接収貴金属等の処理に関する法律

法律第百三十五号(昭三四・四・一五)

 (目的)

第一条 この法律は、連合国占領軍に接収された貴金属等で、その後連合国占領軍から政府に引き渡されたもの等について、公平適正かつ迅速に、返還その他の処理をすることを目的とする。

 (定義)

第二条 この法律で「貴金属等」とは、次の各号に掲げるものをいう。

 一 金、銀、白金、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、オスミウム、イリジウム、イリドスミン及びこれらの合金の地金及び製品

 二 ダイヤモンドその他の貴石及び半貴石並びにこれらを用いた製品

 三 前各号に掲げるものの容器及び附属品

 四 その他政令で定める物品

2 この法律で「接収」とは、本邦(政令で定める地域を除く。)内で、連合国占領軍に属する権限ある軍人又は軍属が、貴金属等を占有している者から、無償で、これを連合国占領軍の管理に移した行為をいう。

3 この法律で「保管貴金属等」とは、次の各号に掲げるもので、この法律の施行の際現に大蔵大臣が他人のために管理しているものをいう。

 一 接収された貴金属等(接収の後に溶解されたものを含む。以下「接収貴金属等」という。)

 二 接収貴金属等のうち連合国占領軍が処分したものの代償である金の地金及び預金(これに係る利息を含む。以下同じ。)

 三 連合国占領軍から接収貴金属等の引渡を受けた者が当該接収貴金属等に代るべきものとして連合国占領軍に引き渡した金及び銀の地金

 四 旧連合国占領軍の管理下から解除された貴金属等に代るべき貴金属の地金の連合国占領軍に対する引渡に関する法律(昭和二十三年法律第百十九号。以下「代替貴金属に関する法律」という。)第一条の規定により大蔵大臣が連合国占領軍に引き渡した金及び銀の地金(連合国占領軍の管理下から解除された貴金属等で同法第二条の受益者に受け取られなかつたものに代るべきものを除く。)

 (他の法令との関係)

第三条 保管貴金属等の返還その他の処理については、他の法令にかかわらず、この法律の定めるところによる。

 (返還等の処理機関)

第四条 大蔵大臣は、この法律の定めるところにより、保管貴金属等について返還その他の処理をするものとし、その処理が完了するまで、適正にこれを管理しなければならない。

 (返還の請求)

第五条 その占有に係る貴金属等を接収された者(以下「被接収者」という。)又はその相続人(被接収者が法人である場合には、合併によりその法人の権利義務を承継した法人。以下同じ。)で、この法律の施行前に接収貴金属等の返還を受けていないものは、この法律の施行の日から起算して五月以内に限り、当該接収貴金属等について、大蔵大臣に対し、その種類、形状その他接収の事実を明らかにした書面を提出して、返還の請求をすることができる。

2 被接収者又はその相続人でこの法律の施行前に接収貴金属等の返還を受けたもののうち、当該接収貴金属等に代るべき金又は銀の地金を連合国占領軍に引き渡した者(その権利義務を承継した者を含む。)は、この法律の施行の日から起算して五月以内に限り、当該金又は銀の地金について、大蔵大臣に対し、その種類、形状その他引渡の事実を明らかにした書面を提出して、返還の請求をすることができる。

3 被接収者又はその相続人でこの法律の施行前に接収貴金属等の返還を受けたもののうち、代替貴金属に関する法律第四条の規定により当該接収貴金属等に代るべき金又は銀の地金を連合国占領軍に引き渡したものとみなされた者(その権利義務を承継した者を含む。)は、この法律の施行の日から起算して五月以内に限り、当該金又は銀の地金について、大蔵大臣に対し、代替貴金属に関する法律第二条第三項の規定により通知された事項及び同条第一項の規定により国に納付した金額を記載した書面を提出して、返還の請求をすることができる。

4 接収貴金属等の所有者(当該接収貴金属等に係る被接収者又はその相続人である者を除く。)は、被接収者又はその相続人が第一項の規定により当該接収貴金属等について返還の請求をしない場合には、この法律の施行の日から起算して七月以内に限り、当該接収貴金属等について、大蔵大臣に対し、同項に規定する書面を提出して、返還の請求をすることができる。

