人権擁護委員法

法律第百三十九号(昭二四・五・三一)

 (この法律の目的)

第一条 この法律は、国民に保障されている基本的人権を擁護し、自由人権思想の普及高揚を図るため、全国に人権擁護委員を置き、これに適用すべき各般の基準を定め、もつて人権の擁護に遺漏なきを期することを目的とする。

 (委員の使命)

第二条 人権擁護委員は、国民の基本的人権が侵犯されることのないように監視し、若し、これが侵犯された場合には、その救済のため、すみやかに適切な処置を採るとともに、常に自由人権思想の普及高揚に努めることをもつてその使命とする。

 (委員の設置区域)

第三条 人権擁護委員は、市町村(特別区を含む。以下同じ。)の区域に置くものとする。

 (委員の定数)

第四条 人権擁護委員の定数は、全国を通じて二万人を越えないものとする。

2 各市町村ごとの人権擁護委員の定数は、その土地の人口、経済、文化その他の事情を考慮し、法務総裁が定める。

3 第十六条第二項に規定する都道府県の人権擁護委員協議会連合会は、前項の人権擁護委員の定数につき、法務総裁に意見を述べることができる。

 (委員の性格)

第五条 人権擁護委員には、国家公務員法(昭和二十二年法律第百二十号)は、適用されない。

 (委員の推薦委嘱)

第六条 人権擁護委員は、法務総裁が委嘱する。

2 前項の法務総裁の委嘱は、市町村長(特別区の区長を含む。以下同じ。)が推薦した者の中から、都道府県知事、当該都道府県の区域内の弁護士会及び当該都道府県人権擁護委員協議会連合会の意見を聞いて、行わなければならない。

3 市町村長は、法務総裁に対し、当該市町村の議会の議員の選挙権を有する住民で、人格識見高く、広く社会の実情に通じ、人権擁護について理解のある社会事業家、教育者、報道新聞の業務に携わる者等及び弁護士会その他婦人、労働者、青年等の団体であつて直接間接に人権の擁護を目的とし、又はこれを支持する団体の構成員の中から、その市町村の議会の意見を聞いて、第四条第二項の規定により定められた定数の倍数の者を推薦しなければならない。

4 人権擁護委員の推薦及び委嘱に当つては、すべての国民は、平等に取り扱われ、人種、信条、性別、社会的身分、門地又は第七条第一項第四号に規定する場合を除く外、政治的意見若しくは政治的所属関係によつて差別されてはならない。

5 法務総裁は、人権擁護委員を委嘱したときは、当該人権擁護委員の氏名と職務をその関係住民に周知せしめるよう、適当な措置を採らなければならない。

 (委員の欠格条項) 

第七条 左の各号の一に該当する者は、人権擁護委員になることはできない。

一 禁治産者及び準禁治産者

二 禁こ以上の刑に処せられ、その執行を終わるまで又は執行を受けることがなくなるまでの者

三 前号に該当する者を除く外、人権の侵犯に当る犯罪行為のあつた者

四 日本国憲法施行の日以後において、日本国憲法又はその下に成立した政府を暴力で破壊することを主張する政党その他の団体を結成し、又はこれに加入した者

2 人権擁護委員が、前項各号の一に該当するに至つたときは、当然失職する。

 (委員の給与)

第八条 人権擁護委員には、給与を支給しないものとする。

2 人権擁護委員は、政令の定めるところにより、予算の範囲内で、職務を行うために要する費用の弁償を受けることができる。

 (委員の任期)

第九条 人権擁護委員の任期は、二年とする。

 (委員の職務執行区域)

第十条 人権擁護委員は、その者を推薦した市町村長の管轄する区域内において、職務を行うものとする。但し、特に必要がある場合においては、その区域外においても、職務を行うことができる。

 (委員の職務)

第十一条 人権擁護委員の職務は、左の通りとする。

一 自由人権思想に関する啓もう及び宣伝をなすこと。

二 民間における人権擁護運動の助長に努めること。

三 人権侵犯事件につき、その救済のため、調査及び情報の収集をなし、法務府人権擁護局への報告、関係機関への勧告等適切な処置を講ずること。

四 貧困者に対し訴訟援助その他その人権擁護のため適切な救済方法を講ずること。

五 その他人権の擁護に努めること。

 (委員の服務)

