第1章 国鉄改革についての基本認識
*******鉄道の未来を築くために*******
U国分割民営化はなぜ必要か
1.国鉄経営はなぜ破綻したのか
(1)国鉄経営の破綻原因
国鉄の経営が破局的な状況に立ち至った基本的な背景としては先に述べたように他の交通機関が急速に発達し、国鉄中心のそれまでの輸送構造に大きな変化が生じたことが挙げられる。
そしてこのような鉄道事業を取り巻く環境の変化にもかかわらず、国鉄はこれに即応した経営の変革や生産性の向上が立ち遅れるなど時代の変化に的確に対応できかなった。このことが、今日の国営事業の弊害をもたらした最も大きな原因である。
それでは、国鉄はなぜこのような輸送構造の変化に的確に対応することができなかったのであろうか。当委員会は、まずその理由を正しく把握することが国鉄事業の再建策を企画立案するに当たっての重要なポイントであるとの認識に立ち、様々な角度から検討を加えた。
その結果、輸送構造の変化に的確に対応できなかった理由は、現行の経営形態そのものに内在する構造的な問題、すなわち、公社という制度の下で巨大組織による全国一元的な運営を行ってきたことにあるという認識を持つに至った。
そしてそのことが経営の自主性や自由を制約するなどの問題を生じさせる一方、赤字に対する感覚を希薄にするなどいわゆる親方日の丸意識を生み、無責任経営を招いた大きな要因ではないかと考えるに至った。
(2)総合交通体系についての考え方
これに対して一部には、総合交通体系形成の名の下に、マイカー、トラック等地の交通機関に対して、政府が直接規制するなど輸送構造そのものを国鉄中心の形に再構築していくための政策措置を講じるぺきであり、これがなされなかったことが、今日の国鉄経営の破綻を招いた主要な原国であるとの見解がある。
しかしながら、当委員会は、望ましい交通体系の形成は、各交通機関の競争と利用者の自由な選択が反映されることを原則とすべきであり、政府の政策措置もこのような原則ができるだけ生かされるように配慮して行われることが、真の意味での総合交通体系の形成に資するものと考える。
したがって、他の交通機関に対する規制や統制を強めることによるのてはなく、現在の国鉄自体を、交通市場の中での激しい競争に耐え得る体質を持った事業体に変革していくことが、国民経済的観点からも必要である。
2.原因は現行制度に内在する
国鉄経営の破綻は、現行経営形態に内在する問題に起因するところが大きいが、これを具体的に整理すると次のとおりである。
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公社制度の問題
@外部からの干渉第1の問題は、国の関与の度合いが大きいことから、外部干渉を避け難い体質を持っていることである。
公社は、そもそも設立の経緯からその事業が高度の公共性を有するものとして、厳しい国の監督規制を受けることとされている。国鉄においても、予算、役員人事、運賃、重要施設に対する投資等経営上の重要事項をほじめとして、非常に広範囲にわたり国会あるいほ政府の関与を受けている。このように国の関与の度合いが大きい場合にほ、その本来の趣旨を逸脱し、経営を無視した外部からの干渉を招く余地が生じることになる、特に、国鉄については、独占性を失った後においても、国営時代から培われた国鉄に対する過度の国民の期待が根強く残っているため、国政の場等で経営上の重要事項について政治的解決が図られることが多かった。具体的には、国鉄運賃が公共料金の目玉として常に抑制の対象となり、何度となく運賃改定法案が廃案となったため、適切な運賃料金体系が形成されず、その結果赤字や借金が増加していったこと、あるいは、極めて非採算な路線が各地において建設され、経営を圧迫したことなどが代表的な例である。
国鉄の独占性が存在した時期においては、このような外部干渉による弊害は余り顕在化しなかったが、国鉄の競争力が低下した今日においては、経営の健全性を著しく妨げる結果となって現れている。A経営の自主性の喪失
第2の問題は、経営の自主性がほとんど失われているために、経営責任が不明確になっていることである。
民間企業においては、経営者は経営上の重要事項について自ら決断を下し、また、自らのカで事業を維持し、発展させるためにあらゆる努力を傾注する。そしてその成果に対してはすぺての責任を負うのが通常である。
