引揚者給付金等支給法

法律第百九号(昭三二・五・一七)

目次

 第一章 総則(第一条―第三条)

 第二章 引揚者給付金等の支給(第四条―第十四条)

 第三章 不服の申立(第十五条―第十七条)

 第四章 雑則(第十八条―第二十四条)

 附則

   第一章 総則

 (この法律の趣旨)

第一条 引揚者、その遺族及び引揚前に死亡した者の遺族には、この法律の定めるところにより給付金を支給する。

 (定義)

第二条 この法律において「引揚者」とは、次に掲げる者をいう。

 一 昭和二十年八月十五日まで引き続き六箇月以上本邦以外の地域(以下「外地」という。)に生活の本拠を有していた者(昭和十四年十二月二十二日の閣議決定満洲開拓民に関する根本方策に関する件に基く開拓民については、昭和二十年八月十五日まで引き続き外地に生活の本拠を有していた期間が六箇月未満の者を含む。以下第三号において同じ。)で、終戦に伴つて発生した事態に基く外国官憲の命令、生活手段の喪失等のやむをえない理由により同日以後本邦に引き揚げたもの

 二 昭和二十年八月九日まで引き続き六箇月以上外地に生活の本拠を有していた者で、ソヴィエト社会主義共和国連邦の参戦に伴つて発生した事態により同年同月同日以後同年同月十四日以前に本邦に引き揚げたもの

 三 昭和二十年八月十五日まで引き続き六箇月以上外地に生活の本拠を有していた者で、本邦に滞在中、終戦によつてその生活の本拠を有していた外地へもどることができなくなつたもの

 四 終戦に伴つて発生した事態により昭和二十年八月十五日以後引き続き外地に残留することを余儀なくされた者で、昭和二十七年四月二十九日以後本邦に引き揚げたもの及び当該引き続き外地に残留することを余儀なくされた者のうち、日本国との平和条約第十一条に定める裁判により拘禁された者で、同日前に本邦に引き揚げ、かつ、引き続き当該裁判により同日以後にわたつて拘禁されたもの

2 この法律の適用に関しては、「本邦」には、歯舞群島、色丹島及び厚生省令で定めるその他の島は、含まれないものとする。

 (認定)

第三条 引揚者給付金又は遺族給付金を受ける権利の認定は、これを受けようとする者の請求に基いて、厚生大臣が行う。

   第二章 引揚者給付金等の支給

 (引揚者給付金の支給)

第四条 引揚者で、昭和三十二年四月一日(同年同月二日以後本邦に引き揚げた者については、その引き揚げた日)において日本の国籍を有するものには、引揚者給付金を支給する。

 (引揚者給付金の額及び記名国債の交付)

第五条 引揚者給付金の額は、引揚者の昭和二十年八月十五日における年齢により定めた次の表の額とし、記名国債をもつて交付する。

年齢

引揚者給付金の額

五十歳以上

二八、〇〇〇円

三十歳以上五十歳未満

二〇、〇〇〇円

十八歳以上三十歳未満

一五、〇〇〇円

十八歳未満

七、〇〇〇円

2 第二条第一項第四号に掲げる者で、日本国との平和条約第十一条に定める裁判により拘禁され、又はこれと同視すべき事情の下において外地に残留することを余儀なくされていたものに支給する引揚者給付金の額は、前項の規定にかかわらず、二万八千円とする。

 (引揚者給付金を受けることができない者)

第六条 昭和三十一年分の所得税額(配偶者(婚姻の届出をしていないが、事実上婚姻関係と同様の事情にある者を含む。以下同じ。)に所得税を納付すべき所得があつた場合には、その配偶者の所得税額との合計額。以下同じ。)が八万八千二百円をこえる者及びその者の配偶者には、引揚者給付金を支給しない。ただし、昭和二十九年から昭和三十一年までの各年分の所得税額の平均額が八万八千二百円に満たない者については、この限りでない。

2 前項の所得税額とは、地方税法(昭和二十五年法律第二百二十六号)第二百九十二条第五号に規定する所得税額をいい、所得税法(昭和二十二年法律第二十七号)の施行地以外の地域において所得を得た者については、政令で定めるこれに代るべき額とする。

 (引揚者給付金を受ける権利の受継)

