国立国会図書館から引用

関門海峡総合改良計画要綱

昭和14年10月13日 閣議決定

関門海峡ハ内外航路ノ幹線ニ当リ本海峡ヲ通過スル船舶ハ逐年多キヲ加ヘツツアリ然ルニ本海峡ハ潮流烈シク航路モ亦不備ナルヲ以テ海上事故ヲ惹起スルコト少カラズ加フルニ今次事変ノ勃発以来本海峡ニ於ケル船舶ノ輻輳ハ一層繁キヲ加ヘタルノミナラズ斯カル事態ハ東亜新秩序建設態勢ニ応ジ今後長期ニ亘リテ維持セラレントスルノ趨勢ニアリ更ニ艦船ノ船型ハ将来益々増大ノ傾向ニアルヲ以テ彼此併セ考量スルトキハ之等新事態ニ即応スル本海峡ノ改良ハ国防上将又産業貿易上真ニ喫緊ノコトト言ハザルベカラズ
□テ本海峡ニ於ケル下関、門司両港ノ港勢ハ累年著シキ進展ヲ見既ニ施設ノ狭隘ヲ告ゲツツアリ且又北九州ニ於ケル各種工業ノ発達ハ小倉戸畑地先ニ於ケル臨海工業地帯ノ整備ヲ必要ナラシメツツアリ而シテ叙上三者ノ整備改良ハ共ニ密接不離ノ相関関係ニアルヲ以テ之等ヲ一体トスル総合改良計画ヲ樹立シ以テ叙上各種ノ要望ヲ充足セムトス其ノ要領左ノ如シ