これに対して、国鉄においては、国の関与の度合いが大きいため、経営上の重要事項について経営者に与えられる裁量の余地は、民間企業に比べて小さくなっている。このため、経営責任の所在が暖昧になり、役員、上級幹部も経営者としての自覚が希薄になる傾向にある。
このことは、あらゆる努力を払って企業を維持し発展させようとする経営者の経営意欲を損なうぱかりでなく、本来経営者の自主的判断で措置可能なことすら、積極的にこれに取り組む姿勢を失わせ、他の同種事業との比較において生産性やサービス水準の面で著しい低下を招く結果となっている。B不正常な労使関係
第3の問題は、労使関係が不正常なものとなりがちであることである。
民間企業においては、団体交渉を通じ、労使が自主的に労働条件を決定しており、その結果は、経営の実態を反映しているのが通常である。
これに対して、国鉄においては、経営側に団体交渉に応じ得るだけの十分な当事者能力が付与されておらず、最も重要な労働条件である賃金についても、実質的には公労委等によって法定されている。このため、正常な団体交渉を行うことができず、経営側は賃金以外の勤務条件で妥協を行いがちである。他方、労働側も、国有鉄道であるがゆえの親方日の丸意識が払拭しきれていない上に、外部からの介入によって経営が左右されることもあって、生産性向上意欲やコスト意識が乏しくなる傾向にある。
このように公社制度から来る制約が、国鉄の労使双方に対し経営実態についての自覚を希薄にさせ、労使関係を不正常なものとしている。C事業範囲の制約
第4の問題は、事業範囲に制約があり、多角的、弾力的な事業活動が困難となっていることである。
大手の私鉄事集者は、流通業、不動産業等を兼営することにより沿線開発の利益を吸収するばかりでなく、その信用カ、資金力を背景に、それ以外の分野にも進出して積極的に経営の多角化を進め、企業全体として収益カを高めるとともにその活性化を図っている。
これに対して、国鉄は、国営事業を承継し、その事業を経営することにより公共の福祉を増進することを目的とした企業体であり、事業範囲もこの目的を達成するためのものに限定されている。
したがって、国鉄が今後事業範囲を拡大し、多角的経営を進めていこうとしても、現行公社制度の下では、公社そのものの存在目的からするとおのずから限界があり、私鉄並み関連事業経営は難しい。
以上のような公社制度の間題点は、公社という経営形態のあり方そのものに内在する構造的なものであることを認識する必要がある。同時に、国鉄の事業と基本的に異ならない鉄道事業を、数多くの民間鉄道事業者が健全に経営している現実に目を向ける必要がある。
公社制度を推持する限り、その制度に構造的に内在する弊害は依然として存在し統けるわけであり、これを打破するには、現行公社制度を民営化することによって、経営者の官僚的体質の改善と職員の意識改革を図るしか道はないと思われる。
ただ、国鉄経営の今日の破綻は、公社という経営形態のあり方に伴う問題点のみから生じたのではないことに注意する必要がある。次に述べるように、全国一元の巨大組織として運営されていることに伴う弊害とあいまって、今日のような危機的状況を招いたのである。したがって単に経営形態を改めるだけでなく、全国一元の巨大組織であることに伴う弊害を究明し、これを是正するための措置を併ぜて講じるのでなければ抜本的な経営改革の方策とはならない。
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全国一元組織の問題
国鉄は、公社という制度の下で、全国一元の巨大組織として運営されているので、公社形態そのものに伴う問題のほか次のような問題を有している。
@経営管理の限界を超えていること。第1の問題は、日本全国を事業区域とし、極めて多数の職員を抱える巨大組織となりっているため、適切な経営管理が行われる難しいことである。
鉄道経営は、本来、労働集約性が強いことから健全なな経営を維持していく上で末端の現業機関に至るまで組織及び職員の管理が適切に行われることが特に重要な要件である。しかし国鉄は、日本全国をその事業区域とし現在では30万人もの職員を有する巨大組織であり、まさに適切な経営管理の限界を越えたものとなっている。
