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対仏印支物資取得並ニ貿易方策要領

昭和15年9月24日 閣議決定

仏印支ヨリノ物資取得ノ方策トシテハ別ニ定ムル物動計画ノ実施確保ヲ中心トスル応急方策ノ外資源ノ開発ニ重点ヲ置キ、南方経済施策ノ一環タル恒久方策トシテ左ノ措置ヲ講ズルヲ要ス
  恒久方策
 一、一般的事項
  (イ) 専門的現地調査ヲ実施スルコト
   資源取得方策ヲ実施スルニ付テハ現地ノ詳細ナル実情ヲ確認スルノ要アル処、現在仏印支ニ付テハ一部ノ地域ヲ除クノ外ハ適確ナル調査資料存セザル為充分ナル開発計画ノ樹立等ニ困難ヲ感ゼリ仍テ此ノ際起業ヲ前提トシテ適確ナル調査ヲ実施スル為官民ノ専門家ヨリ成ル調査団ヲ現地ニ派遣シ詳細ナル現地調査ヲ行ハシムルノ要アルモノト認ム
  (ロ) 重要物資ニ付対日供給ノ確保方策ヲ講ズルコト
   仏印支ニ於テハ生産又ハ集荷ヲセラルル重要物資ニ付テハ本邦ニ対シ其ノ必要量ノ優先的供給ヲ保証セシムル様必要ナル措置ヲ講ズルモノトス
  (ハ) 現地ニ於テ邦人ノ企業経営ノ障害トナルベキ諸制限ヲ撤廃セシムルコト
   現在仏印支ニ於テハ左ニ掲グル如キ事項ニ付邦人ノ企業経営ヲ制限シ居レルヲ以テ之ヲ撤廃セシムルコトハ資源開発ノ前提条件タルモノトス
   1 鉱業権ノ取得 現在鉱業法ニ於テハ仏国人、同保護領人、仏国又ハ仏印支ニ本社ヲ有スル法人以外ノ者ノ鉱業権取得ヲ禁ズ
   2 鉱物資源ノ調査及探鉱 鉱業権取得ノ制限ト同様ニ制限シ居レル外事実上ノ措置ニ於テモ相当ノ制限ヲ存ス
   3 政府保留地域ノ設定 有望ナル鉱物資源ノ賦存個所ニ政府ノ保留地域アリ
   4 土地所有権其ノ他ノ制限 ゴム園、塩田其ノ他ノ工場事業場敷地ニ必要ナル土地ニ付土地所有ノ禁止其ノ他ノ制限アリ
  (ニ) 所要資材及事業送金ニ付テハ日満支総合開発計画ト緊密ナル連絡調整ヲ図リ総合的開発計画ヲ樹立シ之ハ供給ヲ確保スルコト
    資源開発ニ必要トスル資材及事業送金ニ付テハ日満支総合計画ト緊密ナル連絡調整ノ下ニ総合的開発計画ヲ樹立シ其ノ供給ニ付テハ之ヲ確保スル方策ヲ講ジテ事業遂行ニ遺憾ナカラシムルモノトス
  (ホ) 邦人企業ノ進出及事業ノ遂行ニ付適正ナル統制ヲ行フコト
    仏印支ニ於ケル全邦人企業ハ之ヲ統制シ、無用ノ競争ヲ防止シ予メ資源ノ実用ニ即シ資本、技術、経験等ノ諸点ヲ参酌スルコトトシ、各企業ノ遂行ニ付テモ現地ノ実情、対日供給等ニ鑑ミ適当ニ統制ヲ加ヘ資本、技術、資材等ヲ最モ有効ニ利用セシムルコト肝要ナリ
  (ヘ) 既存又ハ新設ノ企業ノ中重要ナルモノニ対シテハ其ノ株式ヲ取得スル等ノ方法ニ依リ合弁組織ト為シテ資本的ニ之ヲ支配スルト共ニ邦人技術者ヲ現場ニ常駐セシメ其ノ卓越セル技術ヲ以テ指導監督ヲ行ヒ事実上当該企業ヲ邦人ニ依リテ管理シ積極的ナル増産ヲ期スルコトヲ緊要トス
  (ト) 資源開発ニ必要ナル運輸、通信、港湾等ニ関スル施設ノ完備ヲ図ルコト
    仏印支ノ現状ニ鑑ミ要スレバ運輸、通信、港湾等ノ諸施設ヲ整備拡充シ、以テ物資ノ輸送ニ付万全ノ措置ヲ講ズルヲ要ス
  (チ) 試験研究機関ヲ設置スルコト
