刑事訴訟法の一部を改正する法律
法律第百七十二号(昭二八・八・七)
刑事訴訟法(昭和二十三年法律第百三十一号)の一部を次のように改正する。
第六十条第二項但書中「第八十九条第一号又は第三号乃至第五号」を「第八十九条第一号、第三号、第四号又は第六号」に改める。
第七十一条中「勾引状」を「勾引状若しくは勾留状」に、「司法警察員」を「司法警察職員」に改める。
第七十二条中「勾引状」を「勾引状又は勾留状」に改める。
第七十三条第三項中「勾引状又は勾留状を所持しない場合においても、」を「勾引状又は勾留状を所持しないためこれを示すことができない場合において、」に改める。
第八十三条第一項中「開示の手続」を「勾留の理由の開示」に改める。
第八十四条第二項を次のように改める。
検察官又は被告人及び弁護人並びにこれらの者以外の請求者は、意見を述べることができる。但し、裁判長は、相当と認めるときは、意見の陳述に代え意見を記載した書面を差し出すべきことを命ずることができる。
第八十五条及び第八十六条中「開示の手続」を「勾留の理由の開示」に改める。
第八十九条第一号中「無期の懲役」を「無期若しくは短期一年以上の懲役」に改め、同条第五号中「氏名及び住居」を「氏名又は住居」に改め、同号を同条第六号とし、同条第四号の次に次の一号を加える。
五 被告人が、被害者その他事件の審判に必要な知識を有すると認められる者の身体若しくは財産に害を加え又はこれらの者を畏怖させる行為をすると疑うに足りる充分な理由があるとき。
第九十二条に次の一項を加える。
検察官の請求による場合を除いて、勾留を取り消す決定をするときも、前項と同様である。但し、急速を要する場合は、この限りでない。
第九十六条第一項を次のように改める。
裁判所は、左の各号の一にあたる場合には、検察官の請求により、又は職権で、決定を以て保釈又は勾留の執行停止を取り消すことができる。
一 被告人が、召喚を受け正当な理由がなく出頭しないとき。
二 被告人が逃亡し又は逃亡すると疑うに足りる相当な理由があるとき。
三 被告人が罪証を隠滅し又は罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由があるとき。
四 被告人が、被害者その他事件の審判に必要な知識を有すると認められる者の身体若しくは財産に害を加え若しくは加えようとし、又はこれらの者を畏怖させる行為をしたとき。
五 被告人が住居の制限その他裁判所の定めた条件に違反したとき。
第九十八条に次の二項を加える。
前項の書面を所持しないためこれを示すことができない場合において、急速を要するときは、同項の規定にかかわらず、検察官の指揮により、被告人に対し保釈若しくは勾留の執行停止が取り消された旨又は勾留の執行停止の期間が満了した旨を告げて、これを収監することができる。但し、その書面は、できる限り速やかにこれを示さなければならない。
第七十一条の規定は、前二項の規定による収監についてこれを準用する。
第百五十三条の次に次の一条を加える。
第百五十三条の二 勾引状の執行を受けた証人を護送する場合又は引致した場合において必要があるときは、一時最寄の警察署その他の適当な場所にこれを留置することができる。
第百六十四条に次の一項を加える。
証人は、あらかじめ旅費、日当又は宿泊料の支給を受けた場合において、正当な理由がなく、出頭せず又は宣誓若しくは証言を拒んだときは、その支給を受けた費用を返納しなければならない。
第百六十七条第二項中「留置状」を「鑑定留置状」に改め、同条第二項の次に次の二項を加える。
第一項の留置につき必要があるときは、裁判所は、被告人を収容すべき病院その他の場所の管理者の申出により、又は職権で、司法警察職員に被告人の看守を命ずることができる。
裁判所は、必要があるときは、留置の期間を延長し又は短縮することができる。
第百六十七条に第六項として次の一項を加える。
第一項の留置は、未決勾留日数の算入については、これを勾留とみなす。
第百六十七条の次に次の一条を加える。