第七条 引揚者給付金を受ける権利を有する者が死亡した場合において、死亡した者がその死亡前に引揚者給付金の請求をしていなかつたときは、死亡した者の相続人は、自己の名で、死亡した者の引揚者給付金を請求することができる。

2 前項の場合において、同順位の相続人が数人あるときは、その一人のした引揚者給付金の請求は、全員のためその全額につきしたものとみなし、その一人に対してした引揚者給付金を受ける権利の認定は、全員に対してしたものとみなす。

3 第五条に規定する国債の記名者が死亡した場合において、同順位の相続人が数人あるときは、その一人のしたその者の死亡前に支払うべきであつた同条に規定する国債の元利金の請求又は同条に規定する国債の記名変更の請求は、全員のためその全額につきしたものとみなし、その一人に対してした同条に規定する国債の元利金の支払又は同条に規定する国債の記名変更は、全員に対してしたものとみなす。

 (遺族給付金の支給)

第八条 次に掲げる者の遺族で、昭和三十二年四月一日(第一号に掲げる者の死亡の日が同年同月二日以後であるときは、その死亡の日)において日本の国籍を有するものには、遺族給付金を支給する。

 一 昭和二十年八月十五日において外地にあつた者で、終戦に伴つて発生した事態に基く外国官憲の命令、生活手段の喪失等のやむをえない理由により本邦に引き揚げることを余儀なくされるに至つた後引き続き外地にある間に死亡したもの又は終戦に伴つて発生した事態により引き続き外地に残留することを余儀なくされている間に死亡したもの

 二 昭和二十年八月九日において外地にあつた者で、ソヴィエト社会主義共和国連邦の参戦に伴つて発生した事態により本邦に引き揚げることを余儀なくされるに至つた後同年同月十四日以前に外地において死亡したもの

 三 第二条第一項各号のいずれかに該当するに至つた後昭和三十二年三月三十一日以前に死亡した者で、死亡の当時二十五歳以上であつたもの

 (遺族給付金を受けるべき遺族の範囲)

第九条 遺族給付金を受けるべき遺族の範囲は、死亡した者の死亡の当時における配偶者、子及び父母並びに昭和二十年八月十五日(前条第二号に掲げる者に係る遺族給付金については、同年同月九日、同条第三号に掲げる者に係る遺族給付金については、死亡した者の死亡の当時)においてその者によつて生計を維持し、又はその者と生計をともにしていた孫、祖父母及び兄弟姉妹とする。

2 死亡した者の死亡の当時胎児であつた子が出生したときは、その子は、死亡した者の死亡の当時における子とみなす。

3 前項の子が、昭和三十二年四月二日以後に出生し、かつ、出生によつて日本の国籍を取得したときは、その子は、同年同月一日(死亡した者の死亡の日が同年同月二日以後であるときは、その死亡の日)において日本の国籍を有していたものとみなす。

 (遺族給付金を受けるべき遺族の順位)

第十条 遺族給付金を受けるべき遺族の順位は、次に掲げる順序による。ただし、父母については、昭和二十年八月十五日(第八条第二号に掲げる者に係る遺族給付金については、同年同月九日、同条第三号に掲げる者に係る遺族給付金については、死亡した者の死亡の当時)において当該死亡した者によつて生計を維持し、又はその者と生計をともにしていたものを先にし、同順位の父母については、養父母の父母を先にし実父母を後にし、同順位の祖父母については、養父母の父母を先にし実父母の父母を後にし、父母の養父母を先にし実父母を後にする。

 一 配偶者(死亡した者の死亡の日が昭和三十二年三月三十一日以前である場合において、その死亡の日以後同日以前に死亡した者の二親等内の血族(以下この項において「遺族」という。)以外の者と婚姻(届出をしないが事実上婚姻関係と同様の事情に入つていると認められる場合を含む。)した者及び同年四月一日において遺族以外の者の養子となつている者を除く。)

 二 子(昭和三十二年四月一日(死亡した者の死亡の日が同年同月二日以後であるときは、その死亡の日。以下この条において同じ。)において、遺族以外の者の養子となつている者を除く。)

 三 父母

 四 孫(昭和三十二年四月一日において、遺族以外の者の養子となつている者を除く。)

 五 祖父母

 六 兄弟姉妹(昭和三十二年四月一日において、遺族以外の者の養子となつている者を除く。)

