労働時間の短縮の促進に関する臨時措置法
法律第九十号(平四・七・二)
(目的)
第一条 この法律は、我が国における労働時間の現状及び動向にかんがみ、労働時間短縮推進計画を策定するとともに、事業主等による労働時間の短縮に向けた自主的な努力を促進するための特別の措置を講ずることにより、労働時間の短縮の円滑な推進を図り、もって労働者のゆとりのある生活の実現と国民経済の健全な発展に資することを目的とする。
(関係者の責務)
第二条 事業主は、その雇用する労働者の労働時間に関し、その短縮を計画的に進めるため、休日数の段階的な増加その他の必要な措置を講ずるように努めなければならない。
2 事業主の団体は、その構成員である事業主の雇用する労働者の労働時間の短縮に関し、必要な助言、協力その他の援助を行うように努めなければならない。
3 事業主は、他の事業主との取引を行う場合において、当該他の事業主の講ずる労働時間の短縮に関する措置の円滑な実施を阻害することとなる取引条件を付けない等取引上必要な配慮をするように努めなければならない。
第三条 国は、労働時間の短縮について、事業主、労働者その他の関係者の自主的な努力を尊重しつつその実情に応じてこれらの者に対し必要な指導、援助等を行うとともに、これらの者その他国民一般の理解を高めるために必要な広報その他の啓発活動を行う等、労働時間の短縮を促進するために必要な施策を総合的かつ効果的に推進するように努めなければならない。
2 地方公共団体は、前項の国の施策と相まって、広報その他の啓発活動を行う等労働時間の短縮を促進するために必要な施策を推進するように努めなければならない。
(労働時間短縮推進計画の策定)
第四条 国は、労働時間の短縮を推進するための計画(以下「労働時間短縮推進計画」という。)を策定しなければならない。
2 労働時間短縮推進計画に定める事項は、次のとおりとする。
一 労働時間等(労働時間、休日及び休暇をいう。第八条第三項及び第十条第四項において同じ。)の動向に関する事項
二 労働時間の短縮の目標に関する事項
三 労働時間の短縮を推進するための事業主、労働者その他の関係者に対する指導及び援助に関する事項
四 その他労働時間の短縮の推進に関する重要事項
3 労働時間短縮推進計画は、政府の策定する経済全般に関する計画と調和するものでなければならず、かつ、事業主、労働者その他の関係者による労働時間の短縮に向けた自主的な努力を助長するように配慮して定められなければならない。
4 労働大臣は、労働時間短縮推進計画の案を作成して、閣議の決定を求めなければならない。
5 労働大臣は、労働時間短縮推進計画の案を作成する場合には、あらかじめ、関係行政機関の長と協議し、及び都道府県知事の意見を求めるとともに、中央労働基準審議会の意見を聴かなければならない。
6 労働大臣は、第四項の規定による閣議の決定があったときは、遅滞なく、労働時間短縮推進計画を公表しなければならない。
7 前三項の規定は、労働時間短縮推進計画の変更について準用する。
(要請)
第五条 労働大臣は、労働時間短縮推進計画の的確かつ円滑な実施のため必要があると認めるときは、関係団体に対し、労働時間の短縮に関する事項について、必要な要請をすることができる。
(労働時間短縮の実施体制の整備)
第六条 事業主は、事業主を代表する者及び当該事業主の雇用する労働者を代表する者を構成員とし、労働時間の短縮を図るための措置その他労働時間の短縮に関する事項を調査審議し、事業主に対し意見を述べることを目的とする全部の事業場を通じて一の又は事業場ごとの委員会を設置する等労働時間の短縮を効果的に実施するために必要な体制の整備に努めなければならない。
(労働時間短縮推進委員会の決議に係る労働基準法の適用の特例)
第七条 前条に規定する委員会のうち事業場ごとのものであって次の各号に適合するもの(以下この条において「労働時間短縮推進委員会」という。)が設置されている場合において、労働時間短縮推進委員会でその委員の全員の合意により労働基準法(昭和二十二年法律第四十九号)第三十二条の三、同法第百三十二条第一項及び第二項の規定により読み替えて適用する同法第三十二条の四第一項及び第三十二条の五第一項並びに同法第三十六条、第三十八条の二第二項及び第四項、第三十九条第五項並びに第六十四条の二第一項及び第二項の規定(これらの規定のうち、同法第三十二条の三、第三十二条の四第一項、第三十六条並びに第六十四条の二第一項及び第二項の規定にあっては労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の就業条件の整備等に関する法律(昭和六十年法律第八十八号。以下この条において「労働者派遣法」という。)