第百六十七条の二 勾留中の被告人に対し鑑定留置状が執行されたときは、被告人が留置されている間、勾留は、その執行を停止されたものとする。
前項の場合において、前条第一項の処分が取り消され又は留置の期間が満了したときは、第九十八条の規定を準用する。
第百八十一条第一項に次の但書を加える。
但し、被告人が貧困のため訴訟費用を納付することのできないことが明らかであるときは、この限りでない。
第百八十四条中「上訴又は再審の請求」を「上訴又は再審若しくは正式裁判の請求」に、「上訴又は再審に関する費用」を「上訴、再審又は正式裁判に関する費用」に改める。
第百九十三条第一項後段を次のように改める。
この場合における指示は、捜査を適正にし、その他公訴の遂行を全うするために必要な事項に関する一般的な準則を定めることによつて行うものとする。
第百九十八条第二項中「供述を拒むことができる旨」を「自己の意思に反して供述をする必要がない旨」に改める。
第百九十九条第二項を次のように改める。
裁判官は、被疑者が罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由があると認めるときは、検察官又は司法警察員(警察官又は警察吏員たる司法警察員については、国家公安委員会、都道府県公安委員会、市町村公安委員会又は特別区公安委員会が指定する警部以上の者に限る。以下本条において同じ。)の請求により、前項の逮捕状を発する。但し、明らかに逮捕の必要がないと認めるときは、この限りでない。
第二百八条の次に次の一条を加える。
第二百八条の二 裁判官は、刑法第二編第二章乃至第四章又は第八章の罪にあたる事件については、検察官の請求により、前条第二項の規定により延長された期間を更に延長することができる。この期間の延長は、通じて五日を超えることができない。
第二百二十四条第二項に次の後段を加える。
この場合には、第百六十七条の二の規定を準用する。
第二百五十四条第一項但書を削る。
第二百五十五条中「起訴状の謄本の送達」の下に「若しくは略式命令の告知」を加える。
第二百八十六条の次に次の一条を加える。
第二百八十六条の二 被告人が出頭しなければ開廷することができない場合において、勾留されている被告人が、公判期日に召喚を受け、正当な理由がなく出頭を拒否し、監獄官吏による引致を著しく困難にしたときは、裁判所は、被告人が出頭しないでも、その期日の公判手続を行うことができる。
第二百九十一条の次に次の二条を加える。
第二百九十一条の二 被告人が、前条第二項の手続に際し、起訴状に記載された訴因について有罪である旨を陳述したときは、裁判所は、検察官、被告人及び弁護人の意見を聴き、有罪である旨の陳述のあつた訴因に限り、簡易公判手続によつて審判をする旨の決定をすることができる。但し、死刑又は無期若しくは短期一年以上の懲役若しくは禁錮にあたる事件については、この限りでない。
第二百九十一条の三 裁判所は、前条の決定があつた事件が簡易公判手続によることができないものであり、又はこれによることが相当でないものであると認めるときは、その決定を取り消さなければならない。
第二百九十二条中「前条」を「第二百九十一条」に改める。
第三百七条の次に次の一条を加える。
第三百七条の二 第二百九十一条の二の決定があつた事件については、第二百九十六条、第二百九十七条、第三百条乃至第三百二条及び第三百四条乃至前条の規定は、これを適用せず、証拠調は、公判期日において、適当と認める方法でこれを行うことができる。
第三百十五条の次に次の一条を加える。
第三百十五条の二 第二百九十一条の二の決定が取り消されたときは、公判手続を更新しなければならない。但し、検察官及び被告人又は弁護人に異議がないときは、この限りでない。
第三百二十条に次の一項を加える。
第二百九十一条の二の決定があつた事件の証拠については、前項の規定は、これを適用しない。但し、検察官、被告人又は弁護人が証拠とすることに異議を述べたものについては、この限りでない。
