滞納処分と強制執行等との手続の調整に関する法律

法律第九十四号(昭三二・五・二)

目次

 第一章 総則(第一条・第二条)

 第二章 滞納処分による差押がされている財産に対する強制執行等

  第一節 有体動産に対する強制執行等(第三条―第十一条)

  第二節 不動産又は船舶に対する強制執行等(第十二条―第二十条)

 第三章 強制執行等がされている財産に対する滞納処分

  第一節 有体動産に対する滞納処分(第二十一条―第二十八条)

  第二節 不動産又は船舶に対する滞納処分(第二十九条―第三十六条)

 第四章 雑則(第三十七条)

 附則

   第一章 総則

 (趣旨)

第一条 この法律は、滞納処分と強制執行、仮差押の執行又は競売との手続の調整を図るため、これらの手続に関する規定の特例を定めるものとする。

 (定義)

第二条 この法律において「滞納処分」とは、国税徴収法(明治三十年法律第二十一号)による滞納処分及びその例による滞納処分をいう。

2 この法律において「収税官吏等」とは、収税官吏、徴税吏員その他滞納処分を執行する権限を有する者をいう。

3 この法律において「有体動産」又は「不動産」とは、民事訴訟法(明治二十三年法律第二十九号)第六編第二章にいう有体動産又は不動産をいう。

   第二章 滞納処分による差押がされている財産に対する強制執行等

    第一節 有体動産に対する強制執行等

 (強制執行による差押)

第三条 強制執行による差押は、滞納処分による差押がされている有体動産に対してもすることができる。

2 滞納処分による差押がされている有体動産に対する強制執行による差押は、執行吏がその物を差し押える旨の書面を収税官吏等に交付することによつてする。

3 執行吏は、前項の規定による差押をしたときは、その旨を債務者に通知しなければならない。

 (競売手続の制限)

第四条 滞納処分による差押後に強制執行による差押をした有体動産については、競売その他強制執行による売却のための手続は、滞納処分による差押が解除された後でなければ、することができない。ただし、強制執行続行の決定があつたときは、この限りでない。

 (滞納処分による差押の解除時の処置等)

第五条 前条の有体動産について滞納処分による差押を解除すべきときは、収税官吏等は、その有体動産を執行吏に引き渡さなければならない。ただし、滞納処分による差押の際債権者及び債務者以外の第三者が占有していた有体動産で、その者が執行吏に引き渡すことを拒んだものについては、この限りでない。

2 前項ただし書の有体動産について滞納処分による差押が解除されたときは、強制執行による差押は、その効力を失う。

 (売却代金の残余の交付等)

第六条 第四条の有体動産の滞納処分による売却代金について滞納者に交付すべき残余が生じたときは、収税官吏等は、これを執行吏に交付しなければならない。

2 前項の規定により執行吏が交付を受けた金銭及びその交付を受けた日は、配当に関しては、それぞれ有体動産の強制執行による売得金及び競売期日とみなす。

3 第一項の売却代金の残余が生じなかつたときは、収税官吏等は、その旨を執行吏に通知しなければならない。

 (強制執行による差押の解除の方法)

第七条 第四条の有体動産に対する強制執行による差押の解除は、執行吏が差押を解除する旨の書面を収税官吏等に交付することによつてする。

 (強制執行続行の決定の申請)

第八条 差押債権者又は執行力のある正本により配当を要求する債権者は、次の場合には、第四条の有体動産について、執行裁判所に強制執行続行の決定を申請することができる。

 一 法令の規定又はこれに基く処分により滞納処分の手続が進行しないとき。

 二 前号の場合を除き、相当期間内に公売その他滞納処分による売却がされない場合において、すみやかに売却をすべきことを収税官吏等に催告したにかかわらず、その催告の効果がないとき。

 (強制執行続行の決定)

第九条 裁判所は、前条の申請があつた場合において、相当と認めるときは、強制執行を続行する旨の決定をしなければならない。

2 裁判所は、強制執行続行の決定をするには、あらかじめ収税官吏等の意見をきかなければならない。

3 強制執行続行の決定は、収税官吏等に告知することによつてその効力を生ずる。

4 強制執行続行の決定に対しては、不服を申し立てることができない。

第十条 強制執行続行の決定があつたときは、この法律の適用については、滞納処分による差押は、強制執行による差押後にされたものとみなす。

2 第五条の規定は、強制執行続行の決定があつた場合に準用する。

3 強制執行続行の決定があつたときは、収税官吏等は、滞納処分による差押に係る国税及びその滞納処分費並びに地方税その他の徴収金を徴収するには、執行吏にその交付を求めなければならない。

