ニツケル製錬事業助成臨時措置法
法律第二百六号(昭二六・六・七)
(目的)
第一条 この法律は、臨時にニツケルの製錬事業の助成の措置を講ずることにより、ニツケルの増産を図り、国民経済の発展に寄与することを目的とする。
(事業者の指定)
第二条 鉱石を使用するニツケルの製錬事業(以下単に「事業」という。)を行う者は、この法律に基く助成を受けようとするときは、通商産業大臣の指定を受けなければならない。
2 前項の指定を受けようとする者は、この法律の施行の日から三箇月以内に、左に掲げる事項を記載した事業計画書を添えて、通商産業大臣に申請しなければならない。
一 事業のための設備の概要
二 事業のための設備の工事設計及び工事の完成の予定期日
三 事業のため必要な資金の額及びその調達の方法
四 事業開始後三年間の生産の予定数量
五 事業開始後三年間の予想される生産に要する原価
六 事業開始の予定期日
七 鉱石の取得の計画
3 通商産業大臣は、前項の規定による申請があつた場合において、その申請が左に掲げる基準に適合していると認めるときは、指定をしなければならない。
一 当該事業が開始されることによつて、ニツケルの供給がその需要に対し著しく過剰とならないこと。
二 当該事業のため必要な設備の工事に要する費用の額が通商産業省令で定める額をこえないこと。
三 当該事業における生産に要する原価が通商産業省令で定める額をこえないこと。
四 事業開始の予定期日がこの法律の施行の日から一年以内であること。
五 当該申請をした者が事業を適確に遂行するに足りる能力を有する法人であること。
第三条 前条第一項の指定を受けた法人(以下「指定業者」という。)について合併があつたときは、合併後存続する法人又は合併により設立した法人は、指定業者の地位を承継する。
2 前項の規定により指定業者の地位を承継した者は、その事実を証する書面を添えて、遅滞なく、その旨を通商産業大臣に届け出なければならない。
第四条 指定業者は、第二条第二項第一号から第四号まで又は第六号に掲げる事項を変更しようとするときは、通商産業大臣の認可を受けなければならない。この場合においては、第二条第三項の規定を準用する。
2 指定業者は、事業のための設備の工事を開始したとき、若しくはその工事が完成したとき、事業を開始したとき、又は事業を廃止したときは、遅滞なく、その旨を通商産業大臣に届け出なければならない。
(指定の取消及び失効)
第五条 通商産業大臣は、指定業者が前条第一項、次条又は第七条第一項の規定に違反したときは、その指定を取り消すことができる。
2 通商産業大臣は、指定業者が第七条第一項の規定により積み立てた額が同項各号に掲げる額の合計額に達したとき、又はその事業を廃止したときは、その指定を取り消さなければならない。
3 第二条第一項の指定は、この法律の施行の日から四年を経過したときは、その効力を失う。
(販売価格)
第六条 指定業者は、政令で定める額をこえる価格でその生産したニツケルを販売してはならない。
(特別積立金)
第七条 指定業者は、その生産したニツケルを販売したときは、左に掲げる額の合計額(以下「積立基準額」という。)に達するまで、特別積立金として、一トンごとに政令で定める額を積み立てなければならない。
一 事業計画書に記載した設備であつて通商産業省令で定める製錬設備に該当するものの工事に要した費用の額の百分の九十に相当する額
二 事業計画書に記載した設備であつて通商産業省令で定める附帯設備に該当するものの工事に要した費用の額の百分の五十に相当する額
三 通商産業大臣が指定するニツケル鉱石の取得見込価格に事業を継続するために保有することを必要とするニツケル鉱石の数量を乗じて得た額
2 前項第三号のニツケル鉱石の数量は、ニツケル鉱石の輸入の見込及びニツケルの需給状況を考慮して、通商産業大臣が指定する。
3 指定業者は、事業のための設備の工事が完成した後、遅滞なく、工事に要した費用の額の明細書を添えて通商産業大臣に申請し、第一項第一号及び第二号に規定する費用の額の認定を受けなければならない。
(補償金)
第八条 国は、低廉且つ豊富なニツケルの輸入の見込、ニツケル鉱石の取得価格の高騰、長期にわたるニツケル鉱石の輸入の中絶の見込その他これに準ずる事由が発生したため、指定業者がこの法律の施行の日から四年以内に事業を廃止し、且つ、事業を廃止した時(以下「廃業時」という。)における前条第一項の特別積立金の額が左に掲げる額の合計額に達しないときは、予算に定める金額の範囲内において、その差額に相当する金額をその者に補償するものとする。
