原子爆弾被爆者の医療等に関する法律
法律第四十一号(昭三二・三・三一)
目次
第一章 総則(第一条・第二条)
第二章 健康管理(第三条―第六条)
第三章 医療(第七条―第十四条)
第四章 原子爆弾被爆者医療審議会(第十五条―第十七条)
第五章 雑則(第十八条―第二十四条)
附則
第一章 総則
(この法律の目的)
第一条 この法律は、広島市及び長崎市に投下された原子爆弾の被爆者が今なお置かれている健康上の特別の状態にかんがみ、国が被爆者に対し健康診断及び医療を行うことにより、その健康の保持及び向上をはかることを目的とする。
(定義)
第二条 この法律において「被爆者」とは、次の各号の一に該当する者であつて、被爆者健康手帳の交付を受けたものをいう。
一 原子爆弾が投下された際当時の広島市若しくは長崎市の区域内又は政令で定めるこれらに隣接する区域内にあつた者
二 原子爆弾が投下された時から起算して政令で定める期間内に前号に規定する区域のうちで政令で定める区域内にあつた者
三 前二号に掲げる者のほか、原子爆弾が投下された際又はその後において、身体に原子爆弾の放射能の影響を受けるような事情の下にあつた者
四 前三号に掲げる者が当該各号に規定する事由に該当した当時その者の胎児であつた者
第二章 健康管理
(被爆者健康手帳)
第三条 被爆者健康手帳の交付を受けようとする者は、その居住地(居住地を有しないときは、その現在地とする。以下同じ。)の都道府県知事(その居住地が広島市又は長崎市であるときは、当該市の長とする。以下同じ。)に申請しなければならない。
2 都道府県知事は、前項の申請に基いて審査し、申請者が前条各号の一に該当すると認めるときは、その者に被爆者健康手帳を交付するものとする。
3 被爆者健康手帳に関し必要な事項は、政令で定める。
(健康診断)
第四条 都道府県知事は、被爆者に対し、毎年、厚生省令で定めるところにより、健康診断を行うものとする。
(健康診断に関する記録)
第五条 都道府県知事は、前条の規定により健康診断を行つたときは、健康診断に関する記録を作成し、かつ、厚生省令で定める期間、これを保存するものとする。
(指導)
第六条 都道府県知事は、第四条の規定による健康診断の結果必要があると認めるときは、当該健康診断を受けた者に対して必要な指導を行うものとする。
第三章 医療
(医療の給付)
第七条 厚生大臣は、原子爆弾の傷害作用に起因して負傷し、又は疾病にかかり、現に医療を要する状態にある被爆者に対し、必要な医療の給付を行う。ただし、当該負傷又は疾病が原子爆弾の放射能に起因するものでないときは、その者の治ゆ能力が原子爆弾の放射能の影響を受けているため現に医療を要する状態にある場合に限る。
2 医療の給付の範囲は、次のとおりとする。
一 診察
二 薬剤又は治療材料の支給
三 医学的処置、手術及びその他の治療並びに施術
四 病院又は診療所への収容
五 看護
六 移送
3 医療の給付は、厚生大臣が第九条第一項の規定により指定する医療機関(以下「指定医療機関」という。)に委託して行うものとする。
(認定)
第八条 前条第一項の規定により医療の給付を受けようとする者は、あらかじめ、当該負傷又は疾病が原子爆弾の傷害作用に起因する旨の厚生大臣の認定を受けなければならない。
2 厚生大臣は、前項の認定を行うに当つては、原子爆弾被爆者医療審議会の意見を聞かなければならない。ただし、当該負傷又は疾病が原子爆弾の傷害作用に起因すること又は起因しないことが明らかであるときは、この限りでない。
(医療機関の指定)
第九条 厚生大臣は、その開設者の同意を得て、第七条の規定による医療を担当させる病院若しくは診療所又は薬局を指定する。
2 指定医療機関は、三十日以上の予告期間を設けて、その指定を辞退することができる。
3 指定医療機関が次条第一項の規定に違反したとき、担当医師に変更があつたとき、その他指定医療機関に第七条の規定による医療を担当させるについて著しく不適当であると認められる理由があるときは、厚生大臣は、その指定を取り消すことができる。