第一 関門海峡航路及港湾ノ改良
 以下数項ニ基キ関門海峡航路及港湾改良ノ実施計画ヲ樹立スルニ際シテハ本海峡ニ於ケル潮流ノ□□ニ鑑ミ右計画ノ遂行ニ依リ潮流ノ変動ヲ来シ因テ□□ノ著シキ□□ヲ招来セシメザル様特ニ留意スルモノトス
 一 関門海峡航路ノ改良
  I 計画概要
   (1) 本航路
    (イ) 基□航路ハ概ネ現在ノ現在ノ航路ニ依ルモ航行ノ安全其ノ他ノ事情ニ依リ必要アルトキハ適度変更スルモノトス
    (ロ) 航路幅員ハ千米トス但シ地勢ニ応ジ適宜伸縮スルモノトス
    (ハ) 航路水深ハ基本水準面以下十二米トス
   (2) 中央水道
     中央水道ハ航路ノ幅員千米水深十二米トス
  II 実施方針
    (イ) 第一期工事トシテ差当リ本航路幅員五百米(地勢上特殊ノ箇所ニ付テハ五百米以上トス)ヲ水深十二米ニ浚渫スルヲ目標トシテ昭和十五年度以降六箇年間ニ之ヲ完成スルモノトス
    (ロ) 自余ノ工事ハ情勢ノ推移ニ伴ヒ必要ニ応ジ之ヲ完成スルモノトス
 二 関門臨□地ノ□成
  I 計画概要
   小倉、戸畑地先及□府地先ヲ埋立テ港湾用地、工場敷地又ハ其ノ他ノ用地ニ充テシメ且之ニ必要ナル防波堤、埠頭其ノ他ノ港湾施設ヲ整備スルト共ニ所要ノ浚渫ヲ施スモノトス
  II 実施方針
   (イ) 第一期工事トシテ差当リ小倉、戸畑地先ノ埋立ノ一部、埠頭其ノ他ノ港湾施設ノ築造及所要ノ浚渫ヲ昭和十五年度以降四箇年間ニ、同地先埋立ノ他ノ一部ヲ同六箇年間ニ完成スルモノトス
   (ロ) 自余ノ工事ハ情勢ノ推移ニ伴ヒ必要ニ応ジ之ヲ完成スルモノトス
 三 下関港ノ修築
  I 計画概要
   既定計画中ニ含マルルモノニ付テハ当該計画ニ則ル外本港ノ現況ニ鑑ミ更ニ施設ノ適当ナル増強ヲ図ルモノトス
  II 実施方針
   (イ) 第一期工事トシテ既定計画ノ完成ヲ図ル外増強ニ係ル施設ノ一部ヲ昭和十五年度以降五箇年間ニ完成スルモノトス
   (ロ) 自余ノ工事ハ情勢ノ推移ニ伴ヒ必要ニ応ジ之ヲ完成スルモノトス
 四 門司港ノ修築
  I 計画概要
   (イ) 既定計画中ニ含マルルモノニ付テハ当該計画ニ則ルモノトス
   (ロ) 田野浦地先ニ適当ナル規模ノ港湾ヲ築造シ所要ノ施設並ニ浚渫ヲ施スモノトス
   (ハ) 葛葉地先ニ於ケル船舶係留能力ノ増強ヲ図ル目的ヲ以テ同地先ニ所要ノ施設及浚渫ヲ施スモノトス
   (ニ) 小森江以西ノ沿岸ヲ整備シ艀船溜及岸壁其ノ他ノ荷役施設ヲ施スモノトス
  II 実施方針
   (イ) 第一期工事トシテ既定計画ノ完成ヲ図ル外田野浦地先ニ於ケル港湾施設ノ一部ヲ昭和十五年度以降八箇年間ニ完成スルモノトス
   (ロ) 自余ノ工事ハ情勢ノ推移ニ伴ヒ必要ニ応ジ之ヲ完成スルモノトス
第二 航路標識及通信施設ノ整備
 本計画ニ伴フ航路標識ノ整備並ニ海底電線ノ移設其ノ他ノ整備ハ関門海峡ノ第一期改良工事ニ関係アルモノニ限リ同期間内ニ之ヲ完成セシムル様措置スルモノトス
第三 鉄道其ノ他ノ陸上施設ノ整備
 本計画ニ即応シ水陸連絡ノ為ニ必要ナル鉄道、道路、上屋其ノ他ノ陸上施設ノ整備ヲ期シ以テ水陸連絡上可及的遺憾ナカラシムル様措置スルモノトス
  尚門司港葛葉地先ニ於ケル石炭積込施設ハ本計画ニ基キ造成セラルベキ小倉地先埋立ノ完成セル場合ニ於テハ能フ限リ同地ニ移□セシムル様措置スルモノトス
第四 関門隧道ノ整備
 関門隧道ハ其ノ鉄道タルト国道タルトヲ問ハズ本計画ノ企図セル目的達成上至大ノ関係ヲ有スルヲ以テ鉄道隧道ニ付テハ現在施行中ノモノノ外更ニ昭和十五年度ヨリ新線ニ着手シタル上之ヲ昭和十八年度迄ニ完成セシムル様措置スルト共ニ国道隧道ニ付テハ既定年度ヲ繰上ゲ昭和十八年度迄ニ完成セシムル様措置スルモノトス
第五 関門海峡航路及港湾ノ管理運営
 関門海峡航路及港湾ノ管理運営ニ付テハ本計画ノ実施ニ伴ヒ一層其ノ適正ヲ期シ以テ港湾能率ノ発揮ニ努ムル目的ノ下ニ将来則ニ適当ナル総合機関ヲ設置シ可及的一元的ニ管理運営セシムル様措置スベキモ差当リ左ノ如ク措置スルモノトス
 一 現在ノ下関、門司及小倉各港ノ港域ヲ廃止シ新ニ右三港ノ港域ノ外本計画ニ基キ改良セラルベキ海峡航路ノ所要部分並ニ其ノ他ノ所要海面ヲ包含スル統一的港域ヲ設定ス
 二 前項港域内ニ於ケル船舶ノ航行並ニ繋泊ニ付テハ其ノ安全ヲ確保スル為ニ適当ナル行政的措置ヲ講ズ

了解事項
 本計画ノ実施ニ際シテハ之ニ要スル経費及資材ニ付財政上及物資動員上ノ見地ニ基キ別途考慮スルモノトス

昭和14年後半

昭和14年後半のページに戻ります

blackcat写真館もご覧ください