犯罪被害者等給付金支給法

法律第三十六号(昭五五・五・一)

 (趣旨)

第一条 この法律は、人の生命又は身体を害する犯罪行為により、不慮の死を遂げた者の遺族又は重障害を受けた者に対し、国が犯罪被害者等給付金を支給することについて規定するものとする。


 (定義)

第二条 この法律において「犯罪被害」とは、日本国内又は日本国外にある日本船舶若しくは日本航空機内において行われた人の生命又は身体を害する罪に当たる行為(刑法(明治四十年法律第四十五号)第三十七条第一項本文、第三十九条第一項、第四十条又は第四十一条の規定により罰せられない行為を含むものとし、同法第三十五条又は第三十六条第一項の規定により罰せられない行為及び過失による行為を除く。以下「犯罪行為」という。)による死亡又は重障害をいう。

2 この法律において「重障害」とは、負傷又は疾病が治つたとき(その症状が固定したときを含む。)における身体上の障害で政令で定める程度のものをいう。

3 この法律において「犯罪被害者等給付金」とは、第四条に規定する遺族給付金又は障害給付金をいう。


 (犯罪被害者等給付金の支給)

第三条 国は、犯罪被害を受けた者(以下「被害者」という。)があるときは、この法律の定めるところにより、被害者又は遺族(これらの者のうち、当該犯罪被害の原因となつた犯罪行為が行われた時において、日本国籍を有せず、かつ、日本国内に住所を有しない者を除く。)に対し、犯罪被害者等給付金を支給する。


 (犯罪被害者等給付金の種類等)

第四条 犯罪被害者等給付金は、一時金とし、その種類は、次のとおりとする。

 一 遺族給付金

 二 障害給付金

2 遺族給付金は、犯罪被害が死亡である場合に、第一順位遺族(次条第三項及び第四項の規定による第一順位の遺族をいう。)に対して支給する。

3 障害給付金は、犯罪被害が重障害である場合に、当該被害者に対して支給する。


 (遺族の範囲及び順位)

第五条 遺族給付金の支給を受けることができる遺族は、被害者の死亡の時において、次の各号のいずれかに該当する者とする。

 一 被害者の配偶者(婚姻の届出をしていないが、事実上婚姻関係と同様の事情にあつた者を含む。)

 二 被害者の収入によつて生計を維持していた被害者の子、父母、孫、祖父母及び兄弟姉妹

 三 前号に該当しない被害者の子、父母、孫、祖父母及び兄弟姉妹

2 被害者の死亡の当時胎児であつた子が出生した場合においては、前項の規定の適用については、その子は、その母が被害者の死亡の当時被害者の収入によつて生計を維持していたときにあつては同項第二号の子と、その他のときにあつては同項第三号の子とみなす。

3 遺族給付金の支給を受けるべき遺族の順位は、第一項各号の順序とし、同項第二号及び第三号に掲げる者のうちにあつては、それぞれ当該各号に掲げる順序とし、父母については、養父母を先にし、実父母を後にする。

4 被害者を故意に死亡させ、又は被害者の死亡前に、その者の死亡によつて遺族給付金の支給を受けることができる先順位若しくは同順位の遺族となるべき者を故意に死亡させた者は、遺族給付金の支給を受けることができる遺族としない。遺族給付金の支給を受けることができる先順位又は同順位の遺族を故意に死亡させた者も、同様とする。


 (犯罪被害者等給付金を支給しないことができる場合)

第六条 次に掲げる場合には、国家公安委員会規則で定めるところにより、犯罪被害者等給付金の全部又は一部を支給しないことができる。

 一 被害者と加害者との間に親族関係(事実上の婚姻関係を含む。)があるとき。

 二 被害者が犯罪行為を誘発したとき、その他当該犯罪被害につき、被害者にも、その責めに帰すべき行為があつたとき。

 三 前二号に掲げる場合のほか、被害者又はその遺族と加害者との関係その他の事情から判断して、犯罪被害者等給付金を支給し、又は第九条の規定による額を支給することが社会通念上適切でないと認められるとき。