5 接収貴金属等の所有者が国であり、かつ、当該接収貴金属等の被接収者が国でない場合には、当該接収貴金属等の被接収者は、第一項の規定にかかわらず、当該接収貴金属等の返還の請求をすることができない。この場合においては、前項の規定を適用せず、国を当該接収貴金属等の被接収者とみなして、第一項の規定を適用する。

6 被接収者又は接収貴金属等の所有者が国である場合には、接収時において当該接収貴金属等を管理していた官署又はその官署からこれを引き継いだ官署の長が、第一項から第三項までの規定による返還の請求をするものとする。


 (接収貴金属等の認定及び請求の棄却)

第六条 大蔵大臣は、前条第一項又は第四項の規定により接収貴金属等について返還の請求があつた場合には、返還請求者がその請求をすることができる者(以下「権利者」という。)であるかどうかを審査し、権利者であると認めたときは、当該接収貴金属等の種類、形状、品位並びに重量及び個数又は総重量を認定するものとする。

2 前項の認定(返還請求者が権利者であると認めることを含む。)は、返還請求者が提出した証拠その他の証拠によつてしなければならない。

3 大蔵大臣は、第一項の場合において、次の各号の一に該当するときは、当該接収貴金属等についての返還の請求を棄却しなければならない。

 一 返還請求者が権利者であると認められないとき。

 二 当該接収貴金属等の種類、形状又は個数(政令で定めるものについては、総重量)を認定することができないとき。

 三 当該接収貴金属等が保管貴金属等のうちにないことが明らかなとき(当該接収貴金属等が接収の後に溶解された可能性又は保管貴金属等で第二条第三項第二号から第四号までに掲げるもののうちに当該接収貴金属等に代るべきものが存する可能性があるときを除く。)。

4 大蔵大臣は、第一項の認定をした場合には、その内容を、また、前項の規定により請求を棄却した場合には、その旨を、理由を附した書面により、遅滞なく、返還請求者に通知しなければならない。

5 前四項の規定は、前条第二項又は第三項の規定により金又は銀の地金の返還の請求があつた場合に準用する。この場合において、第一項及び第三項中「接収貴金属等」とあるのは、「金又は銀の地金」と読み替えるものとする。

6 第三項第二号の規定の適用について必要な事項は、政令で定める。


 (認定又は請求の棄却に対する不服の申立)

第七条 前条の処分に対して不服がある者は、政令で定めるところにより、大蔵大臣に対し、不服の申立をすることができる。

2 前条第四項(同条第五項において準用する場合を含む。)の通知が返還請求者に到達した日から一月を経過した後においては、前項の不服の申立をすることができない。ただし、正当な理由によりこの期間内に不服の申立をすることができなかつたことを疎明した場合は、この限りでない。

3 大蔵大臣は、第一項の不服の申立があつた場合には、当該事案について再審査の上、その申立を棄却する決定又は前条の処分を変更する決定をし、その理由を附した書面により、これをその申立をした者に通知しなければならない。


 (特定する場合の返還)

第八条 大蔵大臣は、第六条第一項の認定(その認定を変更する前条第三項の決定があつた場合には、その決定。以下同じ。)に係る接収貴金属等が保管貴金属等のうちで特定する場合には、遅滞なく、これを当該接収貴金属等に係る権利者に返還しなければならない。


 (特定しない場合の返還)

第九条 大蔵大臣は、第六条第一項の認定に係る接収貴金属等が保管貴金属等のうちで特定しない場合には、同条第三項第二号又は第三号の規定に該当する場合を除き、次の各号に定めるところにより、保管貴金属等を返還しなければならない。

 一 保管貴金属等のうち第二条第三項第一号に掲げるもの(接収の後に溶解して作られた地金及び前条の規定により返還されるものを除く。)で第六条第一項の認定に係る接収貴金属等と種類、形状、品位及び重量(第六条第三項第二号の政令で定めるものについては、種類、形状及び品位)の等しいものがある場合には、当該接収貴金属等に係る権利者に対し、当該接収貴金属等の個数(当該政令で定めるものについては、総重量。以下この号において同じ。)を限度として、当該保管貴金属等を返還する。この場合において、当該保管貴金属等の返還を受けるべき権利者が二以上あるときは、各権利者に係る当該接収貴金属等の個数に応じ、かつ、これを限度として、保管貴金属等を返還するものとする。