一 廃業時において当該指定業者が有する前条第一項第一号又は第二号に規定する設備の工事に要した費用の額からその設備を処分することにより取得すべき額を控除した残額(その設備に係る同項第一号又は第二号に規定する費用の額をこえるときは、その額)
二 廃業時において当該指定業者が有するニツケル鉱石の取得に要した費用の額からこれを処分することにより取得すべき額を控除した残額(これに係る前条第一項第三号に規定する額をこえるときは、その額)
2 前項の規定による補償金の交付は、指定業者が二以上あるときは、すべての指定業者が事業を廃止した後でなければ、してはならない。但し、この法律の施行の日から四年を経過した後は、この限りでない。
3 第一項の規定による補償金の交付を受けるべき者が二以上ある場合において、交付すべき額が予算に定める金額をこえるときは、各人に交付すべき額は、同項の規定により交付すべき額に応じて予算に定める金額をあん分して得た額とする。
(補償金に対する課税上の特例)
第九条 指定業者であつた者が前条の規定による補償金の交付を受けた場合において、その有する事業のための設備及びニツケル鉱石について、その補償金に相当する額(補償金の交付を受けた日の属する事業年度以前の事業年度において、廃業時以後、当該事業のための設備及びニツケル鉱石の一部について帳簿価額の減額又は譲渡があつたときは、その補償金の額から当該減額の額又は当該譲渡のあつた資産の譲渡直前における帳簿価額を控除した額に相当する額)の帳簿価額の減額をしたときは、その減額した額は法人税法(昭和二十二年法律第二十八号)の規定による所得の計算上損金に算入する。
2 前項の規定は、法人税法第十八条から第二十一条までの申告書に前項の規定により減額した帳簿価額の額の損金算入に関する申告の記載がない場合には、適用しない。
(報告及び立入検査)
第十条 通商産業大臣は、この法律の施行に必要な限度において、第七条第一項の特別積立金、ニツケルの生産に要した原価その他必要な事項について、指定業者から報告を徴することができる。この場合において、指定業者が報告をせず、又はその報告が虚偽であると認められるときは、通商産業大臣は、その職員に、その事務所、営業所、工場又は倉庫に立ち入り、帳簿書類その他の物件を検査させることができる。
2 前項の規定により立入検査をする職員は、その身分を示す証票を携帯し、関係人に呈示しなければならない。
3 第一項の規定による立入検査の権限は、犯罪捜査のために認められたものと解してはならない。
(聴聞)
第十一条 通商産業大臣は、第五条第一項の規定による指定の取消をしようとするときは、当該指定業者に対し、相当の期間を置いて予告をした上、公開による聴聞を行わなければならない。
2 前項の予告においては、期日、場所及び事案の内容を示さなければならない。
3 聴聞に際しては、当該指定業者及び利害関係人に対し、当該事案について、証拠を提示し、意見を述べる機会を与えなければならない。
(不服の申立)
第十二条 この法律又はこの法律に基く命令の規定による通商産業大臣の処分に不服のある者は、その旨を記載した書面をもつて、通商産業大臣に不服の申立をすることができる。
(決定)
第十三条 通商産業大臣は、前条の不服の申立があつたときは、第十一条の例により公開による聴聞をした後、文書をもつて決定をし、その写を不服の申立をした者に送付しなければならない。
(罰則)
第十四条 第十条第一項の規定による報告をせず、若しくは虚偽の報告をし、又は同項の規定による立入検査を拒み、妨げ、若しくは忌避した場合において、その行為をした指定業者の代表者又は代理人、使用人その他の従業者は、三万円以下の罰金に処する。
2 指定業者の代表者又は代理人、使用人その他の従業者が、その指定業者の業務に関し、前項の違反行為をしたときは、行為者を罰する外、その指定業者に対して同項の罰金刑を科する。但し、指定業者の代理人、使用人その他の従業者の当該違反行為を防止するため、当該業務に対し相当の注意及び監督が尽されたことの証明があつたときは、その指定業者については、この限りでない。
附 則
この法律は、公布の日から起算して十日を経過した日から施行する。
(大蔵・通商産業・内閣総理大臣署名)