法警察職員であるその機関の職員に当該要請に係る調査のための必要な措置を採ることを命ずることができる。
7 警察官又は前項の国の機関の職員は、前二項の調査に関し、関係人に質問し、実況見分をし、書類その他の物の所有者、所持者若しくは保管者にその物の提示を求め、又は公務所若しくは公私の団体に照会して必要な事項の報告を求めることができる。
附 則
(施行期日)
第一条 この法律は、昭和五十五年十月一日から施行する。
(経過措置)
第二条 この法律は、この法律の施行前に犯された犯罪に係る外国からの共助の要請及び国際刑事警察機構からの協力の要請についても、適用する。
(検察官の取り調べた者等に対する旅費、日当、宿泊料等支給法の一部改正)
第三条 検察官の取り調べた者等に対する旅費、日当、宿泊料等支給法(昭和二十四年法律第五十七号)の一部を次のように改正する。
第一項中「刑事訴訟法(昭和二十三年法律第百三十一号)第二百二十三条」の下に「又は国際捜査共助法(昭和五十五年法律第六十九号)第八条第一項若しくは第三項」を加える。
(警察法の一部改正)
第四条 警察法(昭和二十九年法律第百六十二号)の一部を次のように改正する。
第五条第二項中「左に」を「次に」に改め、第十四号を第十五号とし、第六号から第十三号までを一号ずつ繰り下げ、第五号の次に次の一号を加える。
六 国際捜査共助に関すること。
第二十三条第一項中「左に」を「次に」に改め、第六号を第七号とし、第二号から第五号までを一号ずつ繰り下げ、第一号の次に次の一号を加える。
二 国際捜査共助に関すること。
同条第二項中「前項第四号から第六号まで」を「前項第五号から第七号まで」に改める。
第三十条第一項中「第五条第二項第二号から第五号まで、第七号から第九号まで及び第十二号から第十四号まで」を「第五条第二項第二号から第六号まで、第八号から第十号まで及び第十三号から第十五号まで」に改める。
第三十三条第一項中「第五条第二項第八号」を「第五条第二項第九号」に改める。
(法務省設置法の一部改正)
第五条 法務省設置法(昭和二十二年法律第百九十三号)の一部を次のように改正する。
第七条中「左の」を「次の」に、「掌る」を「つかさどる」に改め、第二号を次のように改める。
二 犯罪人の引渡し及び国際捜査共助に関する事項
(海上保安庁法の一部改正)
第六条 海上保安庁法(昭和二十三年法律第二十八号)の一部を次のように改正する。
第七条第九号の次に次の一号を加える。
九の二 国際捜査共助に関する事項
(内閣総理・法務・外務・厚生・運輸大臣署名)