 二 第六条第一項の認定に係る接収貴金属等で品位又は重量について同項の認定をすることができないものがある場合(次号に規定する場合を除く。)において、保管貴金属等で第二条第三項第一号に掲げるもの(接収の後に溶解して作られた地金及び前条又は前号の規定により返還されるものを除く。以下この号から第四号までにおいて同じ。)のうち当該接収貴金属等と種類、形状及び重量又は品位の等しいものがあるときは、当該接収貴金属等に係る権利者に対し、当該接収貴金属等が、これと種類、形状及び重量又は品位の等しい保管貴金属等で第二条第三項第一号に掲げるもののうち最低の品位又は最少の重量のものと等しい品位又は重量を有するものとみなして、当該接収貴金属等を評価した価額を限度として、当該保管貴金属等を返還する。この場合において、当該保管貴金属等の返還を受けるべき権利者が二以上あるときは、各権利者に係る当該評価額に応じ、かつ、これを限度として、保管貴金属等を返還するものとする。

 三 第六条第一項の認定に係る接収貴金属等で品位及び重量について同項の認定をすることができないものがある場合において、保管貴金属等で第二条第三項第一号に掲げるもののうち当該接収貴金属等と種類及び形状の等しいものがあるときは、当該接収貴金属等に係る権利者に対し、当該接収貴金属等が、これと種類及び形状の等しい保管貴金属等で第二条第三項第一号に掲げるもののうち最低の品位のものと等しい品位並びに当該保管貴金属等のうち最少の重量のものと等しい重量を有するものとみなして、当該接収貴金属等を評価した価額を限度として、当該保管貴金属等を返還する。前号後段の規定は、この場合に準用する。

 四 第六条第一項の認定に係る接収貴金属等で次の表の上欄に掲げるものについて、前三号の規定により保管貴金属等の返還を受けることができない権利者がある場合又は前三号の規定により返還を受ける保管貴金属等の評価額がその者についての当該接収貴金属等の評価額(前二号の規定により返還を受ける者に係る接収貴金属等については、これらの規定による評価額)に満たない権利者がある場合には、これらの権利者に対し、各権利者に係る当該接収貴金属等の評価額又はその満たない額に応じ、かつ、これを限度として、保管貴金属等のうち、それぞれ次の表の下欄に掲げるものを返還する。この場合において、前三号の規定により保管貴金属等の返還を受けることができない権利者に係る接収貴金属等で、品位又は重量について第六条第一項の認定をすることができないものの評価については、当該接収貴金属等は、これと同種類で、かつ、形状が等しいか又は最も類似した保管貴金属等で第二条第三項第一号に掲げるもののうち最低の品位又は最少の重量のものと等しい品位又は重量を有するものとみなす。

接収貴金属等

保管貴金属等

金の地金及び製品

一 接収の後に溶解して作られた金の地金

二 第二条第三項第二号に掲げる預金で金の地金又は製品の代償であるもの

三 第二条第三項第四号に掲げる金の地金で、被接収者、その相続人及び所有者以外の者に連合国占領軍から引き渡された金の地金又は製品に代るべきものとして大蔵大臣が引き渡したもの

銀の地金及び製品

一 接収の後に溶解して作られた銀の地金

二 第二条第三項第二号に掲げる預金で銀の地金又は製品の代償であるもの

三 第二条第三項第四号に掲げる銀の地金で、被接収者、その相続人及び所有者以外の者に連合国占領軍から引き渡された銀の地金又は製品に代るべきものとして大蔵大臣が引き渡したもの