このため、経営者が現業機関の実態を把握し責任を持って末端に至るまで経営意思の徹底を図ることは極めて困難な状態となっている。その結果、職員の企業に対する帰属意識は次第に希薄になるとともに多くの職場において規律の乱れを生み、全体として組織の活力が減退し円滑な組織運営に支障が生じている。A画一的な経営
B不合理な依存関係
第2の問題は、全国一元的組織の下で事業が行われるため、その運営が画一的に行われがちなことである。
鉄道事業は、本来地域性という側面を強く有する事業である。にもかかわらず国鉄においては、運賃や賃金のあり方など経営の基本となるべき事項が中央で画一的に決定されるため、地域経済の実態に即したものとなっていない。
また、列車ダイヤの設定や駅の設置等に関して、利用者の利便に応じたサービスが提供されないなど地域の交通事情に沿った運営が行われているとは言い難い。
第3の問題は、全国一元的経営の下で、北海道から九州まで、あるいは旅客輪送、貨物輸送を通じて全国一体の収支管理が行われるため、各地域や各事業部門の間に依存関係が生じやすく、それぞれの経営の実情に即した効率化が阻害されていることである。
鉄道事業の活力ある経営のためには、各地域や事実部門ごとの経営の実情を明確に把握し、それぞれの経営上の責任者及び職員が明確なコスト意識と利益目標を持って取り粗むことが必要である。しかしながら国鉄の現状は、全国一体の収支管理が行われるため、それぞれの間に依存関係を生じやすく、経営の効率化を阻害することとなっている。また、このような依存関係が合理的な範囲を超える場合には、他の交通機関との競争関係において、本来鉄道特性を発揮し得る分野の競争カを弱体化させる一方、鉄道特性のない非効率な分野を温存させ、事業経営の活性化を損なわせることとなり、ひいては交通体系全体の効率性を阻害することにもなりかねない。
そのうえ、全国一体の収支管理の下では、地域ごとの受益と負担の関係が明確とならない結果、国鉄経営の深刻な事態について、地方公共団体や地域住民の正しい理解と協力が得難いものとなっている。このような現行体制の下では、経営に対する地元の意欲と責任を喚起することは極めて困難と言わざるを得ない。
C競争意識が働かないこと
第4の問題は現在の国鉄が鉄道事業者として他に比類するもののない全国組織の事業者であり、同種企業間における競争意識が働かないものとなウていることである。
このため、経営責任の不明確さとあいまって交通市場の中での対応力に欠け、危機的状況を招く結果となっている。全国一元的組織運営を改め、これを適正な事業規模に分割すれば、電気事業再編成後の電カ会社や大手私鉄相互間にその例を見るように、常に比較の対象とされる同種企業が存在することとなり、相互に競争意識が働くこととなる。その結果、全国一元的組織運営では実現され難い一層の経営効率化を図ろことができるものと考えられる。
以上のような全図一元的組織運営に伴う問題は、全国を事業区域とする巨大組織の下での事業運営が継続される限り、そのことに内在する問題として避けることのできないものであり、公社制度を改めて民営化するだけでは、依然として解決され難いものであることを認識する必要がある。
もちろん職員数のみの点から見れば国鉄程度の規模の企業体が存をし得ないわけではない。しかし、国鉄の事業は、単に職員数が多いというだけでなく、多様な交通機関が発達した今日、その事業運営に当たって地域性が強く要求されるようになってきたため、全画一元の画一的運営が時代にそぐわないものとなっている。
全国一元の巨大組織であることから生じる弊害を克服し、鉄道事業としての今日の要請に即した運営を行うためには、適切な経営管理が行われ、かつ、地域性や事業部門の特性を反映した事業運営が確保され得るよう適切な事業単位に分離することが不可欠である。民営化と分割をー体として断行することによって、はじめて激しい競争下にある交通市場の中で効率的で責任ある経営を行うことが可能となる。
D分権化ついての考え方
これに対して、分割によらず徹底した分権化て対応すれば足りるのではないか、との見解がある。
当委員会は、全図一元的組織の事業体である以上、いかなる徹底した分権化を図ろうとも、結局は運賃の決定権や、賃金、労働時間等の労働条件の決定権、主要人事の任免権、基本的施設に関する投資の決定権など事業経営にとって最も重要な要素をも本社に留保ぜざるを得なくなると考える。仮に、これらの要素をも本社に留保しないのであれば、本社を設ける意味はなく、分割することと実質的に同じことになる。