第十二条 人権擁護委員は、その使命を自覚し、常に人格識見の向上とその職務を行う上に必要な法律上の知識及び技術の修得に努め、積極的態度をもつてその職務を執行しなければならない。

2 人権擁護委員は、その職務を執行するに当つては、関係者の身上に関する秘密を守り、人種、信条、性別、社会的身分、門地又は政治的意見若しくは政治的所属関係によつて、差別的又は優先的な取扱をしてはならない。

第十三条 人権擁護委員は、その職務上の地位又はその職務の執行を政党又は政治的目的のために利用してはならない。

2 人権擁護委員は、その職務を公正に行うのにふさわしくない事業を営み、又はそのような事業を営むことを目的とする会社その他の団体の役職員となつてはならない。

 (委員の監督)

第十四条 人権擁護委員は、職務に関して、法務総裁の指揮監督を受ける。

 (委員の解嘱)

第十五条 法務総裁は、人権擁護委員が、左の各号の一に該当するに至つたときは、関係都道府県人権擁護委員協議会連合会の意見を聞き、これを解嘱することができる。

一 職務上の義務に違反し、又は職務を怠つた場合

二 心身の故障のため、職務の遂行に支障があり、又はこれに堪えない場合

三 人権擁護委員たるにふさわしくない非行のあつた場合

2 前項の規定による解嘱は、当該人権擁護委員に、解嘱の理由が説明され、且つ、弁明の機会が与えられた後でなければ行うことができない。

 (協議会及び同連合会)

第十六条 人権擁護委員は、法務総裁が各都道府県の区域を数個に分けて定める区域ごとに、人権擁護委員協議会を組織する。

2 人権擁護委員協議会は、都道府県ごとに人権擁護委員協議会連合会を組織する。

 (協議会の任務)

第十七条 人権擁護委員協議会の任務は、左の通りとする。

一 人権擁護委員の職務に関する連絡及び調整をすること。

二 人権擁護委員の職務に関し必要な資料及び情報の収集をすること。

三 人権擁護委員の職務に関する研究及び意見の発表をすること。

四 人権擁護上必要がある場合に、関係機関に対し意見を述べること。

五 その他人権擁護上必要と認める事項を行うこと。

2 人権擁護委員協議会は、定期的に、又は必要に応じて、その業績を当該都道府県人権擁護委員協議会連合会に報告しなければならない。

 (連合会の任務)

第十八条 都道府県人権擁護委員協議会連合会の任務は、左の通りとする。

一 人権擁護委員協議会の任務に関する連絡及び調整をすること。

二 人権擁護委員の職務に関し必要な資料及び情報の収集をすること。

三 人権擁護委員の職務に関する研究及び意見の発表をすること。

四 人権擁護上必要がある場合に、関係機関に対し意見を述べること。

五 その他人権擁護上必要と認める事項を行うこと。

2 都道府県人権擁護委員協議会連合会は、定期的に、又は必要に応じて、その業績を法務総裁に報告しなければならない。

 (委員の表彰)

第十九条 法務総裁は、人権擁護委員、人権擁護委員協議会又は都道府県人権擁護委員協議会連合会が、職務上特別な功労があると認めるときは、これを表彰し、その業績を一般に周知せしめることに意を用いなければならない。

第二十条 この法律の実施のための手続、その他その執行について必要な事項は、命令で定める。

附 則

1 この法律は、昭和二十四年六月一日から施行する。

2 人権擁護委員令(昭和二十三年政令第百六十八号)は、廃止する。

3 この法律施行の際、現に人権擁護委員令による人権擁護委員の職にある者は、この法律の規定により人権擁護委員を委嘱されたものとみなし、その任期は、この法律施行の日から起算するものとする。

4 法務総裁は、都道府県人権擁護委員協議会連合会が組織せられるまでは、第六条第二項又は第十五条第一項の規定にかかわらず、都道府県人権擁護委員協議会連合会の意見を聞かずに、人権擁護委員の委嘱及び解嘱を行うことができる。

(法務総裁・内閣総理大臣署名)

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