白金の地金及び製品

一 接収の後に溶解して作られた白金の地金

二 第二条第三項第二号に掲げる金の地金及び預金で白金の地金又は製品の代償であるもの

三 第二条第三項第三号及び第四号に掲げる金及び銀の地金で、被接収者、その相続人及び所有者以外の者に連合国占領軍から引き渡された白金の地金又は製品に代るべきものとしてその引渡を受けた者又は大蔵大臣が引き渡したもの

ルテニウムの地金

第二条第三項第四号に掲げる金の地金で連合国占領軍から大蔵大臣に引き渡されたルテニウムの地金に代るべきものとして大蔵大臣が引き渡したもの

ロジウムの地金

第二条第三項第三号及び第四号に掲げる金の地金で、被接収者、その相続人及び所有者以外の者に連合国占領軍から引き渡されたロジウムの地金に代るべきものとしてその引渡を受けた者又は大蔵大臣が引き渡したもの

パラジウムの地金

第二条第三項第三号及び第四号に掲げる金及び銀の地金で、被接収者、その相続人及び所有者以外の者に連合国占領軍から引き渡されたパラジウムの地金に代るべきものとしてその引渡を受けた者又は大蔵大臣が引き渡したもの

オスミウムの地金

第二条第三項第四号に掲げる金の地金で連合国占領軍から大蔵大臣に引き渡されたオスミウムの地金に代るべきものとして大蔵大臣が引き渡したもの

イリジウムの地金

第二条第三項第三号及び第四号に掲げる金の地金で、被接収者、その相続人及び所有者以外の者に連合国占領軍から引き渡されたイリジウムの地金に代るべきものとしてその引渡を受けた者又は大蔵大臣が引き渡したもの

イリドスミンの地金

第二条第三項第四号に掲げる金の地金で連合国占領軍から大蔵大臣に引き渡されたイリドスミンの地金に代るべきものとして大蔵大臣が引き渡したもの

第二条第一項第一号に掲げる貴金属の合金の地金及び製品

一 接収の後に溶解して作られた当該貴金属の合金の地金

二 第二条第三項第三号及び第四号に掲げる金及び銀の地金で、被接収者、その相続人及び所有者以外の者に連合国占領軍から引き渡された当該貴金属の合金の地金又は製品に代るべきものとしてその引渡を受けた者又は大蔵大臣が引き渡したもの

ダイヤモンド

第二条第三項第三号及び第四号に掲げる金の地金で、被接収者、その相続人及び所有者以外の者に連合国占領軍から引き渡されたダイヤモンドに代るべきものとしてその引渡を受けた者又は大蔵大臣が引き渡したもの

2 前項の規定により保管貴金属等を返還するため必要な貴金属等の評価は、この法律の施行の日現在で行う。この場合において、金属の地金及び製品については、その素材価額により評価するものとする。

3 大蔵大臣は、第一項の規定により保管貴金属等を返還するため必要がある場合には、保管貴金属等を分割することができる。ただし、保管貴金属等を分割することにより著しくその価値を減ずると認められる場合又は分割することが著しく困難である場合には、これを売却し、その売却代金を返還するものとする。

4 前二項に定めるもののほか、第一項の規定の適用について必要な事項は、政令で定める。


 (第五条第二項又は第三項の請求に対する返還)

第十条 大蔵大臣は、第五条第二項又は第三項の規定により返還の請求があつた金又は銀の地金について第六条第五項において準用する同条第一項の認定をした場合には、遅滞なく、これを当該金又は銀の地金に係る権利者に返還しなければならない。

2 前条第三項の規定は、前項の規定により金又は銀の地金を返還する場合に準用する。


 (返還できない保管貴金属等の帰属)

第十一条 前三条の規定により返還することができない保管貴金属等(返還のために保管貴金属等を売却した場合の売却代金のうち前二条の規定により返還することができないものを含む。)は、国に帰属する。


 (返還の通知)

第十二条 大蔵大臣は、第八条から第十条までの規定により保管貴金属等又はその売却代金を返還しようとする場合には、返還しようとするものの明細を、これを返還することとなつた理由を附した書面により、あらかじめ、権利者に通知しなければならない。


 (返還に対する不服の申立)

第十三条 第八条から第十条までの規定による保管貴金属等又はその売却代金の返還に対して不服がある者は、政令で定めるところにより、大蔵大臣に対し、不服の申立をすることができる。