また、民営化だけを行った上で分権化を図ったとしてもこうした事情は異ならない。
分割の目的は、各経営単位がそれぞれ明確に責任をとることによって経営の自主性を発揮し経営の効率化を図ることである。そのためには、権限はすぺてぞの経営単位に帰属させねばならない。分権化ではこのような意味での経営責任が結局曖昧で不敬底なものになる。
なお、国鉄においても、昭和32年に、地域ごとの総合性、独自性を重んじた包括的な地域別の経営管理を目指して、本社から大幅に権限を委譲することによって支社制度を発足させたことがある。しかしながら、上で述べたような経営の重要な要素である運賃や労働条件の決定権等が本社に留保された結果、経営環境等の変化に弾力的に対応し得なかったことから、所期の目的を果たすことが困難になり、昭和45年に廃止された経緯がある。
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現行制度での再建はもはや不可能である。
これまで述べたように、当委員会としては、国鉄経営の破綻原因は、現行経営形態そのものに 内在する構造的なものであり、経営形態そのものの抜本的な改革を行う必要があるとの認識を持つに至ったのであるが、国鉄の経営形態のあり方については、先に述べた分権化論をはじめとして、各方面において種々の議論がある。
これらのうちの主要なものについて、当委員会は以下のように考える。
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現行制度を推持すべき特別の意義はあるのか
国鉄は、公社制による全国一元的組織運営により国家政策上の諸要請を実現すべき役割を担っており、私鉄等地の公益事業とほ異なった特別の意義を有しているので、引き続き現行 経営形態を維持すべきであるという議論がある。
わが国の鉄道事業を沿革的に見るともともともと私鉄を主体に発達してきており、明治39年の鉄道国有法による国の買収がなされる直前には全国の鉄道網の7割近くが多くの民間鉄道事業者により経営されていた。その鉄道事業の大部分を国有化して全国一元的に運営してきた主な理由は、全国交通ネットワークの維持、全国一律運賃制による均等な輸送サービスの維持、シビルミ二マムとしての輸送の確保など全国にあまねく鉄道の恩恵を及ぼすことによって地域振興や国土開発、さらには国の経済発展や国民生活の向上に寄与させるとともに、特に戦前は軍事面からの強い要請があったためと言われている。
これらの要請についてほ、国鉄が交通体系の中で独占的な地位を占めていた時代においては確かに大きな意義を有していた、また、これらの要諦から生じるコストも、利用者に適正な担を求めることが可能であった。
しかしながら、多様な交通機関が発達し、国鉄がその独占的地位を失った今日においても、なおこれらの要請を国鉄にのみ求めることは、以下で述べるように国鉄事業の経営に過重な負担を負わせるぱかりでなく、交通政策上も問題を生じさせる結果となる。
@全国交通ネットワーク論
全国交通ネットワークについてほ、各種交通機関の発達した今日においてほ、原則として、利用者の自由な選択により自動車、鉄道、航空等が各々その特性に応じて役割を分担することにより形成、維持されており、鉄道のみによる全国交通ネットワークを考える必要性に乏しい。
基本的に鉄道は、旅客、貨物ともにそれぞれその特性を発揮し得る分野を中心として効率的な運営を行うべきものである。
また鉄道特性を発揮し得る分野の鉄道ネットワークを考えるにしても、鉄道旅客の現実の流動実態や列車の運行形態などに適合した分割を行えば、全国一元的に運営しなくともネットワークの一体性は十分確保できるものと考える。
A全国一律運賃制
全国一律運賃制について、これを維持することは、各種交通機関の発達した今日において鉄道特性を発揮し得る分野の営業基盤の弱体化を招くとともに、競争条件が不均等になり、交通体系全体の効率性を阻害することになる。また首都圏等では、国鉄の運賃が私鉄の運賃よりかなり高くなるなど、かえって利用用者間の貴担の公平を損なう結果ともなる。
Bシビルミニマムとしての輸送の確保