 七 第二号において同号の順位から除かれている子

 八 第四号において同号の順位から除かれている孫

 九 第六号において同号の順位から除かれている兄弟姉妹

 十 第一号において同号の順位から除かれている配偶者

2 前項の規定により遺族給付金を受けるべき順位にある遺族が、昭和三十二年四月一日において生死不明であり、かつ、その日以後引き続き二年以上(その者が昭和三十二年四月一日までに二年以上生死不明であるときは、一年以上)生死不明である場合において、他に同順位者がないときは、次順位者の請求により、その次順位者(その次順位者と同順位の他の遺族があるときは、そのすべての同順位者)を遺族給付金を受けるべき順位の遺族とみなすことができる。

 (遺族給付金の額及び記名国債の交付)

第十一条 遺族給付金の額は、死亡した者一人につき次の各号に定める額とし、記名国債をもつて交付する。

 一 第八条第一号に掲げる者の遺族に支給する遺族給付金については、死亡した者の昭和二十年八月十五日における年齢、同条第二号に掲げる者の遺族に支給する遺族給付金については、死亡した者の死亡の日における年齢により定めた次の表の額

年齢

遺族給付金の額

十八歳以上

二八、〇〇〇円

十八歳未満

一五、〇〇〇円

 二 第八条第三号に掲げる者の遺族に支給する遺族給付金については、死亡した者の昭和二十年八月十五日(同年同月十四日以前に死亡した者の遺族に支給する遺族給付金については、その死亡の日)における年齢により定めた次の表の額

年齢

遺族給付金の額

五十歳以上

二八、〇〇〇円

三十歳以上五十歳未満

二〇、〇〇〇円

十八歳以上三十歳未満

一五、〇〇〇円

十八満未満

七、〇〇〇円

 (遺族給付金を受けることができない者)

第十二条 次の各号のいずれかに該当する遺族には、遺族給付金を支給しない。

 一 第六条第一項に該当する者

 二 昭和三十二年三月三十一日以前に、離縁によつて死亡した者との親族関係が終了した者

2 当該死亡した者の死亡に関し、他の法令により、戦傷病者戦没者遺族等援護法(昭和二十七年法律第百二十七号)による遺族年金又は弔慰金その他遺族給付金に相当する給付を受ける権利を取得した者がある場合には、その遺族には、遺族給付金を支給しない。

 (準用規定)

第十三条 第七条第二項の規定は、遺族給付金を受けるべき同順位の遺族が数人ある場合において、同条第一項及び第二項の規定は、遺族給付金を受ける権利を有する者が死亡した場合において、それぞれ遺族給付金の請求又はその権利の認定について準用し、同条第三項の規定は、第十一条に規定する国債の記名者が死亡した場合において準用する。

 (国債)

第十四条 第五条第一項及び第十一条の規定により交付するため、政府は、必要な額を限度として国債を発行することができる。

2 前項の規定により発行する国債は、十年以内に償還すべきものとし、その利率は、年六分とする。

3 第一項の規定により発行する国債については、政令で定める場合を除くほか、譲渡、担保権の設定その他の処分をすることができない。

4 前二項に定めるもののほか、第一項の規定によつて発行する国債に関し必要な事項は、大蔵省令で定める。

   第三章 不服の申立

 (不服の申立)

第十五条 引揚者給付金又は遺族給付金に関する処分に不服がある者は、その処分の通知を受けた日から起算して一年以内に、書面で、厚生大臣に不服の申立をすることができる。

2 前項の規定による不服の申立は、時効の中断については、裁判上の請求とみなす。

3 厚生大臣は、特にやむをえない理由があると認めるときは、第一項の期間を経過した後においても不服の申立を受理することができる。

 (裁決)

第十六条 厚生大臣は、不服の申立を受けたときは、必要な審査を行い、すみやかに裁決をし、不服の申立をした者にこれを通知しなければならない。

 (政令への委任)

第十七条 前二条に定めるもののほか、不服の申立、審査及び裁決の手続に関して必要な事項は、政令で定める。

   第四章 雑則

 (時効)

第十八条 引揚者給付金又は遺族給付金を受ける権利は、三年間行わないときは、時効によつて消滅する。

 (譲渡又は担保の禁止)

