暴力犯罪防止対策要綱
昭和36年2月21日 閣議決定
最近における暴力の横行は、民主主義の根底をも危うくするおそれがありまことに憂うべき傾向である。よってこれが防止、取締対策の検討、強化の方法を講ずるとともに、行政措置とあわせて必要な立法措置を行なう。
第1 行政上の措置
1 暴力を根絶するための施策を維進すること。
(1)暴力排除の国民運動の展開−刃物追放運動のような国民運動を推進するほか、言論、出版、放送、映画等各界の協力をえて、暴力を容認、助長、誘発するような表現をなくする運動を展開する等、国民一般に暴力否定の機運を醸成する方途を講ずる。
(2)総合的な暴力犯罪取り締まり体制の確立−いわゆる暴力団その他組織的暴力について各種取り締まり機関の連携を緊密にし、徹底した取り締まり措置を講ずる。
(3)量刑等の適正化に資するための方策−暴力犯罪を犯した者に対する量刑、保釈または仮釈放に関し、関係政府機関においてその適正化に資するための可能な方策を講じ、その実現をはかる。
2 順法意識を高揚し法の実効を確保すること。
(1)順法教育の徹底−学校教育、社会教育その他すべての教育の場で共同生活の秩序を重んじる教育を普及し、とくに自由を乱用してはならないとする憲法の精神を徹底する等、法を尊重する国民意識の高揚をはかる。
(2)裁判の権威の尊重−裁判批判が活発となるにつれ係層中の事件が映画、演劇、出版物等の題材となる事例はあるが、裁判をけん制し、国民にゆがんだ印象を与えることがないよう言論、出版、放送、映画等各界の自主的規制についてその協力を求める。
(3)法の実効を確保するための警察、検察、裁判の機能の強化−犯罪の早期検挙、犯人に対するじん速適切な処置が行なわれてはじめて法の実効が確保されることにかんがみ、警察の捜査力の増強、検察機能の充実および保護、矯正等の機関の充実をはかり、かつ、裁判のじん速化に資する措置を講ずる。
3 総合的な犯罪防止対策を確立すること。
(1)青少年の保護、育成のための総合的施策の推進−青少年の犯罪防止、非行青少年の補導、少年保護、福祉に関する施設の整備をはかるとともに、青少年に悪影響を与える環境の浄化、不健全な映画、演劇、放送、出版物等の排除のため関係方面の協力を求め、必要な方途を講ずる。
(2)犯罪を誘発する不良有害環境の改善−犯罪の温床となる不良生活環境の改善をはかるはか、犯罪を誘発するおそれのある場所をなくするため必要な措置を講ずる。
(3)再犯を防止するための保護、矯正施策の徹底−犯罪者の処遇に一層科学性を導入するとともに、保護、矯正に関係のある各種機関の機能を充実し、あわせて一段と民間の協力が得られるように措置する。
第2 法制上の措置
1 暴力を根絶するための法的規制の強化
悪質な暴力犯罪に対する刑の加重、殺人の扇動、集会等における凶器類の携帯等に対する法的措置ならぴに公務執行中の警察官等に対する暴力犯罪の罰則の強化を検討するほか銃砲刀剣類の所持についてその規制を強化し、あわせて警察官に所要の権限を付与する立法措置を講ずる。
2 法の実効を確保すること。
法の実効を確保する見地から検討を要する法令については、速かにその検討をすすめ改廃の措置を講ずる。
法の実効を確保するために公務により死傷した警察官等に対する特別報償制度を確立する等の措置を講ずる。
3 総合的な犯罪防止対策を確立すること。
(1)青少年の保護・育成のため総合的施策の推進−青少年の犯罪防止、非行青少年の補導、少年保護、福祉に関する法制の整備をはかる。
(2)犯罪を誘発する不良有害環境の排除−犯罪がひん発しあるいはそのおそれのある暗い街路等をなくするため必要な措置を講ずる。めいていによる暴行等を排除するため必要な施策を強化する。
(3)再犯を防止するための保護・矯正施策の充実−常習的犯罪人、犯罪性癖者等に対する保護・矯正機関の整備を考究する。
第3 暴力犯罪防止対策懇談会の開催
以上のうち急を要するものは真ちに措置するが、なお、検討を要する事項その他根本の問題については、民間の学識経験者による暴力犯罪防止対策のための懇談会を設けて検討する。