昭和7年7月16日 閣議承認

一、客年九月満洲事変ノ勃発以来帝国ハ外交上極メテ重大ナル局面ニ遭遇シ来ツタノテアリマシテ十個月ヲ経過シマシタ今日ニ於テモ時局ノ重大性ハ愈々加ハル所アルモ何等減スル所ナキ実状テアリマス忠勇ナル皇軍ハ引続キ満洲治安回復ノ為メ匪賊討伐ニ寧日ナキ有様テアリマス又本年三月ヲ以テ建設セラレマシタ満洲国ハ漸次健全ナル発達ヲ遂ケツツアルノテアリマスカ而モ其ノ前途ハ決シテ平易ナルモノテナイト認メラルルノテアリマス一方先ニ国際連盟ノ派遣シマシタ支那調査委員ハ最近略々支那及満洲ノ実状調査ヲ終へテ其ノ使命ノ核心タル報告書ノ起草ニ入ラントシテ居ルノテアリマシテ此ノ間列国ハ引続キ異常ノ関心ヲ以テ満洲ヲ中心トスル事態ノ推移ヲ見守リツツアルノテアリマス
二、満洲ニ於ケル治安ノ回復ハ同地方内外人ノ総テノ平和的活動、建設的事業ノ前提トナリ基幹トナルヘキモノテアリマシテ各方面共一日モ速カニ右治安ノ回復ヲ見ルニ至ラムコトヲ翹望シテ居ルノテアリマス然シ乍ラ満洲ニ於ケル治安ノ回復カ実ニ容易ナラサル大事業テアリマスコトハ申ス迄モアリマセヌ幸ヒニシテ皇軍ノ絶大ナル努力ニ依リ匪賊ノ掃蕩カ着々功ヲ収メツツアルノハ御同慶ノ至リテアルト共ニ将兵ノ労苦ニ対シテハ誠ニ感謝ニ堪エナイノテアリマス我々ハ此上共皇軍ニ信頼シ之ヲ後援スルト共ニ政府及国民トシテモ右目的達成ノ為メ充分ノ努力ヲナスノ要アル次第テアリマス
三、次ニ満洲国ノ独立タルヤ予テ満洲ヲ以テ支那本部ニ於ケル内乱紛争ノ渦中ニ投スルコトニ反対シ且張家ノ悪政ヲ憎悪スルノ余リ密ニ新政ノ樹立ヲ翹望シテ居リマシタ同地方ノ要人等カ我方ノ自衛行動ノ自然ノ結果トシテ張学良政権ノ事実的解消ヲ見マシタ機会ニ乗シ満洲カ支部本部ニ対シ有スル歴史的、地理的及心理的特異性ヲ背景トシテ新国家ヲ建設シタモノテアリマシテ其ノ本質上支那内部ノ政治的分解作用ノ結果卜見ルヘキモノテアリマスカ満洲ニ対シ重大且緊密ナル特殊ノ関係ヲ有スル帝国トシマシテハ排日観念ノ浸透セル支那本部政権ノ満洲復帰ニ対シ断乎トシテ反対スルト共ニ満洲国カ速カニ健全ナル発達ヲ遂ケ強固ナル基礎ノ下ニ我国トノ親善ヲ維持セムコトヲ希望スルモノテアリマス政府ハ各般ノ事情ヲ熟慮シマシタ結果東洋永遠ノ平和保全ノ為メ帝国ニ於テ満洲国ニ承認ヲ与フルコトヲ必要ト認メ既ニ其ノ方針ヲ決定シタ次第テアリマシテ最善適当ト確信スル時期ヲ択ンテ之ヲ決行セントスルモノテアリマス
四、連盟調査委員一行ハ過去約四個月ニ亘ル支那及満洲ニ於ケル視察旅行ヲ終へ愈々報告書起草ノ段取ニ入ルニ際シ今回再度来朝シテ満洲問題ニ関スル帝国ノ所見ヲ問フ所カアツタノテアリマスカ政府ハ之ニ対シ忌憚ナク前述ノ如キ決意ノ程ヲ述ヘテ置イタ次第テアリマス
五、要之現下帝国ノ外交ハ日清、日露両戦役当時ニ勝ルトモ劣ラサル重大ナル事態ニ遭遇シテ居ルノテアリマシテ今後幾多ノ難関ヲ蔵シテ居ルコトハ想像ニ余リアルノテアリマス固ヨリ吾人ハ時局ノ前途ヲ毫モ悲観スルモノテハアリマセヌ帝国ノ立場ハ正義ニ立脚セル極メテ堂々タルモノテアリマス本大臣ハ我国民ニ於テ妄リニ軽燥焦慮スルコトナク又徒ラニ危惧逡巡スルコトナク挙国一致ノ覚悟ト大国民タル襟度ヲ以テ善処シテ行キマスルナラハ必スヤ世界ノ誤解ヲ去リ列国ノ諒解ヲ得テ帝国ノ有スル至高ノ使命ヲ果シ得へキコトヲ信シテ疑ハヌノテアリマス
六、就テハ各位ニ於テモ何卒右ノ趣旨ヲ体シテ国民ノ指導並諸般ノ措置ニ当ラレンコトヲ切望致シマス

昭和7年後半

昭和7年後半のページに戻ります

blackcat写真館もご覧ください