賃金の支払の確保等に関する法律

法律第三十四号(昭五一・五・二七)

目次

 第一章 総則(第一条・第二条)

 第二章 貯蓄金及び賃金に係る保全措置等(第三条―第六条)

 第三章 未払賃金の立替払事業(第七条―第九条)

 第四章 雑則(第十条―第十六条)

 第五章 罰則(第十七条―第二十条)

 附則

   第一章 総則


 (目的)

第一条 この法律は、景気の変動、産業構造の変化その他の事情により企業経営が安定を欠くに至つた場合及び労働者が事業を退職する場合における賃金の支払等の適正化を図るため、貯蓄金の保全措置及び事業活動に著しい支障を生じたことにより賃金の支払を受けることが困難となつた労働者に対する保護措置その他賃金の支払の確保に関する措置を講じ、もつて労働者の生活の安定に資することを目的とする。

 (定義)

第二条 この法律において「賃金」とは、労働基準法(昭和二十二年法律第四十九号)第十一条に規定する賃金をいう。

2 この法律において「労働者」とは、労働基準法第九条に規定する労働者をいう。

   第二章 貯蓄金及び賃金に係る保全措置等

 (貯蓄金の保全措置)

第三条 事業主(国及び地方公共団体を除く。以下同じ。)は、労働者の貯蓄金をその委託を受けて管理する場合において、貯蓄金の管理が労働者の預金の受入れであるときは、労働省令で定める場合を除き、毎年三月三十一日における受入預金額(当該事業主が受け入れている預金の額をいう。以下この条において同じ。)について、同日後一年間を通ずる貯蓄金の保全措置(労働者ごとの同日における受入預金額につき、その払戻しに係る債務を銀行その他の金融機関において保証することを約する契約の締結その他の当該受入預金額の払戻しの確保に関する措置で労働省令で定めるものをいう。)を講じなければならない。

 (貯蓄金の保全措置に係る命令)

第四条 労働基準監督署長は、前条の規定に違反して事業主が貯蓄金の保全措置を講じていないときは、労働省令で定めるところにより、当該事業主に対して、期限を指定して、その是正を命ずることができる。

 (退職手当の保全措置)

第五条 事業主(中小企業退職金共済法(昭和三十四年法律第百六十号)第二条第三項に規定する退職金共済契約を締結した事業主その他の労働省令で定める事業主を除く。)は、労働契約又は労働協約、就業規則その他これらに準ずるものにおいて労働者に退職手当を支払うことを明らかにしたときは、当該退職手当の支払に充てるべき額として労働省令で定める額について、第三条の労働省令で定める措置に準ずる措置を講ずるように努めなければならない。

 (退職労働者の賃金に係る遅延利息)

第六条 事業主は、その事業を退職した労働者に係る賃金(退職手当を除く。以下この条において同じ。)の全部又は一部をその退職の日(退職の日後に支払期日が到来する賃金にあつては、当該支払期日。以下この条において同じ。)までに支払わなかつた場合には、当該労働者に対し、当該退職の日の翌日からその支払をする日までの期間について、その日数に応じ、当該退職の日の経過後まだ支払われていない賃金の額に年十四・六パーセントを超えない範囲内で政令で定める率を乗じて得た金額を遅延利息として支払わなければならない。

2 前項の規定は、賃金の支払の遅滞が天災地変その他のやむを得ない事由で労働省令で定めるものによるものである場合には、その事由の存する期間について適用しない。

   第三章 未払賃金の立替払事業

 (未払賃金の立替払)

第七条 政府は、労働者災害補償保険の適用事業に該当する事業(労働保険の保険料の徴収等に関する法律(昭和四十四年法律第八十四号)第八条の規定の適用を受ける事業にあつては、同条の規定の適用がないものとした場合における事業をいう。以下この条において同じ。)の事業主(労働省令で定める期間以上の期間にわたつて当該事業を行つていたものに限る。)が破産の宣告を受け、その他政令で定める事由に該当することとなつた場合において、当該事業に従事する労働者(船員保険法(昭和十四年法律第七十三号)第十七条の規定による被保険者である労働者を除く。)で政令で定める期間内に当該事業を退職したものに係る未払賃金(支払期日の経過後まだ支払われていない賃金をいう。以下この条及び次条において同じ。)があるときは、民法(明治二十九年法律第八十九号)第四百七十四条第一項ただし書及び第二項の規定にかかわらず、当該労働者(労働省令で定める者にあつては、労働省令で定めるところにより、未払賃金の額その他の事項について労働基準監督署長の確認を受けた者に限る。)の請求に基づき、当該未払賃金に係る債務のうち政令で定める範囲内のものを当該事業主に代わつて弁済するものとする。