4 国税徴収法第二条第二項又は地方税法(昭和二十五年法律第二百二十六号)第十五条第二項の規定は、前項の規定による交付の要求があつた場合についても適用があるものとする。

 (仮差押の執行)

第十一条 第三条、第五条、第六条第一項及び第三項並びに第七条の規定は、滞納処分による差押がされている有体動産に対する仮差押の執行に関して準用する。

2 前項において準用する第六条第一項の規定により執行吏が交付を受けた金銭は、仮差押の執行がされている有体動産を他の債権のための強制執行により売却した場合における売得金とみなす。

    第二節 不動産又は船舶に対する強制執行等

 (競売開始の通知)

第十二条 競売手続開始の決定は、滞納処分による差押がされている不動産に対してもすることができる。

2 執行裁判所は、滞納処分による差押がされている不動産に対し競売手続開始の決定をしたときは、その旨を収税官吏等に通知しなければならない。

 (競売手続の制限)

第十三条 滞納処分による差押後に競売手続開始の決定をした不動産については、民事訴訟法第六百五十四条の規定による手続その他競売又は入札払のための手続は、滞納処分による差押が解除された後でなければ、することができない。ただし、強制執行続行の決定があつたときは、この限りでない。

 (滞納処分による差押の解除の通知)

第十四条 収税官吏等は、前条の不動産について滞納処分による差押を解除したときは、その旨を裁判所に通知しなければならない。

 (競売手続完結の通知)

第十五条 第十三条の不動産について競売の申立が競落を許すことなく完結したときは、裁判所は、その旨を収税官吏等に通知しなければならない。

 (競売申立登記のまつ消)

第十六条 登記官吏は、第十三条の不動産について公売処分による権利移転の登記をしたときは、競売の申立があつたことの登記をまつ消しなければならない。

 (売却代金の残余の交付等の規定の準用)

第十七条 第六条、第八条、第九条並びに第十条第一項、第三項及び第四項の規定は、第十三条の不動産に関して準用する。この場合において、第六条及び第十条第三項中「執行吏」とあるのは「裁判所」と、第六条第二項中「競売期日」とあるのは「競落期日」と読み替えるものとする。

 (仮差押の執行)

第十八条 第十二条の規定は、滞納処分による差押がされている不動産に対する仮差押の執行に関して準用する。

2 滞納処分による差押後に仮差押の執行をした不動産の滞納処分による売却代金について滞納者に交付すべき残余を生じたときは、収税官吏等は、これをその不動産に対する強制執行について管轄権を有する裁判所に交付しなければならない。

3 前項の規定により裁判所が交付を受けた金銭は、仮差押の執行がされている不動産を他の債権のための強制競売により売却した場合における売却代金とみなす。

4 裁判所は、第二項の不動産について仮差押の執行を取り消したときは、その旨を収税官吏等に通知しなければならない。

 (船舶に対する強制執行及び仮差押の執行)

第十九条 第十二条から前条までの規定は、滞納処分による差押がされている船舶で登記されるものに対する強制執行又は仮差押の執行に関して準用する。

 (競売法による競売)

第二十条 第十二条から第十七条までの規定は、滞納処分による差押がされている不動産又は船舶の競売法(明治三十一年法律第十五号)による競売に関して準用する。この場合において、第十三条中「民事訴訟法第六百五十四条の規定による手続その他」とあるのは、「競売法の規定による」と読み替えるものとする。

   第三章 強制執行等がされている財産に対する滞納処分

    第一節 有体動産に対する滞納処分

 (滞納処分による差押)

第二十一条 滞納処分による差押は、強制執行による差押がされている有体動産に対してもすることができる。

2 強制執行による差押がされている有体動産に対する滞納処分による差押は、収税官吏等がその物を差し押える旨の書面を執行吏に交付することによつてする。

3 収税官吏等は、前項の規定による差押をしたときは、その旨を滞納者に通知しなければならない。

 (公売手続の制限)

第二十二条 強制執行による差押後に滞納処分による差押をした有体動産については、公売その他滞納処分による売却のための手続は、強制執行による差押が解除された後でなければ、することができない。ただし、滞納処分続行承認の決定があつたときは、この限りでない。