2 前条の通知が権利者に到達した日から一月を経過した後においては、前項の不服の申立をすることができない。ただし、正当な理由によりこの期間内に不服の申立をすることができなかつたことを疎明した場合は、この限りでない。

3 第一項の不服の申立は、第六条第一項(同条第五項において準用する場合を含む。)の認定(その認定を変更する第七条第三項の決定を含む。)に対する不服をもつて、その理由とすることができない。

4 大蔵大臣は、第一項の不服の申立があつた場合には、当該事案について再審査の上、その申立を棄却する決定又は返還しようとするものを変更する決定をし、その理由を附した書面により、これをその申立をした者に通知しなければならない。


 (受け取られない保管貴金属等の帰属)

第十四条 権利者が、第十二条の通知を受けた日(前条第一項の不服の申立があつた場合には、同条第四項の通知がその申立をした者に到達した日)から五年以内に、この法律により返還される保管貴金属等又はその売却代金を受け取らない場合には、これらのものは、国に帰属する。

2 前項の場合において、返還される保管貴金属等又はその売却代金について訴訟が係属しているときは、同項の期間は、判決の確定の日から起算するものとする。


 (接収貴金属等の上に存した権利)

第十五条 第五条第一項又は第四項の規定による接収貴金属等についての返還の請求に対して第九条の規定により返還された保管貴金属等については、接収時において当該接収貴金属等の上に存した権利は、その返還の時から当該保管貴金属等の上に存するものとみなす。

2 前項の場合において、保管貴金属等が二以上の者の所有に係る接収貴金属等についての第五条第一項の規定による返還の請求に対して返還されたものであるときは、当該保管貴金属等は、当該接収貴金属等の各所有者の共有に属するものとみなし、その持分は、各所有者の所有に係る接収貴金属等に対応する部分に応ずるものとする。ただし、その対応する部分が不明であるときは、その不明な部分についての持分は、不明な部分に対応する接収貴金属等の各所有者に属するものの接収当時の価額に応ずるものとする。


 (納付金)

第十六条 第八条から第十条までの規定により保管貴金属等又はその売却代金の返還を受ける者は、政令で定めるところにより、当該保管貴金属等の価額又は当該売却代金の額の百分の二十に相当する金額を国に納付しなければならない。

2 前項の規定は、国が保管貴金属等又はその売却代金の返還を受ける場合には、適用しない。この場合において、法令の規定又は接収前の契約に基き、国から当該返還に係る保管貴金属等の返還を受け、若しくはその返還に代え当該売却代金の額に相当する金額の償還を受け、又は当該保管貴金属等を買い戻す者があるときは、その者を同項に規定する返還を受ける者とみなして、同項の規定を適用する。

3 前二項の規定は、日本専売公社、日本国有鉄道、日本電信電話公社、地方公共団体又は日本銀行の所有に係る接収貴金属等(保管貴金属等のうち第二条第三項第三号及び第四号に掲げるものを含む。以下次条及び第十九条において同じ。)についての返還の請求に対して返還される保管貴金属等又はその売却代金については、適用しない。ただし、接収前の契約に基きこれらの者から当該保管貴金属等を買い戻す権利を有する者があるときは、その保管貴金属等については、この限りでない。

4 第一項の規定により納付すべき金額の計算の基礎となる保管貴金属等(金属の地金及び製品に限る。)の価額は、政令で定めるところにより、当該保管貴金属等の素材価額を評価した額とする。

5 第八条から第十条までの規定により保管貴金属等の返還を受ける者は、政令で定めるところにより、第一項の規定により納付すべき金額の全部又は一部を当該返還に係る保管貴金属等で納付することができる。


 (納付義務に関する認定等)

第十七条 第五条第一項から第四項までの規定により接収貴金属等について返還の請求をする場合において、当該接収貴金属等が前条第三項本文に規定する者の所有に係るものであるときは、返還請求者は、当該返還の請求のため提出する書面にその旨を記載しなければならない。この場合において、当該接収貴金属等に関して同項ただし書の規定に該当する事情があるときは、その旨をあわせて記載しなければならない。