 (返還等)

第八条 偽りその他不正の行為により前条の規定による未払賃金に係る債務の弁済を受けた者がある場合には、政府は、その者に対し、弁済を受けた金額の全部又は一部を返還することを命ずることができ、また、当該偽りその他不正の行為により弁済を受けた金額に相当する額以下の金額を納付することを命ずることができる。

2 前項の場合において、事業主が偽りの報告又は証明をしたため当該未払賃金に係る債務が弁済されたものであるときは、政府は、その事業主に対し、当該未払賃金に係る債務の弁済を受けた者と連帯して、同項の規定による返還又は納付を命ぜられた金額の納付を命ずることができる。

3 労働保険の保険料の徴収等に関する法律第二十六条及び第四十一条の規定は、前二項の規定により返還又は納付を命ぜられた金額について準用する。

4 政府は、第一項又は第二項の規定により返還又は納付を命ぜられた金額の返還又は納付に係る事務の実施に関して必要な限度において、労働省令で定めるところにより、第一項の規定に該当する者(同項の規定に該当すると認められる者を含む。)又は事業主に対し、未払賃金の額、賃金の支払状況その他の事項についての報告又は文書の提出を命ずることができる。

 (労働者災害補償保険法との関係)

第九条 この章に規定する事業は、労働者災害補償保険法(昭和二十二年法律第五十号)第二十三条第一項第四号に掲げる事業として行う。

   第四章 雑則

 (労働基準監督署長及び労働基準監督官)

第十条 労働基準監督署長及び労働基準監督官は、労働省令で定めるところにより、この法律の施行に関する事務をつかさどる。

第十一条 労働基準監督官は、この法律の規定に違反する罪について、刑事訴訟法(昭和二十三年法律第百三十一号)の規定による司法警察員の職務を行う。

 (報告等)

第十二条 都道府県労働基準局長、労働基準監督署長又は労働基準監督官は、別に定めるものを除くほか、この法律を施行するため必要があると認めるときは、労働省令で定めるところにより、事業主、労働者その他の関係者に対し、必要な事項を報告させ、又は出頭を命ずることができる。

 (立入検査)

第十三条 労働基準監督官は、この法律を施行すため必要があると認めるときは、事業場に立ち入り、関係者に質問し、又は帳簿、書類その他の物件を検査することができる。

2 労働基準監督署長は、第七条の確認をするため必要があると認めるときは、その職員に同条の事業主の事業場に立ち入り、関係者に質問させ、又は帳簿、書類その他の物件の検査をさせることができる。

3 前二項の場合において、労働基準監督官及び前項の職員は、その身分を示す証票を携帯し、関係者に提示しなければならない。

4 第一項及び第二項の規定による立入検査の権限は、犯罪捜査のために認められたものと解釈してはならない。

 (労働者の申告)

第十四条 労働者は、事業主にこの法律又はこれに基づく命令の規定に違反する事実があるときは、その事実を都道府県労働基準局長、労働基準監督署長又は労働基準監督官に申告して是正のため適当な措置をとるように求めることができる。

2 事業主は、前項の申告をしたことを理由として、労働者に対し、解雇その他不利益な取扱いをしてはならない。

 (労働省令への委任)

第十五条 この法律に定めるもののほか、第七条の請求の手続その他この法律の施行に関して必要な事項は、労働省令で定める。

 (船員に関する特例)