第四十四条第二項の規定により読み替えて適用する場合を、労働基準法第三十八条の二第二項及び第四項の規定にあっては労働者派遣法第四十四条第五項の規定により読み替えて適用する場合を含む。以下この条において「労働時間に関する規定」という。)に規定する事項について決議が行われたときは、当該労働時間短縮推進委員会に係る事業場の使用(労働基準法第十条に規定する使用者をいう。)については、労働基準法第三十二条の三中「書面による協定」とあるのは、「書面による協定(労働時間の短縮の促進に関する臨時措置法第七条に規定する労働時間短縮推進委員会の決議を含む。第三十二条の四第三項、第三十二条の五第三項並びに第三十八条の二第三項及び第五項を除き、以下同じ。)」として、労働時間に関する規定を適用する。
一 当該委員会の委員の半数については、当該事業場に、労働者の過半数で組織する労働組合がある場合においてはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がない場合においては労働者の過半数を代表する者の推薦に基づき指名されていること。
二 当該委員会の設置について、労働省令で定めるところにより、労働基準監督署長に届け出ていること。
三 当該委員会の議事について、労働省令で定めるところにより、議事録が作成され、かつ、保存されていること。
四 前三号に掲げるもののほか、労働省令で定める要件
(労働時間短縮実施計画の承認)
第八条 同一の業種に属する二以上の事業主であって、労働時間の短縮の円滑な実施を図るため、営業時間の短縮、休業日数の増加その他の労働時間の短縮が見込まれる措置(以下「労働時間短縮促進措置」という。)を実施しようとするものは、共同して、実施しようとする労働時間短縮促進措置に関する計画(以下「労働時間短縮実施計画」という。)を作成し、これを労働大臣及び当該業種に属する事業を所管する大臣に提出して、その労働時間短縮実施計画が適当である旨の承認を受けることができる。
2 労働時間短縮実施計画には、次に掲げる事項を記載しなければならない。
一 労働時間短縮促進措置の実施により達成しようとする目標
二 労働時間短縮促進措置を実施する事業場
三 労働時間短縮促進措置の内容及びその実施時期
四 その他省令で定める事項
3 労働大臣及び当該業種に属する事業を所管する大臣は、第一項の承認の申請があった場合において、その労働時間短縮実施計画が次の各号に適合するものであると認めるときは、その承認をするものとする。
一 前項第一号に掲げる目標が同項第二号に掲げる事業場の労働者の労働時間等に関する実情に照らして適切なものであること。
二 前項第三号に掲げる事項が同項第一号に掲げる目標を確実に達成するために必要かつ適切なものであること。
三 一般消費者及び関連事業主の利益を不当に害するおそれがあるものでないこと。
四 当該労働時間短縮実施計画の実施に参加し、又はその実施から脱退することを不当に制限するものでないこと。
4 労働大臣は、前項の承認をしようとするときは、あらかじめ、中央労働基準審議会の意見を聴くものとする。
5 労働大臣は、第三項の承認をするに当たっては、同項第一号に規定する労働者の意見を聴くように努めるものとする。
(労働時間短縮実施計画の変更等)
第九条 前条第一項の承認を受けた者(以下「承認事業主」という。)は、当該承認に係る労働時間短縮実施計画を変更しようとするときは、労働大臣及び当該業種に属する事業を所管する大臣の承認を受けなければならない。
2 労働大臣及び当該業種に属する事業を所管する大臣は、前条第一項の承認をした労働時間短縮実施計画(前項の規定による変更の承認があったときは、その変更後のもの。以下「承認計画」という。)が同条第三項の基準に適合するものでなくなったと認めるときは、承認事業主に対して、当該承認計画の変更を指示し、又はその承認を取り消さなければならない。
3 前条第三項の規定は、第一項の承認について準用する。
(公正取引委員会との関係)
第十条 労働大臣及び当該業種に属する事業を所管する大臣は、第八条第一項の承認(前条第一項の規定による変更の承認を含む。以下この条において同じ。)をしようとする場合において、必要があると認めるときは、当該承認に係る申請書の写しを公正取引委員会に送付するとともに、公正取引委員会に対し、当該労働時間短縮実施計画に定める労働時間短縮促進措置に係る競争の状況に関する事項、当該労働時間短縮促進措置の実施が当該競争に及ぼす影響に関する事項その他の必要な事項について意見を述べるものとする。
2 公正取引委員会は、必要があると認めるときは、労働大臣及び当該業種に属する事業を所管する大臣に対し、前項の規定による送付に係る労働時間短縮実施計画について意見を述べるものとする。