 (他の法令による給付等との関係)

第七条 犯罪被害を原因として被害者又は遺族に対し、労働者災害補償保険法(昭和二十二年法律第五十号)その他の法令による給付等で政令で定めるものが行われるべき場合には、その給付等に相当する金額として政令で定めるところにより算定した額の限度において、犯罪被害者等給付金を支給しない。


 (損害賠償との関係)

第八条 犯罪被害を原因として被害者又は遺族が損害賠償を受けたときは、その価額の限度において、犯罪被害者等給付金を支給しない。

2 国は、犯罪被害者等給付金を支給したときは、その額の限度において、当該犯罪被害者等給付金の支給を受けた者が有する損害賠償請求権を取得する。


 (犯罪被害者等給付金の額)

第九条 犯罪被害者等給付金の額は、政令で定めるところにより算定する給付基礎額に、遺族給付金にあつては遺族の生計維持の状況を勘案し、障害給付金にあつては障害の程度を基準として政令で定める倍数を乗じて得た額(遺族給付金の支給を受けるべき遺族が二人以上あるときは、その人数で除して得た額)とする。


 (裁定の申請)

第十条 犯罪被害者等給付金の支給を受けようとする者は、国家公安委員会規則で定めるところにより、その者の住所地を管轄する都道府県公安委員会(以下「公安委員会」という。)に申請し、その裁定を受けなければならない。

2 前項の申請は、当該犯罪被害の発生を知つた日から二年を経過したとき、又は当該犯罪被害が発生した日から七年を経過したときは、することができない。


 (裁定等)

第十一条 前条第一項の申請があつた場合には、公安委員会は、速やかに、犯罪被害者等給付金を支給し、又は支給しない旨の裁定(支給する旨の裁定にあつては、その額の定めを含む。以下同じ。)を行わなければならない。

2 犯罪被害者等給付金を支給する旨の裁定があつたときは、当該申請をした者は、当該額の犯罪被害者等給付金の支給を受ける権利を取得する。


 (仮給付金の支給等)

第十二条 公安委員会は、第十条第一項の申請があつた場合において、犯罪行為の加害者を知ることができず、又は被害者の障害の程度が明らかでない等当該犯罪被害に係る事実関係に関し、速やかに前条第一項の裁定をすることができない事情があるときは、当該申請をした者(次条第一項及び第三項において「申請者」という。)に対し、政令で定める額の範囲内において、仮給付金を支給する旨の決定をすることができる。

2 国は、前項の決定があつたときは、仮給付金を支給する。

3 仮給付金の支給を受けた者について犯罪被害者等給付金を支給する旨の裁定があつたときは、国は、仮給付金の額の限度において犯罪被害者等給付金を支給する責めを免れる。この場合において、当該裁定で定める額が仮給付金の額に満たないときは、その者は、その差額を返還しなければならない。

4 仮給付金の支給を受けた者について犯罪被害者等給付金を支給しない旨の裁定があつたときは、その者は、仮給付金に相当する金額を返還しなければならない。


 (裁定のための調査等)

第十三条 公安委員会は、裁定を行うため必要があると認めるときは、申請者その他の関係人に対して、報告をさせ、文書その他の物件を提出させ、出頭を命じ、又は医師の診断を受けさせることができる。

2 公安委員会は、裁定を行うため必要があると認めるときは、犯罪捜査の権限のある機関その他の公務所又は公私の団体に照会して必要な事項の報告を求めることができる。

3 申請者が、正当な理由がなくて、第一項の規定による報告をせず、文書その他の物件を提出せず、出頭をせず、又は医師の診断を拒んだときは、公安委員会は、その申請を却下することができる。


 (国家公安委員会規則への委任)

第十四条 第十条から前条までに定めるもののほか、裁定の手続その他裁定に関し必要な事項は、国家公安委員会規則で定める。


 (不正利得の徴収)