    従来仏印支ニ於ケル資源ニ関スル調査研究ハ極メテ不十分ニシテ仏本国ニ於テスラ正確ナル調査資料ヲ有セザル状態ニ鑑ミ同地方ニ於ケル資源ニ関スル試験研究機関ヲ設置シ以テ資源開発ノ枢軸タラシムルノ要アリ
 二、物資別事項
  (イ) 現存企業ヲ支配スルノ方針ニ依リ現経営者タル仏蘭西東京炭鉱会社等ノ経営ニ付要スレバ将来資本的ニ参加シ又技術的ニ指導スル等ノ方法ニ依リ之ヲ支配シ以テ出炭能率ノ向上ト対日供給ノ確保ヲ図ルノ要アリ
  (ロ) 鉄鉱
    差当ツテハ台湾拓殖株式会社ノ経営ニ係ル鉱山ノ経営ニ止ムルモノトス 尚鉄鉱資源賦存状況ニ付テハ現在ノ処調査不十分ナルヲ以テ更ニ詳密ナル調査ヲ行フ要アルモノトス
  (ハ) マンガン鉱、クローム鉱
    差当ツテハ、安南北部及トンキンニ存スル鉱山ノ開発ヲ図ルベキモノトス
  (ニ) 錫鉱及タングステン鉱
    石炭ト同様ノ方針ニ則リ現経営者タル東京錫ウルフラム会社等ノ経営ニ資本的ニ参加シ又ハ技術的ニ指導スルヲ適切トス差当ツテハ鉱石ノ儘日本ニ輸出スルコトトスルモ出鉱量増加スルニ於テハ現地ニ精錬施設ヲ設クルノ要アリ
  (ホ) 亜鉛
    錫ト同様ニ現経営者タル印度支那鉱山冶金会社等ノ諸鉱山ニ資本的ニ参加シ又ハ技術的ニ指導スルコト緊要ナリ、尚鉱石ニ付テハ錫ト同様ノ方法ヲ講ズル外現精錬施設ヲ改良拡張スルノ要アルベシ
  (ヘ) 燐灰石
    差当ツテハトンキン北部ラオカイ附近ノ権利ヲ収メ之ガ積極的開発ヲ促進スルコト緊要ナリ而シテ現在邦人側ニ於テ利権獲得ニ付競争スルヲ以テ政府ニ於テモ速カニ一元的ナル開発方針ヲ確立シテ開発ノ促進ヲ期スルモノトス
  (ト) 塩
    カナ及コーヘノ両塩田ニ対シ要スレバ我方ヨリ資本ヲ投下シ又ハ技術者ヲ派遣シテ積極的ニ其ノ改良及拡張ヲ期スルモノトス
    而シテ対日輸出数量及価格ニ付テハ先方ニ於テ専売法ヲ施行シ居ル関係上毎年交渉シ居ル現状ナルモ数量ニ付テハ長期ノ契約ヲ締結シ有利ナル条件ニテ優先的取扱ヲ為サシメ価格ニ付テハ毎年度之ヲ協定スルコトトシ尚将来邦人関係ノ生産塩ニ付テハ専売法ノ適用ヨリ除外スル等ノ措置ヲ講ゼシムルコト緊要ナリ
  (チ) 米及玉蜀黍
    日満支食糧不足ノ場合ニ於ケル米等ノ供給地ノ一トシテ本地域ノ重要ナルニ鑑ミ同地域ニ於ケル米等ノ取引ノ実権ヲ力メテ我方ニ把握スル如ク措置スルモノトス
  (リ) ゴム
    仏印支ニ於ケルゴムノ生産ハ年産約七万屯ニシテ従来殆ンド仏本国ニ輸出セラレタル処最近ニ於テハ全部対米輸出ニ向ケラレ居ル現状ナリ
    而シテ右数量ヲ確保スルトキハ本邦ノ需要額ヲ充シ得ルヲ以テ対日優先供給確保ノ方策ヲ講ズルノ要アリ。尚ゴム園ノ経営ニ関シテハゴム農園ノ獲得ヲ行ヒ仏印支ニ於ケル邦人ゴム企業進出ヲ策スルコト緊要ナリ
  (ヌ) 珪砂ノ取得ニ関シテハ現行ノ輸出関税ヲ撤廃セシムルモノトス尚積入施設等ニ付テハ更ニ改良ヲ為ス要アルモノト認メラル
  (ル) 其ノ他(綿花、漆、ヒマシ等)
    綿花、漆及ヒマシ等ノ農産物等ニ付テハ本邦ヨリ現地ニ技術者ヲ派遣シテ此ノ栽培方法ヲ指導シ品質ノ改良及生産ノ増加ヲ期スルト共ニ対日供給量ノ優先的確保ニ努ムルモノトス
    尚綿花ニ付テハ現在ノ粗放的経営方法ヲ改善シテ近代的栽培法ニ移ラシムルコト肝要ナリ

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