3 公正取引委員会は、第一項の規定による送付に係る労働時間短縮実施計画であって労働大臣及び当該業種に属する事業を所管する大臣が第八条第一項の承認をしたものに定めるところに従ってする行為につき当該承認後私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(昭和二十二年法律第五十四号)の規定に違反する事実があると思料するときは、その旨を労働大臣及び当該業種に属する事業を所管する大臣に通知するものとする。
4 労働大臣及び当該業種に属する事業を所管する大臣は、前項の規定による通知を受けたときは、公正取引委員会に対し、当該承認後の労働時間等の動向及び経済的事情の変化に即して第一項に規定する事項について意見を述べることができる。
5 労働大臣及び当該業種に属する事業を所管する大臣は、第三項の規定による通知を受けた場合において、当該通知に係る承認計画が前条第二項に規定する場合に該当することとなるときは、当該承認計画につき、同項に規定する措置をとるものとする。
6 労働大臣及び当該業種に属する事業を所管する大臣は、前条第二項の規定により第一項の規定による送付に係る承認計画の承認を取り消したときは、公正取引委員会に対し、その旨を通知するものとする。
(援助等)
第十一条 労働大臣及び当該業種に属する事業を所管する大臣は、承認計画の的確な実施を確保するため、承認事業主に対し、必要な情報及び資料の提供、承認計画の実施に関する助言を行う者の派遣その他必要な援助を行うように努めるものとする。
2 労働大臣及び当該業種に属する事業を所管する大臣は、承認事業主による承認計画に定める労働時間短縮促進措置の円滑な実施を図るため特に必要があると認めるときは、当該承認事業主と取引関係がある事業主又はその団体に対し、労働時間の短縮を促進するために必要な協力を要請することができる。
(報告の徴収等)
第十二条 労働大臣及び当該業種に属する事業を所管する大臣は、承認事業主に対し、承認計画の実施状況について報告を求めることができる。
2 承認事業主が前項の規定による報告をせず、又は虚偽の報告をしたときは、労働大臣及び当該業種に属する事業を所管する大臣は、当該承認計画の承認を取り消すことができる。
3 第十条第六項の規定は、前項の規定による承認計画の承認の取消しについて準用する。この場合において、第十条第六項中「第一項」とあるのは、「第十条第一項」と読み替えるものとする。
(権限の委任)
第十三条 第八条から前条までに規定する労働大臣又は当該業種に属する事業を所管する大臣の権限は、政令で定めるところにより、その一部を都道府県労働基準局長又は地方支分部局の長若しくは都道府県知事に委任することができる。
2 前項の規定により第八条に規定する労働大臣の権限が都道府県労働基準局長に委任された場合には、同条第四項中「中央労働基準審議会」とあるのは、「地方労働基準審議会」とする。
(適用除外)
第十四条 この法律は、国家公務員及び地方公務員並びに船員法(昭和二十二年法律第百号)の適用を受ける船員については、適用しない。
附 則
(施行期日)
第一条 この法律は、公布の日から起算して三月を超えない範囲内において政令で定める日から施行する。
(この法律の廃止)
第二条 この法律は、この法律の施行の日から五年以内に廃止するものとする。
(労働基準法の一部改正)
第三条 労働基準法の一部を次のように改正する。
第九十八条第二項中「賃金の支払の確保等に関する法律(昭和五十一年法律第三十四号)」の下に「、労働時間の短縮の促進に関する臨時措置法(平成四年法律第九十号)」を、「地方労働基準審議会は賃金の支払の確保等に関する法律」の下に「、労働時間の短縮の促進に関する臨時措置法」を加える。
(社会保険労務士法の一部改正)
第四条 社会保険労務士法(昭和四十三年法律第八十九号)の一部を次のように改正する。
別表第一中第二十一号の前に次の一号を加える。
二十の十七 労働時間の短縮の促進に関する臨時措置法(平成四年法律第九十号)
(労働省設置法の一部改正)
第五条 労働省設置法(昭和二十四年法律第百六十二号)の一部を次のように改正する。
第四条第十八号の次に次の一号を加える。
十八の二 労働時間短縮推進計画の策定に関すること。
第四条第三十号中「賃金の支払の確保等に関する法律(昭和五十一年法律第三十四号)」の下に「、労働時間の短縮の促進に関する臨時措置法(平成四年法律第九十号)」を加える。
第五条第十九号の次に次の一号を加える。
十九の二 労働時間の短縮の促進に関する臨時措置法に基づいて、労働時間短縮推進計画の案を作成すること。
第七条第一項及び第八条第一項中「賃金の支払の確保等に関する法律」の下に「、労働時間の短縮の促進に関する臨時措置法」を加える。
(内閣総理大臣・大蔵・農林水産大臣・通商産業・運輸・
郵政大臣・労働・建設大臣署名)