国立国会図書館から引用

物資活用並に消費節約の基本方策

昭和14年4月28日 閣議決定

緊迫せる国際情勢下に於て今後の事態に備へ、東亜新秩序の建設に邁進せんが為には、国力の増強こそ目前の急務である。それには戦闘遂行及び経済開発その他生産力拡充に必要なる資材を確保すると同時に、国民生活の維持、輸出の振興を図らねばならぬ。
我々は須く現下の物資需給の実情と物価抑制の重要性とを十分に認識し、全国民、各階層を通じ公私生活の全面に亘り徹底せる刷新を図り、各種物資の活用に全力を注ぐと共に極力消費の節約を期すべきである。これ日常生活、日常業務の裡に国民精神総動員を生かし、長期経済戦に耐へる国力を養ふ所以である。乃ちさきに決定せる国民精神総動員新展開の基本方針に基き物資活用並に消費節約の基本方策を定めその実行に邁進せんとするものである。
一、物資活用並に消費節約運動の展開
 (一)簡素生活の実践
 公私生活の全面的刷新を図り、質実剛健なる精神を以て長期建設に即応せる簡素生活を敢行すべく生活刷新運動を起すこと。
 (二)物資の愛用
 物資需給の現状に鑑み、物資を尊重し各種用品の流用等に努むると共に、一切の無駄を排除して物資を完全に消費するの風を奨励し、以て物の効用を最大限度に発揮せしむる為物資愛用運動を起すこと。
 (三)空閑地、荒蕪地の活用
 国家資源尊重の見地よりして空閑地、完蕪地を徒らに放置することなく 生産的勤労奉仕を促進し、植樹、開墾その他の方法により之が活用を図る運動を起すこと。
 (四)全面的消費節約
 時局の現段階に於ては軍需資材、輸入物資、輸出可能物資等の消費を極力節約すべきことは勿論、全面的なる消費節約運動を強化すること。
 (五)不急品、不用品の活用
 不急品、不用品を死蔵することなく、交換売買等の方法に依り極力その活用を図る運動を旺ならしむること。
 不急品、不用品の活用に付ては取扱業者をして団体を組織せしめ、その協力を促すと共に、交換売買等の便宜を図る為、土地の事情に応じ、公共団体、その他各種の団体に常設又は臨時の機関を設けてその実行に当らしむること。
 (六)廃品回収
 国家に必要な物資、特に鉄、非鉄金属(銅、鉛、亜鉛、錫、アルミニユーム等)、繊維質(綿花、羊毛、麻類、紙類)、ゴム類及び皮革を確保する為廃品回収運動を一層強化すること。
 廃品回収への協力に付ては主として廃品取扱業者をして之に当らしめ業者に団体を組織せしめて之を統制することヽし、青少年団体、婦人団体等の各種団体は業者をして回収せしめることが困難又は不適当なる場合に限り之に当るものとすること。
(七)金の集中
 金の政府への売却勧奨運動を旺にすると共に、例へば金装飾全廃運動の如きものを各地方別に工夫実施すること。
(八)貯蓄の実行
 貯蓄奨励運動を更に強化し、百億貯蓄の目標に向つて邁進すること。
二、運動の展開に当り特に留意すべき事項
(一)物資活用並に消費節約の実効を挙ぐる為には政府に於て財政経済の実情を充分一国民に知らしむべきである。
(二)物資活用並に消費節約の趣旨を徹底せしむるため都市、農村等の実情に応じ又対象を考慮して具体的方法を明かにすべきである。
(三)官公署は率先して物資活用並に消費節約の実を挙ぐると共に、官公吏の実践垂範が緊要である。
(四)本運動に背馳する行為、例へば買占、買溜、遊興等は時局を認識せざる行為なることを強調し、一般の自粛自戒を徹底するは勿論、之に即応して取締その他の施策を政府に於て断行すべきである。
(五)殷賑産業関係者の生活行動は本運動の成否に多大の影響あるを以て、格段の考慮と対策が必要である。
(六)本運動を徹底する為実践網の整備とその積極的活動を促すことが肝要でで(ママ)ある。
(七)物資活用並に消費節約は家庭に於ける主婦の努力工夫に俟つ所大なるを以て、特に婦人に対し積極的協力を求むる方法を講ずべきである。
(八)生産、加工、配給、販売等に携はる業者は物資活用並に消費節約の運動の趣旨に背馳するが如き行為を厳に戒しむべきは勿論、本運動をして効果あらしむる様積極的に協力すべきである。
(九)運動の実績を不断に調査検討し、是正すべきものは速に対策を講じ、不徹底の向に対しては飽く迄も実践を貫徹せしむるに努むべきである。

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