第2章 効率的な経営形態の確立

*******鉄道の未来を築くために*******

W.鉄道貨物事業

1.経営体制に関する基本的な考え方

国鉄の貨物輪送は、近年輸送構造が大きく変化し交通機関間の競争が激化する中で、当然なされるぺき合理化や事業分野の見直しが適切に行われず、積載効率の低い列車も多く抱える等独占時代の経営感覚から脱皮できないまま今日のような深刻な状況を招来するに至った。しかし、鉄道貨物輪送は輸送手段として本来優れた特性を発揮できる分野を有しており、今後とも相応の役割を果たしていくことが期待されるが、そのためには経営責任が不明確でコスト意識にも乏しい現在のような体制を抜本的に改めることが不可欠であり、次のような理由により、貨物部門の経営を旅客部門から分離し、独立した事業体とする。

  1.   鉄道貨物輸送は、主として産業界の企業活動の一環として利用されるとともに、両瑞末において物流事業者等との連携が不可欠であるなど旅客輪送と異なる特色を有しており、このような実態の下で物流界の一員たるにふさわしい適切な経営を展開していく必要があること。
  2.   鉄道貨物輸送により発生する経費を正しく把握し、それに基づく貨物部門独自の確固とした収支管理を前提に、経営責任を明確化する必要があること。
  3.   旅客部門が6つの事業体に分割される状況の下で、輸送距離が長く、往路複路不均衡になりやすい貨物輪送を円滑に行っていくためには、旅客部門から独立して全国一元的な事業違営を行なうことが望ましいこと。
    鉄道貨物輸送が独立の事業として成り立ち得るためには、新しく設立される鉄道貨物会社が次のような用件を満たす必要がある。

2.鉄道貨物が事業として成り立つための要件

  1. 独立採算可能な事業体制の確立

     鉄道会社が自立していくためには、適正なレール使用料等独立の事業体として負担すべき経費をを賄いつつ採算がとれることが不可欠の前提である。
     しかし、貨物輸送の現状は自立可能と言えるには程遠い状況にあり、新経営体制発足時までの間において。新しい事業範囲の見直しを行い、直行化を更に徹底させた効率的な輸送体制の確立を図らなければならない。
  2. コストの低減を図ること

    鉄道貨物会社が他の輸送機関と激しい競争下で存立して行くためには、輸送コストの低減に努めることがが最も重要な課題であり、例えば運転乗務員や駅要員の運用について更に効率化を図るとともに列車の牽引トン数を高める等の努力を行なうはか、引き継ぐ資産についても将来の経営上負担とならないよう必要最小限のものとしなければならない。
     なお、新しい鉄道貨物会社が業務全般にわたりコスト管理を適切に行なうためには、貨物列車の設定・運行をはじめ、貨物駅や貨車・コンテナの管理等鉄道貨物事業にかかる業務全般について一元的に経営責任を果たし得る体制とするのが適当である。
  3. 販売方式の改善による安定収入

    現在の国鉄の貨物輸送は、その集荷能力が弱いこと等から積載効率の低い極めて非効率的な輸送となっている。新しい鉄道貨物会社の経営の安定化のためには、例えぱ、豊富な経験と能力を有する通運・トラック事業者等物流事業者の注文による往復列車単位の販売にに重点を置くなど販売方式を改善し、安定収入の確保を図る必要がある。
  4. 旅客鉄道会社との間での円滑な事業運営の確保

    新しい経営体制では、レール等の基礎施設を旅客鉄道会社と共用して事業運営を行うこととなるが、その安定的な使用を確保するとともに列車ダイヤの調整やレール使用料の設定等が円滑に行われるためには、鉄道貨物会社と旅客鉄道会社との間で密接な協調関係が築かれていることが重要であり、両者間でこれらに関し使用の実態を踏まえた適切なルールを設定しておくなどの措置を講じるものとする。

3.新しい鉄道貨物会社のあり方に関する具体案の策定

ア・新しい鉄道貨物会社のあり方については、以上のような基本的認識を踏まえその具体化を図ることとするが、その際、

  1. 独立採算可能な体制を見定めるに当たっては、設定可能なダイヤや旅客鉄道会社に支払うぺきレール使用料等の貨物輸送に係るコストを明確にする必要があること。
  2. レール等基礎施設を旅客鉄道会社と共用して事業運営を行うこととなるため、列車運行を自ら行なうか否かなど具体的業務の内容について、安全面、効率面等を総合的に考慮して決定する必要があること。
  3. 荷主や物流事業者等の鉄道利用についての見通しを得る必要があること
    現段階で確定し得ない事項が多いので、今後政府はは、国鉄との密接な連携の下に荷主・物流事業者の意見も聴きつつ専門的かつ技術的な立場から検討を加え早急(昭和60年11月まで)に実行可能な具体案を作成するものとする。

イ・その場合、貨物輪送は、旅客輸送に比し輸送距離が長く、コンテナ輪送・車扱直行輪送の6割を超える列車が複数の旅客鉄道会社にまたがって運行されている実態等にかんがみ、基本的には荷物輪送も含め全国一元の経営体制とするのが適切と考えられる。

EH10 撮影 翌檜機関車様

ウ・鉄道貨物会社に関する共済制度及び退職手当の取扱い、金融・税制措置等については旅客鉄道会社の場合と基本的に同様とする。また、資産の引継ぎについても旅客鉄道会社の場合と同様簿価によるものとし、その額から資本金及び退職給与引当金を控除した額の長期債務を引き継ぐものとする。なお事業用用地の引継ぎについては国民負担との関係で、特に厳正な取扱いが必要である。

エ・鉄道貨物事業の運営体制を抜本的に改めることに伴い、現在の国鉄が行っている鉄道貨物輸送に関連する諸制度についても、荷主や物流事業者にとって利用しやすいものとすることを基本とし、政府において所要の検討を行うものとする。

 


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