4 厚生大臣は、前項の規定により指定を取り消す場合には、当該医療機関の開設者に対して、弁明の機会を与えなければならない。この場合においては、あらかじめ、書面をもつて、弁明をなすべき日時、場所及び当該処分をなすべき理由を通知しなければならない。
5 厚生大臣は、医療機関の指定又は指定の取消を行うに当つては、あらかじめ原子爆弾被爆者医療審議会の意見を聞かなければならない。
(指定医療機関の義務)
第十条 指定医療機関は、厚生大臣の定めるところにより、医療を担当しなければならない。
2 指定医療機関は、医療を行うについて、厚生大臣の行う指導に従わなければならない。
(診療方針及び診療報酬)
第十一条 指定医療機関の診療方針及び診療報酬は、健康保険の診療方針及び診療報酬の例による。
2 前項に規定する診療方針及び診療報酬の例によることができないとき、及びこれによることを適当としないときの診療方針及び診療報酬は、厚生大臣が原子爆弾被爆者医療審議会の意見を聞いて定めるところによる。
(診療報酬の審査及び支払)
第十二条 厚生大臣は、指定医療機関の診療内容及び診療報酬の請求を随時審査し、かつ、指定医療機関が前条の規定によつて請求することができる診療報酬の額を決定することができる。
2 指定医療機関は、厚生大臣が行う前項の決定に従わなければならない。
3 厚生大臣は、第一項の規定により指定医療機関が請求することのできる診療報酬の額を決定するに当つては、社会保険診療報酬支払基金法(昭和二十三年法律第百二十九号)に定める審査委員会の意見を聞かなければならない。
4 国は、指定医療機関に対する診療報酬の支払に関する事務を社会保険診療報酬支払基金に委託することができる。
(報告の請求及び検査)
第十三条 厚生大臣は、前条第一項の審査のため必要があるときは、指定医療機関の管理者に対して必要な報告を求め、又は当該職員をして指定医療機関についてその管理者の同意を得て、実地に診療録その他の帳簿書類を検査させることができる。
2 指定医療機関の管理者が、正当な理由がなく、前項の報告の求に応ぜず、若しくは虚偽の報告をし、又は同項の同意を拒んだときは、厚生大臣は、当該指定医療機関に対する診療報酬の支払を一時差し止めることができる。
(医療費の支給)
第十四条 厚生大臣は、被爆者が、緊急その他やむを得ない理由により、指定医療機関以外の者から第七条第二項各号に規定する医療を受けた場合において、必要があると認めるときは、医療の給付に代えて、医療費を支給することができる。被爆者が指定医療機関から第七条第二項各号に規定する医療を受けた場合において、当該医療が緊急その他やむを得ない理由により同条第一項の規定によらないで行われたものであるときも、同様とする。
2 前項の規定によつて支給する医療費の額は、第十一条の規定により指定医療機関が請求することができる診療報酬の例により算定した額とする。ただし、現に要した費用の額をこえることができない。
3 厚生大臣は、第一項の規定により医療費を支給するについて必要があるときは、当該医療を行つた者又はこれを使用する者に対し、その行つた医療に関し、報告若しくは診療録若しくは帳簿書類その他の物件の提示を命じ、又は当該職員をして質問させることができる。
第四章 原子爆弾被爆者医療審議会
(設置及び権限)
第十五条 厚生大臣の諮問に応じ、被爆者の医療等に関する重要事項を調査審議させるため、厚生省に、附属機関として、原子爆弾被爆者医療審議会(以下「審議会」という。)を置く。
2 審議会は、被爆者の医療等に関する事項につき、関係各大臣に意見を具申することができる。
(委員)
第十六条 審議会は、委員二十人以内で組織する。
2 委員は、学識経験のある者及び関係行政機関の職員のうちから厚生大臣が任命する。
3 学識経験のある者のうちから任命された委員の任期は、二年とする。ただし、補欠の委員の任期は、前任者の残任期間とする。