2 大蔵大臣は、前項前段の記載がある書面による返還の請求があつた接収貴金属等について第八条から第十条までの規定により保管貴金属等又はその売却代金を返還しようとする場合には、当該接収貴金属等が前条第三項本文に規定する者の所有に係るものであるかどうか、及び当該保管貴金属等について同項ただし書の規定の適用があるかどうかを認定しなければならない。

3 第六条第二項及び第四項並びに第七条の規定は、前項の認定について準用する。この場合における第六条第四項の通知は、第十二条の返還の通知をする前に行わなければならない。


 (納付金の求償)

第十八条 第八条から第十条までの規定により被接収者に返還された保管貴金属等については、第十六条の規定による納付金は、民法(明治二十九年法律第八十九号)第百九十六条第一項に規定する必要費とする。

2 第八条から第十条までの規定により返還された保管貴金属等を接収前の契約に基いて買い戻す者がある場合においては、当該保管貴金属等の返還を受けた者が第十六条の規定によつて国に納付した金額は、その買戻をする者が負担しなければならない。


 (税法の適用)

第十九条 その所有に係る接収貴金属等についての返還の請求に対して第八条から第十条までの規定により保管貴金属等の返還を受けた者が第十六条の規定により納付する金額、第八条から第十条までの規定により返還された保管貴金属等の所有者が前条第一項の規定による必要費として償還する金額又は当該保管貴金属等の買戻をする者が前条第二項の規定により負担する金額は、所得税法(昭和二十二年法律第二十七号)又は法人税法(昭和二十二年法律第二十八号)の規定による所得の計算上、返還を受け、又は買戻をした保管貴金属等の取得価額に算入し、又は所得税法第十条の四第二項第二号に規定する再評価額若しくは同条第三項第一号に規定する資産の価額に加算する。

2 接収貴金属等についての返還の請求に対して、第九条又は第十条の規定により、第二条第三項第二号に規定する預金又は第九条第三項ただし書(第十条第二項において準用する場合を含む。)の規定による売却代金が返還される場合においては、所得税法及び資産再評価法(昭和二十五年法律第百十号)の規定の適用については、その返還を受けるべき時において、当該預金又は売却代金を対価として、当該接収貴金属等(当該預金又は売却代金に対応する部分に限る。)の譲渡があつたものとみなす。


 (交易営団等の接収貴金属等に関する特例)

第二十条 大蔵大臣は、接収貴金属等について第六条第一項の認定をする場合(同条第三項第二号の規定に該当する場合を除く。)には、当該接収貴金属等が次の各号に掲げる貴金属等で接収時において当該各号に規定する取得者(その者が社団法人金銀製品商聯盟である場合には、社団法人金銀運営会。以下同じ。)の所有に属していたものであるかどうかをもあわせて認定しなければならない。

 一 交易営団、社団法人中央物資活用協会又は社団法人金銀運営会若しくは社団法人金銀製品商聯盟が、戦時中、政府が決定した金、銀、白金又はダイヤモンドの回収方針に基き、政府の委託により、取得した貴金属等(当該貴金属等を溶解したものを含む。)

 二 前号の貴金属等のうち、政府の指示に基き、金属配給統制株式会社が、交易営団又は社団法人中央物資活用協会から取得した貴金属等(当該貴金属等を溶解したものを含む。)

 三 社団法人金銀運営会が、戦時中、政府の指示に基き、旧日本占領地城へ金製品を輸出するため、旧金資金特別会計から取得した金の地金(当該地金を溶解したもの及び当該地金による製品を含む。)

 四 軍需品の製造に従事していた者が、戦時中、軍需品を製造又は修理するため、その材料として旧陸軍省、海軍省又は軍需省から取得した貴金属等(当該貴金属等を溶解したもの及び当該貴金属等による製品を含む。)

2 第五条第一項又は第四項の規定により接収貴金属等について返還の請求をする場合において、当該接収貴金属等が前項各号に掲げる貴金属等で接収時において当該各号に規定する取得者の所有に属していたものであるときは、返還請求者は、当該返還の請求のため提出する書面にその旨を記載しなければならない。