第三百三十九条第一項中第一号を第二号とし、以下順次一号ずつ繰り下げ、同項に第一号として次の一号を加える。
一 第二百七十一条第二項の規定により公訴の提起がその効力を失つたとき。
第三百四十四条中「第八十九条」を「第六十条第二項但書及び第八十九条」に改める。
第三百四十五条中「公訴棄却、管轄違、」を「公訴棄却(第三百三十八条第四号による場合を除く。)、」に、「判決の宣告」を「裁判の告知」に改める。
第三百五十九条中「上訴の取下」を「上訴の放棄又は取下」に改める。
第三百六十条中「被告人の同意」を「書面による被告人の同意」に、「上訴の取下」を「上訴の放棄又は取下」に改め、同条の次に次の二条を加える。
第三百六十条の二 死刑又は無期の懲役若しくは禁錮に処する判決に対する上訴は、前二条の規定にかかわらず、これを放棄することができない。
第三百六十条の三 上訴放棄の申立は、書面でこれをしなければならない。
第三百六十一条中「上訴の取下」を「上訴の放棄又は取下」に改める。
第三百六十七条中「上訴の取下」を「上訴の放棄若しくは取下」に改める。
第三百八十二条の次に次の一条を加える。
第三百八十二条の二 やむを得ない事由によつて第一審の弁論終結前に取調を請求することができなかつた証拠によつて証明することのできる事実であつて前二条に規定する控訴申立の理由があることを信ずるに足りるものは、訴訟記録及び原裁判所において取り調べた証拠に現われている事実以外の事実であつても、控訴趣意書にこれを援用することができる。
第一審の弁論終結後判決前に生じた事実であつて前二条に規定する控訴申立の理由があることを信ずるに足りるものについても、前項と同様である。
前二項の場合には、控訴趣意書に、その事実を疎明する資料を添附しなければならない。第一項の場合には、やむを得ない事由によつてその証拠の取調を請求することができなかつた旨を疎明する資料をも添附しなければならない。
第三百八十四条中「第三百七十七条乃至前条」を「第三百七十七条乃至第三百八十二条及び前条」に改める。
第三百八十六条第一項第三号及び第三百九十二条第二項中「第三百七十七条乃至第三百八十三条」を「第三百七十七条乃至第三百八十二条及び第三百八十三条」に改める。
第三百九十三条第一項但書を次のように改める。
但し、第三百八十二条の二の疎明があつたものについては、刑の量定の不当又は判決に影響を及ぼすべき事実の誤認を証明するために欠くことのできない場合に限り、これを取り調べなければならない。
第三百九十三条第二項中「前項」を「前二項」に改め、同条第一項の次に次の一項を加える。
控訴裁判所は、必要があると認めるときは、職権で、第一審判決後の刑の量定に影響を及ぼすべき情状につき取調をすることができる。
第三百九十三条に第四項として次の一項を加える。
第一項又は第二項の規定による取調をしたときは、検察官及び弁護人は、その結果に基いて弁論をすることができる。
第三百九十六条中「第三百七十七条乃至第三百八十三条」を「第三百七十七条乃至第三百八十二条及び第三百八十三条」に改める。
第三百九十七条中「第三百七十七条乃至第三百八十三条」を「第三百七十七条乃至第三百八十二条及び第三百八十三条」に改め、同条に次の一項を加える。
第三百九十三条第二項の規定による取調の結果、原判決を破棄しなければ明らかに正義に反すると認めるときは、判決で原判決を破棄することができる。
第四百五十一条第二項中「第三百三十九条第一項第三号」を「第三百三十九条第一項第四号」に改める。
第四百六十条第二項中「第三百九十三条第二項」を「第三百九十三条第三項」に改める。
第四百六十一条第二項を削り、同条の次に次の一条を加える。
第四百六十一条の二 検察官は、略式命令の請求に際し、被疑者に対し、あらかじめ、略式手続を理解させるために必要な事項を説明し、通常の規定に従い審判を受けることができる旨を告げた上、略式手続によることについて異議がないかどうかを確めなければならない。
被疑者は、略式手続によることについて異議がないときは、書面でその旨を明らかにしなければならない。