第十五条 偽りその他不正の手段により犯罪被害者等給付金(仮給付金を含む。以下この項、第十九条及び第二十条において同じ。)の支給を受けた者があるときは、国家公安委員会は、国税徴収の例により、その者から、その支給を受けた犯罪被害者等給付金の額に相当する金額の全部又は一部を徴収することができる。

2 前項の規定による徴収金の先取特権の順位は、国税及び地方税に次ぐものとする。


 (時効)

第十六条 犯罪被害者等給付金の支給を受ける権利は、二年間行わないときは、時効により消滅する。


 (犯罪被害者等給付金の支給を受ける権利の保護)

第十七条 犯罪被害者等給付金の支給を受ける権利は、譲り渡し、担保に供し、又は差し押えることができない。


 (公課の禁止)

第十八条 租税その他の公課は、この法律により支給を受けた金銭を標準として、課することができない。


 (戸籍事項の無料証明)

第十九条 市町村長(特別区の区長を含むものとし、地方自治法(昭和二十二年法律第六十七号)第二百五十二条の十九第一項の指定都市にあつては、区長とする。)は、公安委員会又は犯罪被害者等給付金の支給を受けようとする者に対して、当該市(特別区を含む。)町村の条例で定めるところにより、被害者又はその遺族の戸籍に関し、無料で証明を行うことができる。


 (国家公安委員会の指揮監督権)

第二十条 国家公安委員会は、犯罪被害者等給付金に関する事務について公安委員会を指揮監督する。


 (不服申立てと訴訟との関係)

第二十一条 第十一条第一項の裁定の取消しを求める訴えは、当該裁定についての審査請求に対する国家公安委員会の裁決を経た後でなければ、提起することができない。


 (経過措置)

第二十二条 この法律の規定に基づき政令を制定し、又は改廃する場合においては、その政令で、その制定又は改廃に伴い合理的に必要と判断される範囲内において、所要の経過措置を定めることができる。


 (政令への委任)

第二十三条 この法律に特別の定めがあるもののほか、この法律の実施のための手続その他この法律の施行に関し必要な事項は、政令で定める。


   附 則


 (施行期日等)

1 この法律は、昭和五十六年一月一日から施行し、この法律の施行後に行われた犯罪行為による死亡又は重障害について適用する。


 (警察法の一部改正)

2 警察法(昭和二十九年法律第百六十二号)の一部を次のように改正する。

  第五条中第三項を第四項とし、第二項の次に次の一項を加える。

3 前項に規定するもののほか、国家公安委員会は、法律(法律に基づく命令を含む。)の規定に基づきその権限に属させられた事務をつかさどる。

  第十二条の次に次の一条を加える。

 (専門委員)

第十二条の二 国家公安委員会に、犯罪被害者等給付金支給法(昭和五十五年法律第三十六号)の規定による裁定に係る審査請求について専門の事項を調査審議させるため、専門委員若干人を置く。

2 専門委員の任命、任期その他専門委員に関し必要な事項は、政令で定める。

  第十七条中「つかさどる」を「つかさどり、及び同条第三項の事務について国家公安委員会を補佐する」に改める。

  第二十二条中「左に」を「次に」に改め、同条に次の一号を加える。

 四 犯罪被害者等給付金に関すること。

 第三十七条第一項中「左に」を「次に」に改め、同項に次の一号を加える。

 九 犯罪被害者等給付金に関する事務の処理に要する経費

 第三十八条中第五項を第六項とし、第四項を第五項とし、第三項の次に次の一項を加える。

4 第五条第三項の規定は、都道府県公安委員会の事務について準用する。

  第四十六条第二項中「及び第五項」を「及び第六項」に、「第三十八条第五項」を「第三十八条第六項」に改める。

  第四十七条第二項中「つかさどる」を「つかさどり、並びに第三十八条第四項において準用する第五条第三項の事務について都道府県公安委員会を補佐する」に改める。

(内閣総理大臣臨時代理・大蔵大臣臨時代理署名) 

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