石炭対策大綱
昭和37年11月29日 閣議決定
本年四月六日の閣議決定により編成された石炭鉱業調査団からの答申に基づき政府は、石炭鉱業の近代化、合理化および雇用に対する対策を一層促進するため次の措置を講ずるものとする。
一、需要確保対策
石炭需要の確保は石炭鉱業の自立と雇用安定のための基本的な課題である、このため、石炭需要の確保には最大限の努力を払うものとし、次の措置を講ずる。
1 長期引取数量の増大
(1) 電力業界(九電力)の引取数量は、三十八年度二千五十万トン、四十二年度二千五百五十万トン、四十五年度三千万トンを目標とし、その確保を図る。
(2) 原料炭については、国内の弱粘結炭を極力優先的に使用するものとする。原料炭の今後の長期引取契約においては、鉄鋼およびガス用炭の引取数量をそれぞれ区分して定めることとし、四十二年度千四百五十万トンを目標としてその確保に努める。
(3) 以上の措置を円満に実施するため、長期引取数量の増加に伴う負担増に対しては、国において所要の措置を講ずる。
(4) 増加引取を可能ならしめるため、石炭火力発電所の建設を促進することとし、これに要する資金については、国において所要の措置を講ずる。
2 電力、鉄鋼、ガス等大口需要者以外のその他の需要の確保
(1) セメント用炭の需要低下を防止するため、強力な行政指導を行なう。
(2) 暖ちゆう房用需用炭を現状程度に維持するため、官公庁需用の優先確保措置を講ずるとともに、セントラル、ヒーティングの推進等について検討する。
(3) 国鉄用炭の需要減退を防止するため、国鉄の自家発としての石炭火力発電所の建設促進について検討する。
(4) 九電力以外の電力用炭需要の確保を図るため、産炭地域における石炭火力発電所の建設を推進する。
3 一般炭需要減退防止のため、重油ボイラー規制法の延長の可否および重油消費税の創設等について検討する。
4 流通の合理化
(1) 石炭流通の合理化対策を徹底化するため、石炭専用船を大量に建造するとともに、この運用とも関連し、貯炭、荷役、輸送の共同化を促進し、あわせて港湾および荷役施設の整備近代化を推進する。
なお、石炭運賃の軽減を図るため、石炭専用列車の運賃割引の実施について検討する
(2) 揚地暖ちゆう房用炭の価格引下げ等を図るため、流通機構の統合簡素化を進めるとともに、輸送、貯炭等について生産者商社共同の配給基地の設置を推進する。
なお、流通機構の統合簡素化に伴って必要となる転業資金については、極力融資のあつせんに努める。
(3) 電力用炭については長期引取契約の履行の確保と石炭価格の安定を図るため、代金の一手清算機関を特殊法人として設立するものとし、同時にこの機関を共同輸送その他の共同行為等、流通面の徹底的な改革推進のための中核となるよう育成する。
二、近代化合理化対策
1 増強整備の実施体制
増強整備の実施体制を進めるため、政府は、毎年度その基本となる生産構造計画を策定し、この計画の一環として合理化整備計画を地域別、炭田別に定めるが、この計画の策定にあたっては、整備計画の円滑な進行を期するため、地域別、炭田別の合理化整備計画と雇用計画とをあわせて石炭鉱業審議会に附議する。
2 炭鉱の近代化、合理化
炭鉱の近代化、合理化をはかり、生産性の向上を図るため骨格坑道の整備坑内構造の近代化および採炭、掘進、運搬、選炭の各面における坑内外施設の徹底した機械化を積極的に推進する。
3 鉱区調整
生産構造を大規模化、集約化して石炭資源の合理的な開発を行なつていくため鉱区調整を積極的に推進する。そのため、未開発炭田に限らず一般的に鉱区調整を行なうよう措置する。
4 原料炭の開発
原料炭需要は、漸次増大して行くことが想定されるが、これに対応した供給の確保を図るため現在の新鉱および増強炭鉱の育成強化を推進するとともに、新鉱の開発、調査を早急に進め、将来の需要拡大に対処する。
5 技術の研究