第十九条 引揚者給付金又は遺族給付金を受ける権利は、譲渡し、又は担保に供することができない。ただし、引揚者給付金を受ける権利については、引揚者が、その者と生計をともにしている配偶者、子、父母、孫、祖父母又は兄弟姉妹で引揚者給付金を受ける権利を有するものに譲渡する場合においては、この限りでない。

 (差押の禁止)

第二十条 引揚者給付金又は遺族給付金を受ける権利及び第五条又は第十一条に規定する国債は、差し押えることができない。ただし、国税徴収法(明治三十年法律第二十一号)又は国税徴収の例による場合においては、この限りでない。

 (非課税)

第二十一条 引揚者給付金、遺族給付金、第五条又は第十一条に規定する国債につき引揚者、遺族又はこれらの者の相続人が受ける利子及びこれらの者の引揚者給付金を受ける権利の譲渡による所得については、所得税を課さない。

2 引揚者給付金を受ける権利の譲渡、第五条若しくは第十一条に規定する国債の譲渡又はその国債を担保する金銭の貸借に関する書類には、印紙税を課さない。

 (国債元利金の支払)

第二十二条 第五条又は第十一条に規定する国債の元利金の支払に関する事務は、郵政大臣が取り扱うことができる。

2 郵政大臣は、前項の規定により取り扱う事務を処理する場合において、特に必要があるときは、同項の規定にかかわらず、その事務の一部を政令で定める者に委託して取り扱わせることができる。

3 郵政大臣は、前項の場合において同項の政令で定める者に対し、その支払に必要な資金を交付することができる。

4 第二項の規定による支払事務の委託事項及び前項の規定による資金交付の手続は、郵政大臣が大蔵大臣と協議して定める。

5 前三項に定めるもののほか、第一項の規定により郵政大臣が取り扱う事務について必要な事項は、郵政省令で定める。

 (権限の委任)

第二十三条 この法律により厚生大臣に属する権限は、政令で定めるところにより、都道府県知事その他政令で定める者にその一部を委任することができる。

 (省令への委任)

第二十四条 この法律に特別の規定がある場合を除くほか、この法律の実施のための手続その他その執行について必要な細則は、厚生省令で定める。

   附 則

 (施行期日)

1 この法律は、公布の日から施行する。ただし、公布の日が昭和三十二年四月二日以後であるときは、同年同月一日から適用する。

 (第五条第二項に規定する者に関する特例)

2 第五条第二項に規定する者については、第四条の規定にかかわらず、その者が日本の国籍を有しない場合においても、同条の規定による引揚者給付金を支給する。ただし、この法律の施行前に本邦に引き揚げた者については、その者が、この法律の施行の際、本邦に住所又は居所を有する場合に限る。

 (国債の発行の日)

3 第十四条第一項に規定する国債の発行の日は、昭和三十二年六月一日とする。ただし、昭和三十三年六月一日以後引揚者給付金又は遺族給付金を受ける権利を有するに至つた者に交付する国債については、その権利を有するに至つた日が六月一日以後十二月三十一日以前であるときは、その年の六月一日とし、その日が一月一日以後五月三十一日以前であるときは、その前年の六月一日とする。

 (厚生省設置法の一部改正)

4 厚生省設置法(昭和二十四年法律第百五十一号)の一部を次のように改正する。

  第五条第六十二号の次に次の一号を加える。

   六十二の二 引揚者給付金等支給法(昭和三十二年法律第百九号)の定めるところにより、引揚者給付金等を受ける権利を認定し、及び不服の申立について裁決をすること。

  第十四条の二第一項第三号の次に次の一号を加える。

  三の二 引揚者給付金等支給法を施行すること。

 (行政機関職員定員法の一部を改正する法律の一部改正)

5 行政機関職員定員法の一部を改正する法律(昭和三十二年法律第五十九号)の一部を次のように改正する。

  附則第二条の表厚生省本省の項中「二七〇人」を「二八〇人」に改める。

6 行政機関職員定員法の一部を改正する法律(昭和三十年法律第二十九号)の一部を次のように改正する。

  附則第十項の表厚生省の項中

二七〇人

 
 

二七〇人

 を

二六〇人

 
 

二八〇人

 に改める。

 (総理府設置法の一部改正)

7 総理府設置法(昭和二十四年法律第百二十七号)の一部を次のように改正する。

  第十五条第一項の表中在外財産問題審議会の項を削る。

(内閣総理・大蔵・厚生・郵政大臣署名) 

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