3 大蔵大臣は、第六条第一項の認定に係る接収貴金属等が第一項各号に掲げる貴金属等で接収時において当該各号に規定する取得者の所有に属していたものと認定した場合には、同条第三項第三号の規定に該当する場合を除き、その旨を同条第四項の規定による通知の書面にあわせて記載しなければならない。

4 第六条第二項及び第七条の規定は、第一項の認定(第六条第二項の規定については、接収貴金属等が第一項各号に掲げる貴金属等で接収時において当該各号に規定する取得者の所有に属していたものである旨の認定に限る。)について準用する。

5 第一項各号に掲げる貴金属等で、接収時において当該各号に規定する取得者の所有に属していたものについての返還の請求に対し、第八条又は第九条の規定により返還すべき保管貴金属等又はその売却代金は、これらの規定にかかわらず、国に帰属する。


 (交付金)

第二十一条 国は、第六条第一項の認定に係る接収貴金属等(同条第三項第二号の規定に該当するものを除く。)のうち、前条第一項各号に掲げる貴金属等で接収時において当該各号に規定する取得者の所有に属していたものの取得の代金及び取得に係る手数料又は加工費の合計額に相当するものとして、政令で定める基準により算出した金額を、当該取得者に対し、交付する。

2 第九条第一項第四号後段の規定は、前項の規定により交付する金額を算出する場合に準用する。

3 交易営団及び社団法人中央物資活用協会に対しては、国は、第一項の規定によるほか、次の各号に掲げる金額の合計金額を交付する。

 一 第十一条の規定により国に帰属するダイヤモンドについて、前条第一項第一号に掲げる貴金属等に該当するダイヤモンド(以下「回収ダイヤモンド」という。)につき交易営団及び社団法人中央物資活用協会の取得価格の基準として定められていた価格(以下「基準取得価格」という。)により算出した金額を、これらの者がそれぞれその者に係る最初の接収時において所有していたと認められる回収ダイヤモンド(第六条第一項の認定に係るもので同条第三項第二号の規定に該当しないものを除く。)の総重量の比率によりあん分した金額。ただし、その者に係る当該回収ダイヤモンドについて基準取得価格により算出した金額を限度とする。

 二 回収ダイヤモンドの取得に係る手数料に相当するものとして前号の金額に政令で定める割合を乗じて算出した金額

4 第一項又は前項の規定により交付金を交付する場合には、その交付金の金額について、昭和二十七年四月二十八日から支払の日の属する月の前月の末日までの期間に応じ、年五分の割合で計算した金額を加算して交付しなければならない。

5 第一項又は第三項の規定による交付金の交付に関する事務は、大蔵大臣が行う。


 (接収貴金属等処理審議会)

第二十二条 大蔵省に、接収貴金属等処理審議会(以下「審議会」という。)を置く。

第二十三条 大蔵大臣は、次に掲げる事項については、審議会の議に付し、その議決に基いて処理しなければならない。

 一 第六条の規定による認定及び請求の棄却

 二 第七条第三項(第十七条第三項及び第二十条第四項において準用する場合を含む。)又は第十三条第四項の規定による決定

 三 第八条から第十条までの規定による返還

 四 第十六条の規定による納付金の金額の算定のためにする保管貴金属等の評価

 五 第十七条第二項の規定による認定

 六 第二十条第一項の規定による認定

 七 第二十一条第一項又は第三項の規定による交付金の金額の算定

第二十四条 審議会は、次の各号に掲げる委員で組織する。

 一 法制局次長

 二 法務事務次官

 三 大蔵事務次官

 四 通商産業事務次官

 五 日本銀行副総裁

 六 学識経験者 六人以内

2 前項第六号に掲げる委員は、大蔵大臣が任命する。

3 審議会に、専門の事項を調査させるため、専門調査員八人以内を置く。

4 専門調査員は、貴金属等に関して専門の知識を有する者のうちから、大蔵大臣が任命する。

5 委員及び専門調査員は、非常勤とする。

第二十五条 審議会の議事は、委員の過半数が出席し、出席した委員の過半数で決する。ただし、特定の事案につき特別の利害関係を有する委員は、当該事案に係る議決に加わることができない。