構内構造の近代化と坑内外施設の高度機械化のための技術の研究のほか、石炭の地下、ガス化、石炭利用の研究についても積極的に推進するものとし、そのため、現在の石炭技術研究所を拡大強化し、各研究機関間の連絡調整を密にして研究体制の合理化を図るとともに、これらの機関に対する国の助成を強化する。
6 基準作業量の設定
科学的、客観的立場から作業量の基準となるべき基準作業量にっいて調査を行ない合理的な作業体制の指標を定める。
7 第二会社の規制
石炭鉱業の第二会社化は原則として認めないこととする。ただし、雇用対策上真にやむを得ない場合において、労使双方が必要と認めるときは、この限りでない。
8 請負組夫の規制
請負作業のうち、採炭、掘進、仕繰り等の作業であつて経済的なものについては、請負夫を従事させないよう法的措置を講ずる。
二、保安確保対策
保安の確保については、徹底してこれを行なうものとし、このため、保安監督体制の整備強化、保安教育の量質両面にわたる充実、保安技術の振興を図るとともに、保安不良炭鉱に対する廃止勧告制度の活用、地すべり予想地域におけるぼた山の基盤調査等所要の措置を講ずる。
また、最近の災害多発傾向にかんがみ、重大災害の防止はもとより、頻発災害の防止にも細心の注意を払うよう徹底した保安監督を実施する。
四、炭鉱離職者対策
1 炭鉱離職者の就職確保措置
政府は、政府関係機関において、炭鉱離職者の転換職場を確保する等、所要の措置をとるとともに、政府関係金融機関の融資を受ける民間の企業に対して、炭鉱離職者の雇用を勧奨する。
2 炭鉱離職者対策の強化拡充
(1) 政府は、昭和三十七年四月一日以降の石炭鉱業合理化による炭鉱離職者を対象として、炭鉱離職者求職手帳制度を創設し、集中的に職業訓練、職業紹介を行ない、その再就職の促進を図るとともにその間の生活の途を確保するため、就職促進手当を支給することとし、このため早急に炭鉱離職者臨時措置法の改正を行なう。
(2) 職業紹介については、広域職業紹介の強化を図るとともに、職業訓練については、公共職業訓練の充実のほか、離職前訓練および委託訓練等を積極的に実施する。
なお、雇用奨励金については、その支給要件を改善し、実効の確保を期する。
3 移転就職者の住宅確保
(1) 炭鉱離職者の移転就職を容易にするため、雇用促進事業団の設置する移転就職者用宿舎を八千戸程建設するほか、炭鉱離職者を雇用する事業主に対して離職者用住宅の賃貸費用の一部を助成する。
(2) 今後建設する公営住宅の入居に際しては、その一部について、地方公共団体の協力を得て炭鉱離職者を優先的に取り扱うよう措置する。
(3) このほか、雇用促進事業団による住宅融資の推進をはかる。
4 離職金の増額
石炭鉱山整理促進交付金(非能率炭鉱の買収および保安整理の場合を含む)の対象となつた炭鉱の離職者のうち、退職金がないか、またはその額が少ない中小炭鉱の離職者に対する離職金については、最高十万円程度を加算する。
5 最低賃金制度の推進
石炭鉱業の最低賃金については、先に行なわれた中央最低賃金審議会の答申によつて措置する。
五、資金経理対策
石炭鉱業の自立と雇用安定のため、必要な資金の確保については、市中金融機関に対して積極的な協力を要請するものとするが、石炭鉱業の現状においては、資金調達が困難な実情にあることにかんがみ、次の対策を講ずる。
1 設備資金の確保
高能率炭鉱の造成を促進するため、日本開発銀行、中小企業金融公庫および石炭鉱業合理化事業団の近代化資金の融資枠の拡大を図るとともに、資金繰りの実情に合わせて償還期間の延長を行なうよう措置する。
2 設備資金の確保
非能率炭鉱の整備の円滑化と離職者に対する退職金の支払を確保するため石炭鉱業合理化事業団の整備資金の融資枠の拡大を図るとともに償還条件を原則として三年据置き五年均等償還として貸出金利を六分五厘に引下げるよう措置する。
3 既往債務の返済猶予