 (強制執行による差押の解除時の処置)

第二十三条 前条の有体動産について強制執行による差押を解除すべきときは、執行吏は、その有体動産を収税官吏等に引き渡さなければならない。

 (滞納処分による差押の解除の方法)

第二十四条 第二十二条の有体動産に対する滞納処分による差押の解除は、収税官吏等が差押を解除する旨の書面を執行吏に交付することによつてする。

 (滞納処分続行承認の決定の請求)

第二十五条 第二十二条の有体動産について強制執行が中止又は停止されたときは、収税官吏等は、執行裁判所に滞納処分続行承認の決定を請求することができる。

 (滞納処分続行承認の決定)

第二十六条 裁判所は、前条の請求があつた場合において、相当と認めるときは、滞納処分の続行を承認する旨の決定をしなければならない。

2 滞納処分続行承認の決定は、執行吏に告知することによつてその効力を生ずる。

3 滞納処分続行承認の決定に対しては、不服を申し立てることができない。

第二十七条 滞納処分続行承認の決定があつたときは、この法律の適用については、強制執行による差押は、滞納処分による差押後にされたものとみなす。

2 第二十三条の規定は、滞納処分続行承認の決定があつた場合に準用する。

 (仮差押物に対する滞納処分)

第二十八条 第五条第一項本文、第六条第一項及び第三項、第七条並びに第十一条第二項の規定は、仮差押の執行後に滞納処分による差押をした有体動産に関して準用する。

    第二節 不動産又は船舶に対する滞納処分

 (滞納処分の通知)

第二十九条 滞納処分による差押は、競売手続開始の決定があつた不動産に対してもすることができる。

2 収税官吏等は、競売手続開始の決定があつた不動産に対し滞納処分による差押をしたときは、その旨を執行裁判所に通知しなければならない。

 (公売手続の制限)

第三十条 競売手続開始の決定後に滞納処分による差押をした不動産については、公売その他滞納処分による売却のための手続は、競売の申立が競落を許すことなく完結した後でなければ、することができない。ただし、滞納処分続行承認の決定があつたときは、この限りでない。

 (競売手続完結の通知)

第三十一条 前条の不動産について競売の申立が競落を許すことなく完結したときは、裁判所は、その旨を収税官吏等に通知しなければならない。

 (差押登記のまつ消)

第三十二条 登記官吏は、第三十条の不動産について強制競売による権利移転の登記をしたときは、滞納処分に関する差押の登記をまつ消しなければならない。

 (滞納処分続行承認の決定等の規定の準用)

第三十三条 第二十五条、第二十六条第一項及び第三項並びに第二十七条第一項の規定は、第三十条の不動産に関して準用する。

 (仮差押不動産に対する滞納処分)

第三十四条 第十八条第二項から第四項までの規定は、仮差押の執行後に滞納処分による差押をした不動産に関して準用する。

 (船舶に対する滞納処分)

第三十五条 第二十九条から前条までの規定は、強制執行又は仮差押の執行がされている船舶で登記されるものに対する滞納処分に関して準用する。

 (競売法による競売手続開始後の滞納処分)

第三十六条 第二十九条から第三十三条までの規定は、競売法による競売手続開始の決定があつた不動産又は船舶に対する滞納処分に関して準用する。

   第四章 雑則

 (政令等への委任)

第三十七条 この法律の実施のため必要な事項は、政令で定める。ただし、強制執行、仮差押の執行及び競売に関する事項は、最高裁判所が定める。

   附 則

1 この法律は、昭和三十二年十月一日から施行する。

2 第十八条及び第十九条の規定は、この法律の施行の際、不動産又は登記される船舶に対し滞納処分による押差後に仮差押の執行がされている場合についても適用する。ただし、債権者が、仮差押の執行をしたことを収税官吏等に通知すべきことを仮差押の執行をした裁判所に申し立てた場合に限る。

3 第二十八条、第三十四条及び第三十五条の規定は、この法律の施行の際、有体動産、不動産又は登記される船舶に対し仮差押の執行後に滞納処分による差押がされている場合についても適用する。ただし、債権者が、仮差押の執行をしたことを収税官吏等に申し出た場合に限る。

(内閣総理・法務・大蔵大臣署名) 

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