2 審議会は、その定めるところにより、部会を設け、その議決をもつて審議会の議決とすることができる。

3 第一項の規定は、部会の議決について準用する。

4 審議会は、審議(部会の審議を含む。)にあたり必要な場合には、参考人の出頭を求めることができる。

5 前各項に定めるもののほか、審議会の運営に関して必要な事項は、政令で定める。


 (事務の委託)

第二十六条 大蔵大臣は、大蔵省令で定めるところにより、保管貴金属等の返還に関する事務の一部を日本銀行に取り扱わせることができる。


 (罰則)

第二十七条 第五条の規定による返還の請求に関して、虚偽の申立をし、又は第十七条第一項若しくは第二十条第二項の規定に違反してその請求をした者は、一年以下の懲役又は十万円以下の罰金に処する。ただし、刑法(明治四十年法律第四十五号)に正条がある場合には、同法による。

2 法人の代表者又は法人若しくは人の代理人、使用人その他の従業者が、その法人又は人の業務又は財産に関して前項の違反行為をしたときは、その行為者を罰するほか、その法人又は人に対して同項の罰金刑を科する。


   附 則

1 この法律は、公布の日から起算して三月をこえない範囲内で政令で定める日から施行する。

2 次に掲げる法律は、廃止する。

 一 連合国占領軍の管理下から解除された貴金属等に代るべき貴金属の地金の連合国占領軍に対する引渡に関する法律

 二 接収貴金属等の数量等の報告に関する法律(昭和二十七年法律第二百九十八号)

3 代替貴金属に関する法律第一条の規定により大蔵大臣が連合国占領軍に引き渡した金の地金のうち、連合国占領軍の管理下から解除された貴金属等で同法第二条の受益者に受け取られなかつたものに代るべきものであつて、現に大蔵大臣が管理しているものは、この法律の施行の際、貴金属特別会計に帰属する。

4 この法律の規定により国に帰属した貴金属等及び同法の規定により国に返還された国有の貴金属等で一般会計に所属するものは、大蔵大臣の所管とする。ただし、各省各庁の事務又は事業の用に供する必要があるものについて、当該各省各庁の長が大蔵大臣の同意を得たときは、その後においては、この限りでない。

5 大蔵大臣は、一般会計に所属する前項の貴金属等を、無償で、貴金属特別会計の所属に移すことができる。

6 貴金属特別会計においては、当分の間、前項の規定により同会計の所属に移された貴金属等で貴金属特別会計法(昭和二十四年法律第三十四号)第一条第二項に規定する貴金属以外のものに係る経理を行うことができる。

7 大蔵大臣は、政令で定めるところにより、連合国占領軍から政府に引き渡された第二条第三項各号に掲げるもの(同項第四号に掲げる金及び銀の地金にあつては、連合国占領軍の管理下から解除された貴金属等で代替貴金属に関する法律第二条の受益者に受け取られなかつたものに代るべきものを含む。)のうち、昭和二十七年四月二十八日からこの法律の施行の日の前日までの間に返還したものの明細を、この法律の施行後すみやかに、公告しなければならない。

8 大蔵省設置法(昭和二十四年法律第百四十四号)の一部を次のように改正する。

  第五条中第三項を第四項とし、第二項の次に次の一項を加える。

 3 管財局に臨時貴金属処理部を置く。

  第十条第十一号を次のように改める。

  十一 金の買取又は売渡の基本方針に関すること。

  第十一条に次の二号を加える。

  十五 貴金属特別会計を管理すること。

  十六 接収貴金属等の処理に関すること。

  同条に次の一項を加える。

 2 臨時貴金属処理部においては、前項第十五号及び第十六号の事務をつかさどる。

  第十七条第一項の表中連合国財産補償審査会の項の次に次のように加える。

接収貴金属等処理審議会

接収貴金属等の処理に関する法律(昭和三十四年法律第百三十五号)第二十三条各号に掲げる事項に関し、調査審議すること。

(大蔵・内閣総理大臣署名) 

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