経理状況が著しく悪い会社について、その再建が特に必要である場合には長期整備計画を石炭鉱業審議会に諮問した上、十分な自己努力をもつてしても再建整備上必要やむを得ないと認められるときは、既往債務の返済条件の変更について関係機関にあっせんを行なう等の措置を講ずる。
4 中小炭鉱金融措置
中小炭鉱に対しては、その資金調達の実情を考慮して、中小企業金融公庫商工組合中央金庫等からの融資について、格別に配慮するとともに、中小企業金融公庫の融資限度について弾力的な運用をはかる。
5 会社経理の規制および監督
石炭鉱業の経理の適正化と経営の合理化を図るため、臨時立法措置をとり財政資金を一定額以上借り入れている企業に対し、利益金の処分の制限、経理監督、事業計画および資金計画に対する改善勧告等、所要の規制を行なう。
六、産炭地域振興対策
1 産炭地域振興計画
産炭地域振興対策の総合的かつ重点的な実施を促進するため、産炭地域振興計画を早急に樹立する。
2 産業基盤の整備
産炭地域の産業基盤整備のため、道路の建設、工業用地の造成、工業用水等の合理的開発について対策を積極化する。特に、疲弊の著しい北九州産炭地域周辺の幹線道路の建設整備を促進する。
3 企業の導入
産炭地域への鉱工業等の導入を推進する。このため、政府または政府関係機関の直営工場の設置を促進するとともに、産炭地域において新設される被服、縫製品等の工場を育成するため、可能な限り、官公需の増大につき、あつせん等を行なう。なお、同地域における大規模機械工場の誘致建設について検討する。
4 導入企業の助成
産炭地域に導入される鉱工業を助成するため、他の政府関係金融機関との調整を図りつつ産炭地域振興事業団の融資機能の強化、資金枠の拡大を図る。
5 ぼた山処理事業の実施
産炭地域の環境整備、危害防止、高年令離職者吸収等の見地からぼた山の計画的かつ合理的な処理を産炭地域振興事業団に行なわせ、鉱害の復旧、工業用地の造成に資する。
6 市町村財政に対する配慮
産炭地域市町村の財政改善については、関係行政機関においてさらに実情を調査し所要の対策を早急に樹立する。
7 市町村住民に対する配慮
石炭鉱業の合理化の推進に伴い、産炭地域における中小商工業者、農民等の困窮、農村における未処理鉱害の増加、市町村財政の窮進化等社会的影響がきわめて大となるので、中小商工業者の売掛金の処理等については、税務執行上その回収状況に応じ、実状に即するよう配意するとともに事業遂行上の所要資金については、政府関係金融機関からの融資につき、配慮を加えるものとし、かつ、農村等における鉱害復旧の促進、住民の保健福祉および準要保護児童生徒対策等について、所要の対策を早急に樹立する。
また、炭鉱の終閉山に伴ない、移転または転業を余儀なくされる中小商工業者等については、国民金融公庫からの融資について特段の配慮を加える。
七、鉱害対策
(1) 合理化整備計画の実施に伴う鉱害処理量の増大に対処するため、臨時石炭鉱害復旧法による復旧事業を促進し、また、鉱害賠償資金の調達のため特段の融資措置を講ずるとともに、鉱害賠償供託金および積立金の活用につき、検討する。
(2) 特に、閉山炭鉱の鉱害処理については、無資力鉱害に対する措置の充実および認定手続の迅速化を図るとともに、特鉱ポンプの維持管理については、実状に応じた配慮を行なう。
八、石炭対策実施体制の強化
1 石炭行政機構
石炭鉱業安定対策を総合的かつ強力に実施するため、石炭行政機構を拡充強化する。
2 臨時石炭対策本部
石炭問題を現地の実情に即して、迅速かつ適確に処理して行くため、北九州に通商産業省の附属機関として、臨時石炭対策本部をおく。
この本部においては、関係各省および政府関係機関の業務に関する連絡あつせん及びその促進をはかる。
なお、これらの円滑な処理に資するため、地元関係機関からなる石炭対策連絡協議会を設置する。
3 石炭鉱業審議会
石炭鉱業審議会を改組、強化し、石炭政策の重要事項に関する調査、審議の体制を整備し、各部会による審議体制を強化するとともに、中立委員のみをもつて構成する審査会を設ける。