国立国会図書館から引用

訴願制度の改正について

昭和33年9月16日 閣議了解

 現行の訴願制度は、明治23年に制定された訴願法やその他各行政法規によっているため、訴願事項、訴願期間、訴願庁等について検討を要すべき点が少なくないと認められるので、左記により、早急にその改善方を講ずるものとする。
           記
1 訴願制度の改正については、行政処分の適正を確保し、国民の権利救済を全からしめ、もって行政運営の改善を図る見地に立って行うものとし、行政事件訴訟制度の改正との関連をも考慮するものとする。
2 訴願制度の改正について専門的な意見をきくため、内閣総理大臣は、学識ある者のうちから10名以内の臨時訴願制度改正委員を委嘱するものとする。
 現行訴願制度の検討を必要とする理由
第1 訴願(異議の申立、審査の請求等を含む。)
 制度の本来の趣旨は、行政の公正な運営を確保し、国民の権利救済を図ることにあることはいうまでもないが、訴願制度については、明治23年10月10日基本法として訴願法が制定され、その後訴願事項を追加するために数多くの個別法令が制定されたのであるが、これらの法令には、訴願法の定める手続によることとしているものと特別の手続を定めているものとがあるのである。
 ところで、訴願法は、右に述べたとおり旧憲法の施行前の制定に係りその後なんらの改正も施されずに推移して来ているのであって、今日訴願制度の趣旨から見て不備のあることは、否定できないところであり、また個別法令の規定する手続についても、総合的に観察すれば、その間に不備不統一の点のあることも否定できないところであって、訴願制度に関する現行法令は、今日、再検討を要する段階にあると認められる。
 他方、現行政事件訴訟特例法は、いわゆる訴願前置をとり、行政事件訴訟は、訴願を経た後でなければ提起することはできないこととされているが、現在法務省法制審議会が同法の全面的改正について検討している事情にかんがみ、訴願前置主義との関係上、訴願制度を公正かつ能率的なものとし、もって国民の権利救済を全からしめるために、現行制度の改善方を検討する必要が認められる。
第2 現行制度について検討を要する主要点
1 訴願事項を明確にすること。
 現行制度においては、いかなる行政処分に対し訴願を提起することができるかについて疑義の生ずる余地があるので、訴願事項の明確化を図る必要がある。
2 訴願庁を明確にすること。
 現行制度においては、訴願庁すなわち訴願を提起しうべき行政庁について疑義の生ずる余地があるので、訴願事項の明確化を図る必要がある。
3 訴願期間を調整すること。
 現行制度においては、訴願期間すなわち訴願を提起しうべき期間について不統一が見受けられるが、出訴期間すなわち行政事件訴訟を提起しうべき期間との均衡をも考慮し、訴願期間の合理的調整について検討する必要がある。
4 教示制度の採用の当否について検討すること。
 訴願の提起を容易にし、もって国民の権利救済を容易にするために、行政処分を受ける者に対し当該処分に対し訴願の提起が許される旨、訴願庁、訴願期間等を教示する措置を講ずべきかどうかを検討する必要がある。