国立国会図書館から引用

海外邦人の引揚に関する件

昭和27年3月18日 閣議決定

第一方針
 従来海外邦人(もとの軍人、軍属であつた朝鮮人、台湾人及び琉球出身者を含む)の引揚については、連合国軍最高司令官の日本政府宛覚書「引揚に関する基本的指今」に基づいて処理せられてきたところであるが、この指令は、平和条約の発効に伴い失効することとなるので、政府は、これらの引揚者に関し、従前の例にならい、左の要領により、その輸送、受入援護等の取扱いについて万全を期することとする。
第二要領
一、海上輸送
 (1) 集団引揚者の輸送は、帰還輸送船により、引揚者に対し無料で行なう。
 (2) 帰還輸送船の指定及び配船計画は運輸省において行なう。
 (3) 外務省は、帰還輸送船に、関係政府当局より、引揚者を受領せしめるに必要な権限を与えた政府職員を乗船せしめるものとする。
 (4) 厚生省は帰還輸送船に医師、看護婦(看護手)及び引揚指導官を乗船させ、かつ引揚者に供する食糧、飲料水、医薬品、被服、日用品等の物資を積み込まなければならない。引揚指導官は船内において、復員調査その他引揚業務を行なう。
 (5) 帰還輸送船の船長は、海上輸送の途上において、引揚者に対する給食(主食は一日六〇〇瓦とする)、保健、衛生等につき万全の処置を講ずる。
 (6) 引揚者を受領した政府職員は、関係国政府当局に提出した引揚者受領書の写し及び関係国政府当局より手交せられた文書の正本または副本を、上陸地引揚援護機関に引き渡さなければならない。
 (7) 帰還輸送船に要する経費は、国庫の負担とし、別途運輸省において関係船会社と契約を締結する。
 (8) 個別引揚については、関係国政府、日本政府、在外公館等からの通報に基づき、随時機宜の処理を講ずる。
二、上陸地における引揚者の受入処理
 (1) 検疫及び税関検査を終つた引揚者は、上陸地引揚機関に収容する。
 (2) 収容中の引揚者に対しては、できうる限り手厚く取扱い、主食は一日六〇〇瓦を給する。
 (3) 収容中の引揚者に対しては、必要な応急医療を行なう外、保健及び衛生につき万全の拠置を講ずる。
 (4) 上陸地引揚援護機関は、復員調査等を行なつた後、引揚、証明書の発給、衣料、日用品その他の応急援護金品の支給を行なう。
三、国内輸送
 (1) 上陸地引揚援護機関において受入処理を終つた引揚者の、帰郷地までの日本国有鉄道による輸送(日本国有鉄道と連絡運輸を行なう運輸機関にまたがる場合を含む)は、引揚者に対し無料で行なう。
 (2) 日本国有鉄道により、引揚者を集団鉄道運輸するに当り、特に必要あるときは、同鉄道と厚生省と協議して、計画輸送等所要の処置を講ずる。
 (3) 厚生省は、引揚者に対し、帰郷地までの車中に要する食糧を支給する。
 (4) 日本国有鉄道による輸送(日本国有鉄道と連絡運輸を行なう運輸機関にまたがる場合を含む)及び車中に支給する食糧に要する経費は国庫の負担とし、輸送に要する経費については別途厚生省において、日本国有鉄道と契約を締結する。
四、その他
 厚生省は、もと軍人、軍属であつた朝鮮人、台湾人、または琉球出身者であつて、海外より引き揚げ、そのまま日本を経由して本籍地に帰還するものに対しては、無料で上陸港までの帰還の便宜処置を講ずる。