シビルミニマムとしての輸送サービスにつては、基本的には輸送需要に応じた最も効率の良い交通機関により確保されるべきものである。また、鉄道によらざるを得ない場合においても、多くの中小私鉄がその役割を担っている点から見て、国鉄という形で維持しなければならない必然性はない。
以上のように、かつて国鉄にのみ求められていた政策上の要請はほとんどその意義を失っている。そのうえ、現在国鉄が行っている鉄道輸送は、その特性が発揮できる分野を中心として、国民生活に有用な輸送サービスを供給しているという点で依然として強い公益性を有しているものの、輸送サービスの性格については、国鉄と私鉄鉄あるいは航空との間に特段の質的な差はない。またサービスの有用性についても、輸送事業のみならず、電気、ガス等のいわゆる公益事業にも共通するものである。このように見ていくと、国鉄は、鉄道事業あるいは広く公益事業一般の有する公益性を持っているにすぎず、現行制度を推持すべき必然性は乏しいと考えざるを得ない。
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分割・民営化は口ーカル線の切り捨てにつながるのか
分割・民営化すれば、採算性の悪い路線は切り捨てられてしまうのでばないか、現行経営形態を維持していかないと北海道等の ローカル線の多い地域においては、結局鉄道がほとんどなくなってしまうのではないかという議論がある。 しかし、先にも述べたように、今日の国鉄の危機的状況を招いた根本原因を除去することなく、対症療法によってのみ延命策を講じようとすれば、ますます状況が悪化することは明らかである。公社制度の下で全国画一的な運営を続ける限り、地域の実情に即した活力ある経営を期待することは不可能である。その意味で、現行経営形態の下で採算性の良くない路線を経営していく場合の方が、逆に一部地域から鉄道がほとんどなくなってしまう事態になりかねない。
むしろ、今のうちに分割・民営化という抜本的な改革を行えば、地域と一体となった活力ある経営が行える結果、鉄道を地域住民の足として再生し、残していくことが可能となるのである。
現に、わが図の中小私鉄は、輸送量がある程度小さくても、地域社会と一体となって、生産性向上の努力を行い、活力ある経営を行うことによって鉄道を維持している。
北海道等のローカル線の多い地域においても中央指向型の一律の基準によつて運営するのではなく、分割・民営化によって、それぞれの地域の実情に即した交通体系のあり方を緒まえ、地域に密着したきめ細かい営業施策を展開することによってこそ、地域の交通機関にふさわしい効率的な経営体制の確立が可能となる。これによって公社制度の下での中央集権的な全国一元的運営を続ける場合と比べて、より多くの鉄道が再生され、地域住民の期待に十分応えていくことが可能となると考える。
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対症療法では再建できない
現在の国鉄には確かに種々問題はあるが、現行制度の枠組みの中で、長期債務の処理など必要な改善措置を講じれば現行経営形態を変革しなくても足りるのでばないかとの議論がある。しかし、国鉄経営の破綻の原因は,これまで述べたように現行の公社制度及ぴ全目一元的組織運営という経営形態そのものに内在する構造的なものである。
また、昭和44年度以来何度となく政府及び国鉄において経営再建対策が立案、実施されてきたにもかかわらず、そのいずれもが中途挫折の運命をたどつている。さらに、昭和51年度及ぴ55年度の二回にわたって、累積欠損額に相当する5兆3千億円もの長期債務の棚上げ措置が講じられ、「後のない計画」と言われた現行の経営改善計画が実施されてきたが、これによっても事態の好転を期待できるような状態にはない。
これらのことを考えれば、現行制度の枠内での手直しという従来の延長線上の対症療法によっては、もはや国鉄事業の再建を実現することは不可能である。
以上のような考察を行った結果、当委員会は、国鉄事業を再生するには、現在の公社制度及び全国一元的組織運営に伴う弊害を除去するための思い切った改革が必要であり、速やかに分割・民営化施策を断行するしか道はないという緒論に達した。
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