第十六条 船員法(昭和二十二年法律第百号)の適用を受ける船員に関しては、この法律に規定する都道府県労働基準局長若しくは労働基準監督署長又は労働基準監督官の権限に属する事項は、海運局長又は船員労務官が行うものとし、この法律(第七条、第八条第四項及び前条の規定を除く。)中「労働省令」とあるのは「運輸省令」と、第七条中「労働者災害補償保険の適用事業に該当する事業(労働保険の保険料の徴収等に関する法律(昭和四十四年法律第八十四号)第八条の規定の適用を受ける事業にあつては、同条の規定の適用がないものとした場合における事業をいう。以下この条において同じ。)」とあるのは「船員保険法(昭和十四年法律第七十三号)第十七条の規定による被保険者(同法第十五条第一項に規定する組合員たる被保険者を除く。)を使用する事業」と、「労働省令で定める期間」とあるのは「厚生省令で定める期間」と、「被保険者である労働者を除く」とあるのは「被保険者(同法第十五条第一項に規定する組合員たる被保険者を除く。)である労働者に限る」と、「労働省令で定める者」とあるのは「厚生省令・運輸省令で定める者」と、「労働省令で定めるところにより」とあるのは「厚生省令・運輸省令で定めるところにより」と、第八条第四項中「労働省令」とあるのは「厚生省令」と、第九条の見出し中「労働者災害補償保険法」とあるのは「船員保険法」と、同条中「労働者災害補償保険法(昭和二十二年法律第五十号)第二十三条第一項第四号に掲げる事業」とあるのは「船員保険法第五十七条ノ二第一項に規定する施設」と、前条中「労働省令」とあるのは「運輸省令(前章に規定する事項については、厚生省令)」とする。

   第五章 罰則

第十七条 事業主が第十四条第二項の規定に違反したときは、六月以下の懲役又は十万円以下の罰金に処する。

第十八条 事業主が第四条の規定による命令に違反したときは、三十万円以下の罰金に処する。

第十九条 次の各号のいずれかに該当する者は、十万円以下の罰金に処する。

 一 第八条第四項の規定による報告をせず、若しくは虚偽の報告をし、又は文書を提出せず、若しくは虚偽の記載をした文書を提出した者

 二 第十二条の規定による報告をせず、若しくは虚偽の報告をし、又は出頭しなかつた者

 三 第十三条第一項又は第二項の規定による立入り若しくは検査を拒み、妨げ、若しくは忌避し、又は質問に対して陳述をせず、若しくは虚偽の陳述をした者

第二十条 法人の代表者又は法人若しくは人の代理人、使用人その他の従業者が、その法人又は人の業務に関して、第十七条から前条までの違反行為をしたときは、行為者を罰するほか、その法人又は人に対しても、各本条の罰金刑を科する。


   附 則


 (施行期日)

第一条 この法律は、公布の日から起算して一年を超えない範囲内において、各規定につき、政令で定める日から施行する。ただし、第三章の規定並びに附則第三条及び附則第八条の規定並びにこの法律(第二章、第三章及び次条から附則第八条までを除く。)の規定中第三章に係る部分は、労働者災害補償保険法等の一部を改正する法律(昭和五十一年法律第三十二号)附則第一条第一項第三号に定める日から施行する。

 (遅延利息に関する経過措置)

第二条 第六条の規定は、同条の規定の施行の日以後に労働者が退職した場合について適用する。


 (未払賃金の立替払に関する経過措置)

第三条 第七条の規定は、附則第一条ただし書に規定する日以後に第七条の事業主が破産の宣告を受け、その他同条の政令で定める事由に該当することとなつた場合について適用する。


 (労働基準法の一部改正)

第四条 労働基準法の一部を次のように改正する。

  第十五条第一項に後段として次のように加える。

   この場合において、賃金に関する事項については、命令で定める方法により明示しなければならない。

  第百十八条の次に次の一条を加える。

 第百十八条の二 第十八条第一項又は第三十七条の規定に違反した者は、六箇月以下の徴役又は十万円以下の罰金に処する。

  第百十九条中「左の」を「次の」に改め、同条第一号中「、第十八条第一項」を削り、「第三十六条但書、第三十七条」を「第三十六条ただし書」に、「第六十一条乃至第六十三条」を「第六十一条から第六十三条まで」に、「第七十五条乃至第七十七条」を「第七十五条から第七十七条まで」に改め、同条第三号及び第四号中「基いて」を「基づいて」に改め、同条の次に次の一条を加える。

 第百十九条の二 第十八条第七項、第二十三条(賃金の支払及び貯蓄金の返還に係る部分に限る。)又は第二十四条から第二十六条までの規定に違反した者は、十万円以下の罰金に処する。

  第百二十条中「左の」を「次の」に改め、同条第一号中「、第十八条第七項」を削り、「第二十三条乃至」を「第二十三条(賃金の支払及び貯蓄金の返還に係る部分を除く。)、」に、「第三十三条第一項但書、第五十七条乃至第五十九条」を「第三十三条第一項ただし書、第五十七条から第五十九条まで」に、「第百六条乃至第百九条」を「第百六条から第百九条まで」に改め、同条第二号中「基いて」を「基づいて」に改める。


 (労働基準法の一部改正に伴う経過措置)