第四百六十二条に次の一項を加える。
前項の書面には、前条第二項の書面を添附しなければならない。
第四百六十三条に次の三項を加える。
検察官が、第四百六十一条の二に定める手続をせず、又は前条第二項に違反して略式命令を請求したときも、前項と同様である。
裁判所は、前二項の規定により通常の規定に従い審判をするときは、直ちに検察官にその旨を通知しなければならない。
第一項及び第二項の場合には、第二百七十一条の規定の適用があるものとする。但し、同条第二項に定める期間は、前項の通知があつた日から二箇月とする。
第四百六十三条の次に次の一条を加える。
第四百六十三条の二 前条の場合を除いて、略式命令の請求があつた日から四箇月以内に略式命令が被告人に告知されないときは、公訴の提起は、さかのぼつてその効力を失う。
前項の場合には、裁判所は、決定で、公訴を棄却しなければならない。略式命令が既に検察官に告知されているときは、略式命令を取り消した上、その決定をしなければならない。
前項の決定に対しては、即時抗告をすることができる。
第四百六十四条及び第四百六十五条第一項中「七日以内」を「十四日以内」に改める。
第四百六十七条中「第三百五十五条乃至第三百五十七条及び第三百五十九条乃至第三百六十五条」を「第三百五十五条乃至第三百五十七条、第三百五十九条、第三百六十条及び第三百六十一条乃至第三百六十五条」に改める。
第四百七十四条但書を次のように改める。
但し、検察官は、重い刑の執行を停止して、他の刑の執行をさせることができる。
第四百八十二条但書を削る。
第四百九十九条第一項中「官報で」を「政令で定める方法によつて」に改める。
第五百条第一項中「訴訟費用の負担を命ずる裁判を言い渡した裁判所に、」を「裁判所の規則の定めるところにより、」に、同条第二項中「十日」を「二十日」に改める。
附 則
1 この法律は、公布の日から起算して九十日を経過した日から施行する。
2 この附則で、「新法」とは、この法律による改正後の刑事訴訟法をいい、「旧法」とは、従前の刑事訴訟法をいう。
3 新法は、特別の定がある場合を除いては、新法施行前に生じた事項にも適用する。但し、旧法によつて生じた効力を妨げない。
4 前項但書の場合において、旧法によつてした訴訟手続が新法にこれに相当する規定があるものは、新法によつてしたものとみなす。
5 新法施行前に正式裁判の請求をした事件で新法施行後にその取下のあつたものの訴訟費用の負担については、新法施行後も、なお従前の例による。
6 新法施行の際すでに控訴趣意書の差出期間を経過した事件の控訴裁判所における事実の取調については、新法施行後も、なお旧法第三百九十三条第一項但書の規定を適用する。
7 新法施行前すでに略式命令の請求があつた事件の略式手続については、なお従前の例による。正式裁判の請求をすることができる期間についても、同様である。
8 前項前段の事件で、被告人に対し略式命令の謄本の送達がなくて新法施行前すでに略式命令の請求があつた日から二箇月を経過したものについては、公訴の提起は、さかのぼつてその効力を失つたものとする。但し、新法施行前すでに裁判所が旧法第四百六十三条の規定により通常の規定に従い審判をすることとした事件及び新法施行前すでに被告人に対し略式命令の謄本が送達された事件については、この限りでない。
9 第七項前段の事件で、新法施行の際略式命令の請求があつた日からまだ二箇月を経過していないものについては、新法第四百六十三条の二の規定の適用があるものとする。この場合には、前項但書の規定を準用する。
10 新法施行の際まだ略式命令の請求をしていない事件であつても、新法施行の際すでに検察官から被疑者に対し略式命令の請求をすることを告げているものについては、これを告げた日から七日を経過した後であつて、且つ、略式手続によることについて被疑者に異議がない場合には、新法第四百六十一条の二及び第四百六十二条第二項の規定にかかわらず、略式命令をすることができる。
(法務・内閣総理大臣署名)