4 委員は、非常勤とする。
(政令への委任)
第十七条 この法律に定めるもののほか、議事の手続その他審議会の運営に関し必要な事項は、政令で定める。
第五章 雑則
(非課税)
第十八条 この法律により支給を受けた金品を標準として、租税その他の公課を課することができない。
(差押の禁止)
第十九条 この法律により金品の支給を受ける権利は、差し押えることができない。
(交付金)
第二十条 国は、政令の定めるところにより、この法律又はこの法律に基く命令の規定により都道府県知事が行う事務に要する費用を都道府県(広島市又は長崎市の長が行う事務に要する費用については、広島市又は長崎市とする。)に交付する。
(権限の委任)
第二十一条 この法律に定める厚生大臣の権限の一部は、政令の定めるところにより、都道府県知事に委任することができる。
(省令への委任)
第二十二条 この法律で政令に委任するものを除くほか、この法律の実施のための手続その他その報行について必要な細則は、厚生省令で定める。
(罰則)
第二十三条 この法律による健康診断及び指導の実施の事務に従事した者が、その職務に関して知得した人の秘密を正当の理由なしに漏らしたときは、一年以下の懲役又は三万円以下の罰金に処する。
第二十四条 第七条第二項各号に規定する医療を行つた者又はこれを使用する者が、第十四条第三項の規定により報告若しくは診療録、帳簿書類その他の物件の提示を命ぜられて、正当の理由なしにこれに従わず、若しくは虚偽の報告をし、又は同条同項の規定による当該職員の質問に対して正当の理由なしに答弁せず、若しくは虚偽の答弁をしたときは、一万円以下の過料に処する。
附 則
(施行期日)
1 この法律は、昭和三十二年四月一日から施行する。
(経過規定)
2 第二条各号の一に該当する者は、この法律の施行後三月間は、第二条の規定にかかわらず、被爆者健康手帳を受けないでも被爆者とみなす。
(厚生省設置法の一部改正)
3 厚生省設置法(昭和二十四年法律第百五十一号)の一部を次のように改正する。
第五条第二十号の次に次の一号を加える。
二十の二 原子爆弾被爆者の医療等に関する法律(昭和三十二年法律第四十一号)の定めるところにより、医療機関を指定し、並びに医療の給付に関する必要な診療方針及び診療報酬を定めること。
第九条第三号の次に次の一号午後 12:55 01/08/24加える。
三の二 原子爆弾被爆者の医療等に関する法律を施行すること。
第二十九条第一項の表中精神衛生審議会の項の次に次の一項を加える。
原子爆弾被爆者医療審議会 |
厚生大臣の諮問に応じて、原子爆弾被爆者の医療等に関する重要事項を調査審議すること。 |
(社会保険診療報酬支払基金法の一部改正)
4 社会保険診療報酬支払基金法の一部を次のように改正する。
第十三条第二項中「又は未帰還者留守家族等援護法(昭和二十八年法律第百六十一号)第二十二条第三項」を「、未帰還者留守家族等援護法(昭和二十八年法律第百六十一号)第二十二条第三項又は原子爆弾被爆者の医療等に関する法律(昭和三十二年法律第四十一号)第十二条第三項」に改め、「戦傷病者戦没者遺族等援護法第十九条第四項」の下に「、原子爆弾被爆者の医療等に関する法律第十二条第四項」を加える。
(地方税法の一部改正)
5 地方税法(昭和二十五年法律第二百二十六号)の一部を次のように改正する。
第七十二条の十四第一項ただし書中「若しくは児童福祉法(昭和二十二年法律第百六十四号)」を「、児童福祉法(昭和二十二年法律第百六十四号)若しくは原子爆弾被爆者の医療等に関する法律(昭和三十二年法律第四十一号)」に、「若しくは育成医療の給付」を「、育成医療の給付若しくは医療の給付」に改める。
第七十二条の十七第一項ただし書中「若しくは児童福祉法」を「、児童福祉法若しくは原子爆弾被爆者の医療等に関する法律」に、「若しくは育成医療の給付」を「、育成医療の給付若しくは医療の給付」に改める。
(厚生・内閣総理大臣署名)