第五条 前条の規定の施行の日前にした同条の規定による改正前の労働基準法の規定に違反する行為に対する罰則の適用については、なお従前の例による。(船員法の一部改正)

第六条 船員法の一部を次のように改正する。

  第百二十九条の次に次の一条を加える。

 第百二十九条の二 船舶所有者が第三十四条第一項又は第六十七条第二項の規定に違反したときは、六箇月以下の徴役又は十万円以下の罰金に処する。

  第百三十条中「、第三十四条第一項」を削り、「第四十四条の二第一項第二項、第四十四条の三第一項第三項、第四十五条乃至第四十七条」を「第四十四条の二第一項若しくは第二項、第四十四条の三第一項若しくは第三項、第四十五条から第四十七条まで」に改め、「、第六十七条第二項」を削り、「第八十一条第一項乃至第三項」を「第八十一条第一項から第三項まで」に、「第九十一条乃至第九十四条」を「第九十一条から第九十四条まで」に、「基いて」を「基づいて」に改め、同条の次に次の一条を加える。

 第百三十条の二 船舶所有者が次の各号の一に該当する場合には、十万円以下の罰金に処する。

  一 第三十四条第二項、第五十三条、第五十四条又は第五十六条の規定に違反したとき。

  二 第三十四条第四項の規定による船員の請求にかかわらず、貯蓄金を返還しなかつたとき。

  第百三十一条中「左の」を「次の」に改め、同条第一号中「、第三十四条第二項、第五十三条、第五十四条、第五十六条」を削り、「第八十三条第一項第二項」を「第八十三条第一項若しくは第二項」に改め、同条第二号を削り、同条第三号を同条第二号とする。


 (船員法の一部改正に伴う経過措置)

第七条 前条の規定の施行の日前にした同条の規定による改正前の船員法の規定に違反する行為に対する罰則の適用については、なお従前の例による。


 (労働福祉事業団法の一部改正)

第八条 労働福祉事業団法(昭和三十二年法律第百二十六号)の一部を次のように改正する。

  第十九条第一項第一号中「設置及び運営」の下に「、賃金の支払の確保等に関する法律(昭和五十一年法律第三十四号)第三章に規定する事業(同法第八条に規定する業務を除く。)」を加え、同条第二項中「に掲げる施設」を「に規定する施設その他同号に規定する事業に係る施設」に改める。


 (社会保険労務士法の一部改正)

第九条 社会保険労務士法(昭和四十三年法律第八十九号)の一部を次のように改正する。

  別表第一第二十一号の前に次の一号を加える。

  二十の九 賃金の支払の確保等に関する法律(昭和五十一年法律第三十四号)


 (運輸省設置法の一部改正)

第十条 運輸省設置法(昭和二十四年法律第百五十七号)の一部を次のように改正する。

  第五十七条に次の一項を加える。

 2 前項に定めるもののほか、船員労働委員会は、運輸大臣の諮問に応じて賃金の支払の確保等に関する法律(昭和五十一年法律第三十四号)の施行又は改正に関する事項(船員に係るものに限る。)を調査審議する。


 (労働省設置法の一部改正)

第十一条 労働省設置法(昭和二十四年法律第百六十二号)の一部を次のように改正する。

  第四条第二十四号の次に次の一号を加える。

  二十四の二 賃金の支払の確保等に関する法律(昭和五十一年法律第三十四号)に基づいて、事業主、労働者その他の関係者に必要な事項を報告させ、又は出頭させること。

  第八条第一項第十四号中「ものの外」を「もののほか」に改め、「労働基準法」の下に「、賃金の支払の確保等に関する法律」を加え、同条第三項中「同項第十四号に掲げる事務のうち」の下に「賃金の支払の確保等に関する法律(第三条及び第四条の規定を除く。)、」を加える。

  第十三条第一項の表中央労働基準審議会の項中「労働基準法」の下に「、賃金の支払の確保等に関する法律」を加える。

  第十五条第一項中「労働安全衛生法」を「賃金の支払の確保等に関する法律(これに基づく命令を含む。)、労働安全衛生法」に改める。

  第十六条第一項の表地方労働基準審議会の項中「労働基準法」の下に「、賃金の支払の確保等に関する法律」を加える。

  第十七条第一項中「労働安全衛生法」を「賃金の支払の確保等に関する法律(これに基づく命令を含む。)、労働安全衛生法」に改める。

(法務・厚生・運輸・労働・内閣総理大臣署名)

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